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日本農民新聞 2018年11月15日号

2018年11月15日

このひと

 

地域農業活性化の最前線
わがJAのTACの活動

 

JA北びわこ
代表理事理事長
田中洋輝 氏

 

 「農業者の所得増大」「農業生産の拡大」「地域農業の活性化」をめざした自己改革がJAグループあげて取り組まれているなか、地域農業の担い手に出向くJAの担当者「TAC」は、その最前線に立って地域の担い手とJAを繋ぐ活動を展開している。その活動の現状とこれからを滋賀県JA北びわこの田中洋輝代表理事理事長に聞いた。


 

農地集積で設備投資増え所得減

管内農業の現状と課題は?

 管内の水田面積は約5400haで、水稲・小麦・大豆2年3作の輪作体系の土地利用型農業が中心である。TACが訪問する担い手農家組合員は381経営体で、農家数全体に対するシェアは約10%に過ぎないが、加速的に担い手に農地が集積されており、管内水田経営面積の約70%を占める高い集積率となっている。農業者数が減少する中で、経営規模が拡大されていくため機械設備への投資が増大し、それが結果的には農業所得の減少に繋がっているという課題がある。JAではTACを中心に担い手に所得増大の取組みを提案し、実践農家を全面的にサポートしている。

 

所得増大の取組み支援をメインに

TACの現状は?

 平成19年度、営農経済部に設置した担い手推進課は、品目横断的経営安定対策の受付事務等の支援が中心であった。組合員のJA離れ、あるいはJAの組合員離れと言われるようになる中、プロ化する担い手農家の要望に応えられる専門性と出向く体制の強化を目指して、22年度TAC推進課に改組し、管理者1名と3名のTACが287経営体を対象に訪問を開始した。
 この間、担い手農家も多様化してきた。特に、所得増大の取組みを提案するようになってからのTACは、サポートのため実践農家への訪問回数が必然的に多くなり、全ての担い手への均一な訪問まで手が回らなくなってきた。
 そこで29年度からは、南・北2か所の営農経済センターに管理者と営農経済渉外を各1名ずつ置き、JAの低利用・未利用の担い手を中心に、資材の提案や農産物出荷への働きかけを積極的に行うことにした。彼らを含め担い手対応は、営農経済部営農企画課の管理者1名、TAC4名、園芸作物に対応する特産振興課の管理者1名、TAC1名が担当し、381経営体を訪問している。

 

TACは守備範囲の広いJAマン

TACの活動の特徴は?

 全国的にJAの米の集荷量は減少しているが、当JAではTACが米の集荷に無償で出向き微増を続けている。今年産も営農企画課の4人のTACが約11万袋、JA集荷量の40%程度集荷した。
 今年は9月4日に台風21号で大きな被害を受け、地元・長浜市への緊急支援要請を行うにあたり、被害状況の聴き取りと被災お見舞いでさらに訪問回数と件数が増え、TACシステムによれば9月度は訪問回数で全国1位、件数で4位となった。
 TACのメンバーは、これまでの営農経済事業部門の出身者中心から、最近では信用・共済渉外出身も入れた構成になっている。所得増大の提案に取組み、訪問回数や件数が飛躍的に伸びたことからJAと担い手の距離はかなり接近し、これまでなかった事業承継や経営管理面の相談も増えてきた。今は営農経済のみならず、何でも対応できる職員でないとTACは務まらない。“守備範囲の広いJAマン”としてTACを位置づけ、スキルアップに取組んでいる。
 TACの経験者は、営農経済部門のみならず、JAのキーマンとなる必要不可欠な人材となる。

 

生産拡大とトータルコスト削減の両方から

TAC活動の視点は?

