日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2020年1月15日号

2020年1月21日

このひと

 

農林水産物・食品の輸出促進へ

 

自民党
農産物輸出促進対策委員会
委員長
福田達夫 氏

 

 昨年11月、「農産物及び食品の輸出の促進に関する法律」が成立し、今年4月1日から施行する。農水省に農産物・食品の輸出を一元的に手がける「輸出本部」を設置し、輸出促進へ本腰を入れた国の取り組みが始まる年明けに、自民党農林・食料戦略調査会農産物輸出促進対策委員長の福田達夫氏(衆議院議員)に、農産物輸出に向けたポイントを聞いた。


 

農業者の“稼ぎ”の柱の一つに

輸出促進法が成立しました。

 農産物の輸出の関する初めての法律ができたのは画期的なことだ。これまでも農産物輸出には歴史はあるが、国が本格的に取り上げたのは小泉内閣の時で、当初の輸出額目標は概ね5,000億円程度であったと思う。あれから20年、満を持して促進法ができたことに感慨深いものがある。
 これは政府が、輸出というものを農業者及び食料生産に関わる全ての方々の“稼ぎ”の一つの柱にすると、宣言したものと受け止めている。

 

目的は「売上」ではなく「利益」

日本の農業にとって輸出がもつ意味は?

 “日本の胃袋”は今後小さくなっていくから輸出へ、というのは食料自給率の現状からしても説明力がない。輸出はあくまでも外貨を「稼ぐ」ものであり、その「稼ぎ」をわが国の食料生産の柱とすることが目的であるべき。それゆえに、輸出額という「売上」高を上げることだけに満足するのみならず、しっかりと利益を上げること、特に農業者及び食料生産に関わる全ての方々が、しっかり儲ける先を海外にも広げるということを目指すべきだ。
 党においても輸出促進対策委員会の委員長として、「売上ありき」ではなく、農業者が儲かる輸出を主張してきた。そのためにどのような仕組みをつくるべきかの議論をしてきたが、これは簡単なことではなかった。
 地元にある果樹や野菜等を、「生鮮のまま海外に売りたい」という意見は多い。しかし、車や家電と違い、農産物はどこの国でも作っている。そこと同じレベルの物では、質はよくても輸送など費用がかさむぶん高くなる。そこで、まずは、高級品をそれに相応しい価格で買ってもらうための売り方を議論してきた。
 しかし、それはアジア等の富裕層をターゲットにせざるを得ない。それだけではもったいない。今後はより大きな市場である中所得者層の取り込みに力を入れ、農業者の“儲けの手法”を増やしていきたい。

 

加工・外食も含むグローバルフードバリューチェーンを

輸出促進へ今後の課題は?

 生鮮品では各国に同じような物があるし、腐ってしまうリスクも高い。例えば、トマトをピューレにして多様に使えるよう、輸出先で二次加工する等々、加工食品のバリエーションを豊富にすることに、とくに力を入れるべきだ。
 ともすれば、今ある物をいかに売るかに目がいきがちだが、相手国・地域のどの所得層のお客様がどのような物を望んでいるのかを把握し、それに合った物をどんどん出していくことが必要だ。
 さらに、海外で稼げる農業者を増やすことができないか、と思っている。
数の多い中所得者層の取り込みには、誰にでも買える美味しい日本式農産物を現地で作り、より多くの人に供給していく。経済成長著しいアジアなどでは、それがやがて日本産の高付加価値な農産物の購入につながっていくのはないか。
 今のうちに日本式農産物のファンを増やし、10年程度かけ、少しずつ儲けの大きい価格帯の日本産農産物が売れるような構造を考えることが、時間がかかっても足腰強く、持続的に日本の農産物が売り続けられる素地を作ると考えている。

 

長期的に必要なJAグループの力

JAグループへの期待は?

 農協と全農、農林中金が果たす役割は大きいと、強く思っている。農協は地域で物と人を一番よく知っている。全農は農産物を動かすことに関して長けている。農林中金は中長期で金を回す資金力がある。
 農作物は気候の変動等の影響が大きいし、海外への投資は短期間では結果が出ない。農業の世界は10年くらいのタームで見なければならない。長期的に見て苦境の時も歯を食いしばって目的に向かって進んでいく。これは農に関係する組織にしかできない。JAグループは、地域のおける信用と世界的な資本市場の信用を上手く嚙合わせることができる力をもっている。
 全農や農林中金には、日本の農業者のためになるようなインフラづくり、海外への投資を積極的に展開していただきたい。
 今の時代は、新しいことに取り組まなければ生き延びていけない。農協においても、ぜひ地域で新しいことにチャレンジしている人こそ、大事に育てることをお願いしたい。農業・農村には宝の山が眠っている。その宝を世界につなげるのだという、前向きの意識をもっていただきたい。

 

「日本食」の学問的整理から

日本の食文化と農産物輸出の関連は?

