このひと
ナフィールドジャパン創設のねらい
~農業人材育成への思い~
一般社団法人ナフィールドジャパン
代表理事
前田茂雄 氏
イギリス発の生産者による農業者向け奨学金制度として長い歴史をもつ「ナフィールド国際農業奨学金制度」の、日本における運営組織として「一般社団法人ナフィールドジャパン」が8月に設立された。代表理事の前田茂雄氏(北海道本別町・前田農産食品(株)代表取締役)に、設立のねらいと今後にかける思いを聞いた。
1940年代から世界の農業者を育成
■ナフィールド国際農業奨学金制度とは?
世界最大の農業者のネットワークをつくり、その国の農業や産業に貢献するリーダー人材を養成することを目的とする国際農業奨学金制度である。1940年代にイギリスで創設された、70年以上の歴史を持つ制度で、イギリス、オーストラリアを中心に1700人以上の農業者を育成してきた。今年11月現在、日本を含む世界13か国が加盟国となっている。
奨学生に選ばれると、自身の研究課題の深掘り・課題解決のため2年間の活動期間が与えられる。CSC(Contemporary Scholars Conference)という各国から同年に選出された農業奨学生約70名との顔合わせ研修会議に始まり、グループに分かれ6週間継続して世界中の農・食研究関係の視察を行うGFP(Global Focus Program)、自身の調査・検討のため個人で世界の視察・研修 を行うIRT(Individual Research Travel)を経て結果をまとめた小論文提出、体験報告会を行い情報を共有する。。
奨学生としての活動が終了しても卒業生としてナフィールドに名を連ね、翌年以降に奨学生となる後進の支援に努める。
世界最大の農業者ネットワークに日本人も
■設立の経緯は?
GFPの視察先には従来から日本も含まれていた。2014年から十勝の農業経営者団体に視察依頼があり、私が担当アテンドを務めた。7~8か国からの12~13人の異種混合農業者の集まりで、〝奨学金をもらって世界を研修旅行している〟という会の存在が最初は不思議だったが、同じ農業者同士、話してみると知らない文化や技術や価値、農畜産物流通やカントリーリスクも感じた。
奨学生の顔合わせ会議であるCSCの2016年アイルランド開催に日本人として初めて私が参加し、2018年オランダ開催に浅井農園(三重)の浅井雄一郎さん、2019年アメリカ開催に現事務局の藤田葵さんと、くしまアオイファーム(宮崎)の奈良迫洋介さんが参加。4人で話し合い〝益々グローバル化する中で世界最大の農業者ネットワークに日本人農業者も入り未来に向けて開眼していく必要性がある〟として、一般社団法人ナフィールドジャパンを今年8月設立した。
農林中金がスポンサー第一号に
■運営と、協力への期待は?
各国のナフィールド運営事務局は農業者が担っている。ナフィールドジャパンも、先の4人が理事となり運営事務局を構成している。また、一加盟国であるためナフィールド本部からオーストラリア人農業者2名にも理事になってもらっており、常に本部と共同で意思決定している。
奨学金の出資元も非常に重要だ。ナフィールド奨学金は、農業関連産業がスカラーたちの奨学金サポートをすることが特徴。各国で、農業者のリーダーシップ醸成に期待し、その産業発展の基礎をつくるパートナー養成に賛同する農業関係団体、企業、金融機関などが協賛者となっている。銀行、スーパーマーケット協会、食品会社、酪蓄農・園芸・稲作・畑作の研究機関やトラクターメーカー、肥料農薬メーカー、作物別の輸出促進協議会、有機農業者団体など多岐に亘る。
日本ではこの度、農林中央金庫がスポンサー第一号となっていただくことが決まり、2020年度の奨学生への金銭的サポートが決定した。世界的にはラボバンクが大きなスポンサーで、日本でも、食と農林水産業に貢献する金融機関である農林中金にお願いし引き受けていただいた。
いま、次世代農業者の育成が自らの事業、社会的課題解決に資すると考えている団体・企業が増えている。また、金銭的支援だけではなく、大学や大学校など情報提供や拡散、場所の提供といったソフト面のご協力もほしい。次世代農業者育成の重要性に賛同いただける皆様とネットワークを築いていければと願っている。
世界の農業を俯瞰できる農業者を
■どんな農業人材をめざすか。
自分が参加してまず、彼らと同じ土俵に立ちたいと思った。世界の農業を俯瞰して見られる農業者だ。その上で自分で道を切り拓ける人材がもっと日本に必要と感じている。
ナフィールドのプログラムでは、生産技術、流通、加工、食文化や規格や価格、物価の違い、担い手、農業政策などあらゆることについて視察先などで議論を交わす。現役農業者ばかり個人や地域、産業の課題をもって参加するので、議論は未来にむけた真剣さと多様性に富んでいる。そこに学びがある。2016年にアイルランドで参加した際、オーストラリア人に「日本は農産物の関税撤廃をしない! オープンにするべきだ!」と言われたが、「どこの国でも農業は国の礎であるべき」「2006年の穀物高騰の時に急に禁輸措置を行う輸出国もあった。自国の食料確保や地域農業を残すことは間違いなく意味がある」と農業者として持論を交わした。
この研修を受けた人材の流れがネットワークとして拡がり、海外の農業現場のナマの情報が入る。自分のやりたいことやそのための政策提案もより明確にできるだろう。
今後、日本農業経営大学校や農業関係の各大学、次世代農業サミットなどでもナフィールド見聞録を広く発信し、〝海外からも学び国内で活かす〟人の育成をともにしていきたい。
英会話力と農業経験3年以上
■どんな方に応募してほしいか。
農業への情熱があり、自己の課題解決が地域農業の課題解決にもつながるという信念ももっている、次世代の若い農業者からの応募を期待している。農業経験が概ね3年以上あり、会話に困らない程度の英語力と、本人が農場にいない期間もあるのでサポート役がいることも条件になる。JAグループをはじめ農業団体の皆さんからも、ぜひ青年農業者を世界へ押し出してほしい。
日本農業の未来に種まく人を
■日本農業の課題と担い手育成に必要なことは?
「スマート農業」が今流行りのキーワードだが、人づくりが一番スマートにいかないところ。これは世界農業の共通の課題だ。日本農業の未来に新たな種をまくためには、昔の遣唐使や遣隋使のように、一度外に、課題をもって出て、世界の農業者とのネットワークをつくることも一つの方法だと思う。
例えば各市町村の代表として“地域の将来を背負って世界へ押し出す”つもりで、見聞した情報をアウトプットさせながら地域リーダーを育てるなど、地域行政の施策としても考えてはどうか。
農業者も、いろいろな世界を見てくれば、自分の足元に宝があることに気づく。〝まずは外から自分や地域や国の農業を見てみよう!〟ということ。自分の経験からも、海外を見て日本農業を覚醒させる人材が陸続と出てきてほしい。
〈本号の主な内容〉
■このひと
ナフィールドジャパン創設のねらい
~農業人材育成への思い~
一般社団法人ナフィールドジャパン
代表理事 前田茂雄 氏
■東日本地区 JA教育文化活動研究集会
家の光協会、家の光文化賞農協懇話会が東京で開催
■トップインタビュー
みのり監査法人 理事長 大森一幸 氏
■障害福祉サービス事業所「みのり」の農福連携
農協共済別府リハビリテーションセンター