 農業者の所得増大とは、つまるところコストの削減と販売収入の増大である。しかし、資材を1円でも安く供給し、生産物は1円でも高く販売することだけに執着すると、単協での取組みは行き詰ってしまう。「所得増大で何をやるの?」「肥料が、農薬が10a当たり数百円安くなることが所得増大なの?」と、組合員から言われるだろう。所得増大の取組みは、農業生産そのものの拡大とトータルコストの削減の両方から見いだしていかなければならない。
 それをTACは、JA青壮年部と膝を突き合わせて考えた。“稼げる場所は水田”だが、前述のように担い手への農地集積が加速し、これに対応するため、機械等の設備投資が増大し農業所得の減少に繋がっている。担い手は「今持っている機械や設備を出来る限り使いたい」「新しいものには手が回らない」「これまでもっている技術をなるべく使えるものして欲しい」と言う。
 では、米、麦、大豆の輪作体系のどこで“稼ぐ”か。主食水稲の前作に大麦の作付ける大麦跡主食水稲二毛作を提案した。新たな労働をもって新たな所得を生み出すことと、トータルコストの削減の実践で、所得増大と農業生産拡大を同時に目指し、取組みを進めてきた。

 

大麦跡水田二毛作をメインに

新たな所得を生む営農モデルのイメージは?

 大麦跡水稲二毛作をメインに、小麦単作跡そばや、水稲育苗ハウスを活用した全農のトロ箱式灌水システム「うぃずOne」の導入によるミニトマトの抑制栽培など、水田の高度利用を提案してきた。うぃずOneは28年度から3年間の実証試験を計画していたが、すでに8経営体での導入が始まっている。
 園芸品目を導入した複合経営も提案している。JAが必要な機械をレンタルする機械化一貫体系でキャベツ・タマネギを生産。育苗や収穫作業とその後の工程をJAが担うことで、30年度は17.1?まで増えている。

 

麦茶用途で所得増実証、大麦の全面転換へ

大麦跡主食用水稲二毛作の取り組み成果は?

 大麦は500kg/10aの収量、約5万円/10aの所得増大を目標に、28年産から主食用向けとして取組んだが収量が上がらず、29年産からは大幅な単収増が見込める麦茶用途に変更、栽培暦も改編し生産技術の確立に取組んだ。この3年間で大麦の収量と所得増大は概ね目標を達成した。
 また、一方で大麦跡作の主食水稲は大麦残さによる強還元障害が起きやすく、遅植えによる減収も懸念される。そこで省力化と生産費削減による所得確保を実証した。還元対策と遅植え水稲にマッチした基肥一発型の専用BB肥料も独自に開発し供給した。担い手直送規格農薬も利用。密苗の導入試験も実施し、一般普及推進のために最後の課題となった育苗箱施用剤に替わる田植同時側条施用の登録も農薬メーカーに協力を求め実現する見通しとなった。大麦跡主食水稲の生産性の維持向上とトータルコスト低減の実現に目途が立った。
 しかし、大麦栽培面積は30年産で300?を計画したが実績は111?、大麦跡主食水稲は29年産の38?から30年産は17.8?に減ってしまった。TACらが担い手からの意見をまとめると、「大麦収穫作業と水稲移植、水稲移植と小麦収穫作業の競合が原因で重労働となり取組みし難い」、またこれまでの大麦栽培の良好な結果を受けて、「転作小麦を大麦に転換してほしいとの要望」が強かった。管内の転作小麦の作付面積は約850?。縞萎縮病が蔓延し収量が低く、農家の生産意欲が減退していた。担い手が大麦跡主食水稲二毛作に取組み易い環境を整えるために、この新たな課題の克服にチャレンジする必要が生まれた。
 そこで、管内850haの小麦を大麦に転換できる規模での需要の確保に注力した。収量増、所得増のためにさらに需要の小さい麦茶用途の大麦栽培へと舵を切ったために需要量確保には困難を極めたが、長浜市と連携し麦茶用大麦の実需者の管内JA施設あとへの焙煎工場誘致に目途が立った。これで小麦の大麦への全面転換が可能になり、組合員からは2020年産での転換完了の了解を得た。(主食米)+(小麦・大豆)から、(転作大麦・大豆)+(主食米・大麦)への転換である。転換終了後の組合員収入を29年産実績値から試算すると、年間で約2億6千万円の増大が見込まれている。自ずとJAの施設利用率も向上し、事業収支も改善される。
 今年4月にJAで生産販売を開始したペットボトル麦茶「近江の麦茶」は、原料大麦の焙煎を誘致予定の実需者に委託し、市行政、組合員、地域住民等と地域農業の課題共有を目的としたシンボルアイテムとして、6次産業化へのチャレンジも開始した。
 次から次へと発生する課題を、あきらめずに一つずつ解決し続けてきた。必ずしも計画どおりには進まないが、できないことの理由を並べて何もしなければ、何も変わらない。

