日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

〈蔦谷栄一の異見私見〉南斗六星子と大地性

2026年4月5日

 八幡正則著『怠れば、廃る 農協運動心得六か条』(南方新社)を読んだ。著者である八幡さんは昨年の11月1日に95歳で永眠され、この3月の8日に八幡さんを偲ぶ会が鹿児島市で開催されたことから筆者も参加してきたが、会場には八幡さんの出版物や資料が置かれ、持ち帰り自由となっていた中から頂いてきたものだ。

 実は八幡さんとの実質的な交流が始まったのは、2021年の少し前頃からである。鹿児島へは県庁の依頼を受けて幾度か講演に足を運んでいるが、その都度、必ず最前列の真ん中で私の話に耳を傾け、講演の後、必ず控室に寄られて、感想を述べて帰られたのが八幡さんであった。そうしたことで八幡さんが塾長をつとめておられた「怠れば廃る塾」の塾報を16年からお送りいただくようになったが、月2回発行される塾報が200号(21年1月)になったお祝いに紅白のワインをお送りしたところ、お返しに「やねだん」の芋焼酎をお送りいただいたのがきっかけだ。その頃から、上京される際にお声がけいただくようになった。この『怠れば、廃る 農協運動心得六か条』は12年に発行されており、ご著書を出しておられることは存じ上げながら、入手して読むことせずして八幡さんとお付き合いしていたことが、誠に悔やまれてならない。

 本書の帯には、「現場からの「農協論」。渇を癒される想いである」と、当時農業協同組合研究会会長であった梶井功氏の感想が寄せられているが、まさに同感というか心を揺さぶられる思いだ。農協運動心得の第一条から第六条まで、「農協運動は、○〇運動です」の〇〇は、第一条から順に「自分を明るくする」「わがため人のため」「環境と共生きする」「大地性を享受する」「人々が納得し合う」「人と世に推譲する」が入る。いずれも報徳思想に裏打ちされ、かつ現場感覚あふれる八幡さんならではの心得に納得するばかりである。この中で筆者が特に感銘を受けたのが第四条の「大地性を享受する」だ。尊徳の至誠・勤労・分度・推譲はよく知られ、協同とも深く関係するが、これは尊徳思想の骨格となる天道・人道論の人道に当たる。天道あっての人道であるが、八幡さんはこの天道を「大地性」と読み解く。そして尊徳や鈴木大拙の言葉を駆使しながら、知識だけでなく「天地をもって経文とする」ことが肝心であり、これを百姓仕事を通じて体得している農家は少なくないが、今、都会人こそ大地性に接する機会を持つことが必要である一方、この大地性は農協が持つ他の協同組合にはない誇るべき特色であり、「協同組合間の協同」をつうじて「総親農の時代」とし「世直し運動」につなげていくことの意義を強調し、この先に、農協運動をつうじて工業化社会を超え農的社会を拓いていくことを見据える。

 まさに慧眼。昨年5月、掛川市での報徳社主催による国際協同組合年記念フォーラムで、八幡さんの「『環境破壊』と『格差拡大』を是正する協同組合の相互扶助と尊徳の報徳思想」に続いて、「生産消費者による都市と農村の融合」をテーマに筆者に基調問題提起をさせた意図を、今、理解した次第だ。やっぱり、南斗六星子の八幡さん。これからはご著書を通じての対話でにお付き合いください。時には焼酎「やねだん」を飲みながら。

(農的社会デザイン研究所代表)

日本農民新聞 2026年4月5日号掲載

keyboard_arrow_left トップへ戻る