「日本の農業・農山村をどう構想するか」をテーマに、一橋大「自然資源経済論プロジェクト」の市民公開シンポジウムが一五日、同大で開かれた。農林中金が平成二一年度から同大に設置している寄附講義の一環で開催されたもので「自然資源経済論ⅣA」として同大の学生をはじめ一般市民も出席、約三三〇名が参加した。
同大経済学研究科准教授の山下英俊氏は、「今回は主に、オーストリアを鏡にして、日本の農業・農山村のこれからを考える。(二〇一三年から同国で行っている)現地調査の報告などが中心だ」と開催趣旨を説明した。農林中金常務執行役員の八木正展氏は、「本日のシンポジウムでは日本の農業・農村の問題点を抉り出し、我々に問題提起をしていただけると思う。傾聴と積極的な質問をしていただきたい」と呼び掛けた。また、同大経済学研究科長の岡室博之氏と、オーストリア大使館上席商務官のルイジ・フィノキアーロ氏が挨拶した。
基調講演では東大名誉教授・元東京農大教授の谷口信和氏が「転換期を迎えた日本の農業・農村政策」のテーマで話した。TPP11や日欧EPA、日米TAGなどを解説するとともに、食料消費構造の変化と農業生産構造への影響など現状を説明。続いて農林中金総合研究所主事研究員の多田忠義氏と通訳家・翻訳家・医師でオーストリア在住のモニカ・ツィグラー氏が、オーストリアの地理的特徴や農業、自治体運営、オーストリア人の性格などについて報告した。また山形県森林ノミクス推進監の安達喜代美氏が、林業の振興を図ることで関連産業における雇用創出などの経済効果を生み出し、地域の活性化につなげている県の取り組み「森林(モリ)ノミクス」を紹介した。
農中総研客員研究員(一橋大客員教授)の石田信隆氏は「オーストリアの農業と地域政策から学ぶ」のテーマで講演。山岳地帯で農業の条件は不利だが、自然・環境・持続可能性を重視する農業観を政府も国民も持っていることを紹介。また小規模住民グループによるボトムアップ型の地域づくりの取り組み「ドルフ・エアノイエルング」を取り上げ、州政府が支援しEUの事業も活用すると解説した。神奈川大非常勤講師の藤井康平氏が「オーストリア農山村の自治の姿」、一橋大大学院研究補助員の石倉研氏が「条件不利な農業・農山村を支える制度と政策」のテーマで、オーストリアの農業・農山村政策等に関する特徴などを話した。石倉氏は個々の農家を自然的・経済的営農困難度を数値で評価し補助金を支払う制度を紹介。農家の所得を支えることで離農を抑制、山岳農家による自然資源管理が行われていると説明した。シンポジウムでは自然資源経済論プロジェクト代表で同大特任教授(帝京大教授)の寺西俊一氏を司会に「これからの農業・農山村をどう構想するか」をテーマとしたパネル討論も行われ、学生からも多く質問があった。