日本農業の振興と農業経営の安定、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2019年11月14日号

2019年11月26日

JA新いわて 代表理事組合長 小野寺敬作 氏このひと

 

地域農業振興とTACの役割

 

JA新いわて
代表理事組合長
小野寺敬作 氏

 

 農業者の所得増大による地域農業活性化の取組みが、JAグループを挙げて進められているなか、地域農業の担い手に出向くJA担当者「TAC」の役割は、ますます重要性を増してきた。岩手県北部の18市町村をエリアとするJA新いわてのTACの活動から、広域JAの地域農業振興とTACの役割を小野寺敬作組合長に聞いた。


 

販売額500憶円を目指す

管内農業の概況から。

 管内は、四国4県に匹敵する岩手県のほぼ半分をエリアとし18市町村にまたがる広大な面積を有している。正組合員1万9802人、准組合員2万2207人。米をはじめ園芸特産、生乳、畜産物など多種多様な生産物は全国でもトップクラスの生産量を誇っている。多様な担い手への支援を継続し、農家組合員の所得の増大、農業生産の拡大、担い手経営体のニーズに応える個別対応の強化、経営基盤の安定に向けた取組みを引き続き強化している。今年度が最終年度に当たる地域農業振興計画では、農畜産物販売額500億円を目標に、量も質も消費者からの信頼も日本一の産地をめざすことを旗印に、チャレンジ運動を展開している。
 平成22年から今年度まで約11億円の農業振興対策事業、担い手支援対策事業を実施し、規模拡大を指向する組合員を助成してきたが、その成果が着実に出はじめている。当JAの販売高は、約2割の組合員で85%を占めており、それに続く層を拡大するために、生産額5百万円規模の農家を1千万円以上に引き上げる施策に取組んでいる。キャベツ、レタス、ホウレンソウ、生しいたけなど10億円を超える品目があり、キュウリ、トマト、ピーマンなども次なる品目として生産拡大に取組んでいる。
 管内7つのエリアがそれぞれの特色を活かしながら、重点振興品目に応じた生産の増大に取組むほか、集荷率を高め販売事業にも貢献するような活動に力を入れている。例えば、ブロッコリーの生産額は今7千万円程度だが、沿岸南部の宮古エリアのTACは1億円を目標に営農指導も含めて積極的に農家に出向いている。それが沿岸北部の久慈エリアにも拡大し相乗効果が出ている。厳しい環境ではあるが地域特性を活かした施策を進めていきたい。

 

地区別から本所集約で意識共有

TAC設置の経緯と体制は?

 TACは平成21年度から設置、主に認定農業者や集落営農組織・法人等の担い手を対象に積極的な訪問活動を展開している。現在、7名のTACが本所営農経済部に配置されている。当初は7エリアに属する形で配置したが、地域によってTACの動きにバラつきが出てくることから、本所管轄として各エリアを担当し、TAC統括管理者の営農経済部部長とTAC管理者の部長代理の2人の管理者のもと活動の統一を図っている。
 TAC設置当初は、訪問先を特定しない全戸訪問を実施していたが、28年度から訪問リストを整備し、約400名の担い手に絞り込んで訪問活動を実施している。月1回のTAC会議では、担当常務や金融・共済など関係各部門が出席し情報を共有し連携をはかっている。必要に応じて担い手金融リーダーとのミーティングも実施する。最近の訪問では融資の相談も多く、各エリアの金融担当との同行訪問で対応している。

 

手取り最大化PJで大きな成果

この間、特に力を入れてきた活動は?

 まずは、「農家手取り最大化プロジェクト」の取組みである。全農県本部と連携し29年度から取組んだ。水稲を中心に地域のリーダー的な個人・法人の6経営体をモデルに選び、資材費低減・省力化・生産性向上につながる11のトータルコスト低減実践メニューを提案。米穀担当が指導し、TACがフォローしながら実証した。
 メニューのうち、土壌診断にもとづくBB肥料の導入や、大型規格農薬の導入などによるコスト低減効果は大きく出た。また、高密度播種育苗移植栽培やICTを活用した水田センサー・自動給水機の導入、ドローンでの農薬散布は省力化に大きく貢献した。27年度に比べた30年度の農家手取りは全体で33・6%増え、省力化の実現と相まって44%もの圃場面積拡大につながった。今年度からは新たに2モデル経営体を選定し、新規実践メニューの実証と昨年までに得られた成果の水平展開を開始している。水平展開のためには担い手との信頼関係を築くことが重要。TACの日ごろからの農家とのコミュニケーションが、こうした取組みをスムーズにできる下地をつくったと言える。
 水稲栽培のさらなる省力化と安定生産にむけて、全農県本部と連携したドローンによる水稲直播の実証試験も県内で初めて提案〔写真は、八幡平市の農業法人の圃場〕。鉄コーティング散播では通常の移植作業に比べ87%の労働時間削減効果が見られた。水稲作業の時間短縮・省力化によって、園芸作物など他品目の導入が見込まれる。
 生産コスト低減の一方で販売高を上げなければ所得は上がらないことから、育苗ハウスを活用した簡易養液栽培技術「うぃずOne」によるミニトマト栽培や、転作による加工用トマト栽培などで目標を定めて取組んでいきたい。

 

付加価値向上へGAPの取組み

水稲以外の取組みでは?

