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農水省が植物新品種の保護に関する検討会でとりまとめ案

2019年11月18日

優良品種の海外流出防止へ現行制度の見直し検討など

 農水省は、15日開いた「優良品種の持続的な利用を可能とする植物新品種の保護に関する検討会」に、優良品種の流出防止、持続的な利用確保のために現行制度の見直しを検討すべきなどとしたとりまとめ案を示し了承された。

 植物新品種については、知的財産として保護するため種苗法に基づく品種登録制度があるものの、近年は開発された品種が海外に流出し栽培が広がっていることが問題になっている。また、日本における品種開発が停滞傾向にあることから将来的な日本農業の国際競争力への影響が懸念されている。有識者からなる同検討会では、このような情勢変化を踏まえ、農業者が優良な品種を持続的に利用していくことが可能となるよう、より実効性ある植物新品種の保護が図られるための方策を関係者で議論し、方向性を検討するために今年3月の第1回を皮切りにこれまで5回にわたり、品種育成者や種苗業者、農業者からのヒアリング等を行い議論を進めてきた。

 農水省が「検討会」に示したとりまとめ案は、優良品種の流出を防止するとともに、その持続的な利用を確保していくため、同省は「制度の理解促進を図るべき」「主に海外流出防止のため、現行制度の見直しを検討すべき」「海外における権利化を推進すべき」「今後更に深掘りすべき課題」の事項の実現に向けて検討を進めるべき、としている。

 〈制度の理解促進を図るべき〉点では、植物新品種の保護の意義や種苗法の考え方が正確に農業現場に浸透するよう、特に▼農産物の品種には、大宗を占める一般品種と種苗法で登録された登録品種があること、▼登録品種は、その品種の育成者の知的財産として保護されている品種であり、一定期間、その利用には育成者権者の同意が必要であること、▼品種を利用する際の許諾料が、更なる品種開発・供給の促進に繋がることで、農業の発展に寄与すること、▼登録品種以外の一般品種は、その増殖や利用に制限はないこと、とすることについて国は都道府県や団体等と共同して意識醸成に努めるべき、とした。

 〈主に海外流出防止のため、現行制度の見直しを検討すべき〉としたことについて、以下の4項目を盛り込んでいる。①「育成者の意図に反した海外流出を防止すべき」こととして▼登録品種の販売に当たって、国内利用限定や栽培地域限定の条件を育成者権者が付す場合には、これに反する行為に育成者権を行使できるよう制度を見直すべき、▼利用者の混乱がないよう、登録品種である旨や利用条件の適正な表示を義務づけるべき、としている。②「登録品種の増殖は育成者権者の許諾に基づくべき」とした点については、▼登録品種の増殖は、自家増殖を含め、育成者権者の許諾に基づくこととし、増殖を行う者を明らかにすることで、海外流出防止できるようにすべき、▼農業者が育成者権者から簡便に許諾を得られるよう、許諾は団体等がまとめて行うことができることや、許諾契約のひな形を示すべき、▼育成者権が譲渡等された場合でも、既に許諾を受けている農業者が安定的に登録品種を利用できるよう配慮すべき、とした。また、③「海外流出した場合等の権利侵害の立証の手続改善」として、▼品種登録時の種苗との比較栽培を求められ技術的に困難となっている権利侵害の立証を、特性表を用いることで容易にすべき、▼特性表の作成に当たっては、育成者の育成の意図が反映され、海外登録にも活用できる質の高い品種登録審査を行うべき。その際、安定的な制度運営に必要な手数料を徴収すべき、▼他の登録品種の育成者権が及ぶとされている従属品種の範囲が不明確であることから、ガイドラインを示すべき、④「その他の見直し」では特許法等、他の知的財産制度を参考として、種苗法においても情勢の変化に合わせて必要な改正を行うべきとして、▼職務育成品種の権利の帰属や対価にかかる規定の見直し、▼訴訟において裁判所が証拠書類提出命令を出すか否かを判断する際、裁判官が対象書類を実際に確認できる手続を拡充、▼海外からの出願者に日本国内の代理人設置を義務づける規定、▼EPA等において、加盟国間で育成者権の共通の取扱いを規定する場合への対応、を盛り込んでいる。

 〈海外における権利化を推進すべき〉ことについて、▼海外での優良品種の保護・活用を進めるため、海外における品種登録を促進すべき、▼権利侵害に対して実効的に対応するため、我が国で開発された海外登録品種の権利行使を一元的に実施する体制を整備すべき、としている。

 〈今後更に深掘りすべき課題〉として、アジア等における国際協力や基準の国際的調和を進めるべき、品種登録情報に含まれる親品種の情報など営業秘密とすべき情報の審査における管理のあり方、品種開発に向けた研究開発予算の充実を図るべき、などを挙げている。

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