 

新規就農者の園芸作物で農業構造変革へ

今後の展開方向は?

 機械化一貫体系の確立による水田野菜にも取組んできた。TACは水稲より手取りが増えるこの取組みを提案するものの、大規模稲作農家にはなかなか受け入れがたい面があるという。これからは米・麦・大豆を主とした大規模経営の担い手支援と園芸作物の振興を、分けて考えていく必要があると思っている。
 この間、新たな労働力をもって新たな所得を生み出すことをスタートに、労働力支援の方策も考えてきた。どの産業も人手不足のこの時代に、潤沢な労働力支援を提供することは物理的に難しいとも考える。JAが持つ施設や機能をさらに有効に使ってもらうことを考えたい。例えば、作業競合の多い米・麦・大豆は、JAの育苗施設からの苗供給をはじめ、収穫後の作業もJA乾燥調製施設で引き受けることで、組合員の作業負担を削減し、農家がさらなる規模拡大に取り組めるようにしたい。
 しかし、一方で米・麦・大豆主体の管内の担い手の平均年齢は65歳。10年後の地域農業のあるべき姿を市と共有し、新しい農業者を育てる必要がある。そこで、市行政とも連携し農地中間管理機構で経営基盤を確保し、新規就農者向けに園芸作物を提案していくことで、組合員の平均年齢の引き下げを図り、米・麦・大豆にあまりにも偏った地域農業の生産構造を少しずつ変えていこうとチャレンジしている。
 今年度で、28年度からの地域農業振興計画が終わる。31年度からの第7次計画で、こうした方向性を組合員にリリースしていきたいと考えている。
 また、准組合員や地域住民にも、家庭菜園や体験型農園など、いろいろな形で農業に関わってもらう取り組みも必要ではないかと考えている。滋賀県が全国一である農地水環境保全向上対策の取組みでは、地域住民を巻き込んだ集落一斉の草刈り等が定着してきた。こうした取組みを契機に、地域住民を巻き込んだ地域農業の形を創りあげたい。例えば、収穫後の園芸作物の保管や一次加工施設を造れば、そこに地域住民の雇用も発生するだろう。
 新たな営農モデルの確立に取組み、未来に継承する地域農業をデザインし、展開していきたい。そのなかで、担い手農家とJAの共存共栄の関係を創っていくのはTACの活動である。


 

〈本号の主な内容〉

■このひと
 地域農業活性化の最前線 わがJAのTACの活動
 JA北びわこ 代表理事理事長 田中洋輝 氏
■協同組合の役割発揮へ わがJAの自己改革実践(3)
 JAいわて花巻 阿部勝昭 代表理事組合長
 JAはだの   山口政雄 代表理事組合長
 JA福岡市   鬼木晴人 代表理事組合長
■70周年を迎えた 日本文化厚生連の これまでとこれから
 日本文化厚生連 代表理事理事長 東公敏 氏
■かお 農林水産省 新局長、長官の3氏
 食料産業局長 新井ゆたか 氏
 農村振興局長 室本隆司 氏
 林野庁長官  牧元幸司 氏
■JA全農の資材・技術提案
 園芸資材・包装資材
■トータル生産コスト低減へ
 全農・農薬事業の取り組み
■全農の営農管理システム「Z-GIS」
■TACパワーアップ大会2018開催へ

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