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〈蔦谷栄一の異見私見〉「家族農業の10年」と小農権利宣言

2019年2月5日

 今年から2028年までを期間として国連による「家族農業の10年」が始まった。家族農業はFAOによる定義では「家族によって営まれるか、主として家族労働力に依拠する農林水産業」とされ、世界の農業経営体5億7000万のうち、90%の5億1300万以上が家族経営体だとされる。この家族農業を振興していくため、国連への加盟国および関係機関に対し、食料安全保障確保と貧困・飢餓の撲滅に大きな役割を果たしている家族農業に係る施策の推進や知見の共有等を求めている。
 この背景にあって「家族農業の10年」を誘導しているのが、15年に国連で採択された「持続可能な開発目標SDGs」である。貧困のない、持続的な社会の実現のために、17の目標、169のターゲットと230の指標への取組みによって「誰ひとり取り残さない」「最も遠くに取り残されている人々にこそ第一に手が届く」社会を目指す。ここで「貧困や飢餓をなくすために地域に根付き、食料を供給する家族農業の力」を発揮していくことが期待されている。このSDGsへの取組は、07年から08年の世界食料危機とリーマンショックの発生が直接の動機になったとされる。
 ところでこの「家族農業の10年」をどう理解・評価するかについてことは単純ではなく、別途昨年の12月17日の国連総会で決議された「小農と農村で働く人びとの権利に関する国連宣言(小農の権利宣言)」の流れを踏まえておくことが欠かせない。小農権利宣言は、世界の農家の9割、食料生産の8割を占める小農を正当に評価し、「食料主権」「種子の権利」「農村女性の権利保護」「労働安全や健康の権利」などを守ることを盛り込んだものである。これを国連総会に付議するため、先に同年11月に開かれた国連総会第3委員会で賛成多数で採択されてはいるものの、総会同様、米、豪等は反対、日本は棄権に回っている。
 実はこの小農権利宣言は、2000年にインドネシア農民組合がその重要性を訴え、小規模家族農民の国際的な運動組織であるビア・カンペシーナが制定を求めてきた経過がある。そこにあるのは「WTOやFTAから各国の食料と農業を守るための権利、多国籍企業による収奪から農民の土地と種子を守る権利であり、アグリビジネスなどによる様々な攻撃から小規模家族農民を守るための枠組み」を求める動きである。もろに「新自由主義イデオロギーに基づくIMFや世界銀行の構造調整政策が農村を破壊し、GATTが農産物を本格的に貿易自由化の対象にしたことに抗議し、小規模家族農民の生活と権利を守る」ことを求めている。まさに先進国が主導したこれまで続く経済・産業政策の途上国による否定である。
 国連の「家族農業の10年」は環境問題を強調することによって持続的社会形成の中に家族農業・小規模農業を位置づけることによって先進国の協調を引き出しているが、こうした流れと併行して、WTOやFTA、多国籍企業やアグリビジネスについての不満と反撃を求める声が小農権利宣言として表出されていることを見逃すわけにはいかない。
(農的社会デザイン研究所代表)

日本農民新聞 2019年2月5日号掲載

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