 TACが中心となり、ブロッコリーの高品質確保とグローバルGAP認証取得に取組んでいる。前述のように宮古地区ではブロッコリーの栽培が年々拡大している。地域の条件に適し、しかも端境期の5月下旬から7月中旬に出荷が可能な作物としてTACが若手生産者に提案した。地域の漁協と連携し氷を安く調達し、発泡スチロールに敷き詰めて出荷し品質を確保、高価格を実現した。キャベツや大根栽培なども組合せて6月と12月上旬の年2回、仙台市場を中心に出荷している。グローバルGAPの取得による付加価値向上にも取組んでおり、JAとしても年明けの団体認証取得を目指して支援している。
 宮古地区のブロッコリー生産は、生産者数、作付面積、販売金額ともに順調に伸びており、現在25戸、約28ha、7千万円近くとなった。グローバルGAPの取組みと合わせ有利販売につなげ、今年度は販売額1億円を必達したい。

ほかでのGAP等の取組みは?

 昨年、ホウレンソウ産地で県版GAPを団体取得、今年7月には、寒じめホウレンソウが機能性表示食品として消費者庁に認められた。こうした動きに追随する農家が増えてくることを期待する。取得には費用がかかることから、意欲ある若い生産者が今後の経営に向けて、その内容をよく理解したうえで取組んでもらえるようにしなければならない。
 我々としては、こうした取組を価格に反映できるよう、市場や小売にPRしていきたい。来年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて働きかけていきたい。
 若手農業者の拡大にも努めていきたい。地域を越えて品目ごとの仲間づくりも考えていく必要があるだろう。その際に、エリア間の情報を収集・発信するのもTACの役目となる。

 

担い手による研究グループ育成

若手や女性農業者の育成支援での取組みは?

 これからの担い手育成のためには、JAが積極的に若手・女性農業者と関わる企画をつくり上げていくことが必要だ。
 昨年度は県の担い手サポートセンターと連携して、TACが担当する担い手のなかから3グループをピックアップして、調査・研究テーマを設定した研究会を実施している。「岩手町野菜生産者スキルアップ研究会」(11名)は、これからのキャベツ産地づくりに向けた知識、他産地の機械化技術を学び、「奥中山野菜生産部会レタス専門部技術実証班」(4名)は、反収が低い圃場で堆肥投入のみの栽培実証、「いわてまち紅娘(べこ)会」(14名)は、和牛繁殖農家の女性同士の飼養管理技術向上を目指し研究し、具体的な取組みに結びつけている。
 JAの野菜PR隊「もんずらすかしぇーるず」(方言の「丸ごと」「教える」+「エール(応援)」)は、女性野菜生産者3名で、生産者の思いを消費者に全部伝えたいという気持ちを込め、さまざまなイベントでJA新いわての野菜の魅力を発信している。
 管内には先代からの経営をしっかり承継している若い農家が多い。
 酪農では40~50代がクラスター制度等を導入し規模拡大を目指している。その背景には、自分の子ども達が後を継ぐにあたって、基盤をしっかりつくっていきたいという思いがあるのではないか。そうした思いに応えられるような支援を続けていきたい。
 こうした面でも、TACは、規模拡大や法人化、事業承継の相談窓口となり、担い手とJAをつなぐパイプ役となっている。

 

満足度向上は営農指導と金融一体で

これからのJAとTACの役割は?

 これまでの農家組合員と若い後継者の組合員では、JAに対する考え方や視線が変わってきている。経営者としてJAに対し技術指導より経営指導を望む農家が多くなってきている。これからは金融と営農指導が一体となった取組みでなければ若い農業者の満足度を高めることは難しい。一部門でできない部分を他部門がサポートしていく体制づくりに、JA全体で取組んでいかなければならない。
 「人材」は「人財」。職員はJAの財産として活動して欲しい。組合員からのアンケートでも、年とって農業が無理になったからJAが代わりにやって欲しい、という声が非常に多い。それに応えていくためには、受託法人的なものを設立していく必要がある。ただし、全てを請け負うのではなく、後継の担い手を育成するための法人として立ち上げていく必要があると考える。
 販売額〝500億円〟のフラッグは次期3か年でも掲げ続ける。そのためには、小規模から中規模、そして大規模へとステップを踏んだ対策を講じていく必要がある。農家を掘り起こし横に繋げ水平展開していくTACの役割は、ますます大きくなるだろう。販売高の追求だけではなくいかに収益性を高める提案できるか、これまで取り組んできたノウハウを最大限に活かして欲しい。


 

〈本号の主な内容〉

■このひと
 地域農業振興とTACの役割
 JA新いわて 代表理事組合長 小野寺敬作氏

■かお
 JA全農 代表理事専務の2氏
 野口栄 氏
 桑田義文 氏

■集中連載 第3回
 「食と農を基軸として地域に根ざした協同組合」へ
  わがJAの自己改革と今後
 静岡県 JA遠州中央   経営管理委員会会長 鈴木政成 氏
 長野県 JA上伊那    代表理事組合長   御子柴茂樹 氏
 奈良県 JAならけん   代表理事理事長   田中稔之 氏
 福島県 JAふくしま未来 代表理事組合長   菅野孝志 氏
 高知県 JA土佐くろしお 代表理事組合長   森光幹男 氏
 福岡県 JA福岡市    代表理事組合長   鬼木晴人 氏

■JA全農の製材・技術提案
 園芸資材
 包装資材

■農薬の担い手直送規格の普及拡大

■JAグループ農機事業
 共同購入トラクター提案活動

keyboard_arrow_left トップへ戻る