 「日本食」は、学問として確立されていない。今、東京大学で日本食を学問的に類型化するプロジェクトが始動している。日本食とはどのようなものであるか、の基準づくりは必要だ。「日本食」というブランドをしっかり確立しなければ、高い値は付けられない。
 また、世界中に広まってしまっている、我々からすると「日本食とは言えない」食品が、イメージを操っているという現実もある。材料や料理法まで含め、日本食は価値を学問レベルでも説明し、世界の人々に納得してもらうことが大切だ。本来これは、農産物を輸出する前に必要な段階だっただろうが、遅くはない。
 日本食の歴史や技術等を理解してもらえるよう、しっかり整理した上で、それを支える技術や農地があってはじめて、この素晴らしい農産物は作れるのだ、という評価を勝ち取り、日本ファンを増やすことが、長く、高く、買ってもらうためには必要だと思う。

 

“売るため”から“売り方”の議論を

日本農業のこれからは?

 日本の農業と、中小企業・小規模事業者の現状は全く一緒だ。中小企業経営者の平均年齢は69歳、農業者の平均年齢は67歳。しかも後継者がいない。世界的にも高い品質のものづくりは出来ても売ることができない……。
 一番の問題は後継者不足。農地はあっても、そこで働く人がいない。最低でも10年以内に、若い人が参入できる夢のあるものに農業をかたちづくる必要がある。
その必要条件は、儲かること。労働に見合ったものがきちんと循環していることが大事だ。とくにこの国では大規模農業は限界があることから、中小規模が稼げるための、利幅が高く売れる『商流』をつくりだしていくことが重要だ。“売るため”の議論から“売り方”の議論へ幅を広げていきたいと思っている。
 後継者づくりへの必要条件が“儲かる農業”ならば、十分条件は農業への“誇り”。海外での日本の農産物に対する評価が農業者に届くことで、誇りをもって仕事ができるような仕組みをつくりたい。若い人たちの新しい発想や技術が取り込めるような環境をつくり、輸出も組み込んで、農業者に利益と誇りが手に入る農政をめざしたい。


 

〈本号の主な内容〉

■このひと
 農林水産物・食品の輸出促進へ
 自民党 農産物輸出促進対策委員会 委員長
 福田達夫 氏

■農林水産物・食品の輸出促進へ
 農林水産省 大臣官房輸出促進審議官
 池山成俊 氏

■JAの生産者対応力強化と営農・経済事業の収益力向上へ
 全国連一体でのJA支援がめざすもの
 JA全中の取組み  JA全中 常務理事 山田秀顕 氏
 JA全農の取組み  JA全農 代表理事専務 野口栄 氏
 農林中金の取組み 農林中央金庫 常務執行役員 中島隆博 氏

■2020 農業関連団体・会社 新春メッセージ
 全国農業改良普及支援協会 岩元明久 会長
 製粉協会 藤田佳久 会長
 雪印メグミルク 西尾啓治 代表取締役社長
 日本文化厚生連 東公敏 代表理事理事長
 日本フードサービス協会 髙岡慎一郎 会長
 Jミルク 川村和夫 会長
 農林年金 樋口直樹 理事長
 農研機構 久間和生 理事長
 日本肥料アンモニア協会 淡輪敏 会長

■令和元年度 集落営農法人全国交流集会
 第4回 全国集落営農サミット
 JA全中が開催

■水稲除草剤 最近の特徴と今後の展望
 日本植物調節剤研究協会 技術部技術第一課 係長
 半田浩二 氏

■著書を語る
 『生物に世界はどう見えるか – 感覚と意識の階層進化』を出版した
 実重重実 氏

■キュウリの収量増大と後継農家づくり
 反収30~40トンを実現するための生産技術
 (第40回施設園芸総合セミナーより)
 佐賀県北部九州胡瓜研究会 会長 山口仁司 氏

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