日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

〈2026 新春に思う〉摂南大学 農学部 食農ビジネス学科 准教授 副島久実氏

2026年1月5日

農業経営への女性参画をすすめるために

 

女性自身の選択や意思がどこまで尊重されているか

 国連は2026年を「女性農業従事者の国際年」と定めている。世界の農業を支えてきた女性の存在を、単なる労働力としてではなく、経営や意思決定の担い手として正面から捉え直そうという動きである。この問いかけは、日本の農業、そして地域農業に関わる一人ひとりに向けられている。

 私はこれまで、漁村女性の調査研究を中心に行ってきた。漁業の現場においても、女性は日々の作業や家業の維持に欠かせない存在でありながら、経営や意思決定の場面では、その役割が十分に意識されてこなかったケースも少なくない。調査の過程では、女性が海上作業に関わっている地域であっても、「この地区の漁業に女性はいない」と語られる場面に出会うことがあった。

 こうした経験を通じて、私は研究の関心を水産業にとどめず、農林水産業全体、特に農業における女性の参画へと広げてきた。

 農業分野でも、持続性の確保や生産基盤の強化を目的として、女性の経営・社会参画の重要性が政策的に位置づけられてきた。こうした流れの中で、農業における女性参画も「人材確保」という文脈で語られることが多い。そのような中で、近年展開されている「農業女子プロジェクト」に象徴されるように、農業に関わる女性の姿が可視化され、発信される機会は確実に増えてきた。

 これまで主に家族経営の中で担われてきた農作業や販売、加工、対外的な対応など、女性の関与が改めて注目されること自体には意義がある。農業の現場を支えてきた多様な担い手の姿が共有されることは、農業の裾野を広げることにもつながるだろう。

 一方で、女性の参画が「不足を補う存在」としてのみ語られることには、慎重であるべきだと感じている。「人手が足りないから」、「地域を元気にするために」という理由で女性の活躍が期待されるとき、その前提として、女性自身の選択や意思がどこまで尊重されているのかが問われる。期待が先行する一方で、発言の機会や判断への関与が限定されたままであれば、それは参画とは言い難い。

 

農業を職業として選びたいと考える若い女性も

 都市農業が広がる大阪では、マルシェや直売所、無人販売など、小規模な販売形態が多く見られる。流通全体から見れば大きな割合ではないが、都市農家にとっては重要な収入源となっており、そこでは女性の経験や感性が大きく生かされている。どのような人が、どのような思いで野菜を育てているのか。それを、どのように気軽に、おいしく食べられるのか。食の「向こう側」が見える売り方への需要が、確実に存在していることも確認できた。これらの事例は、女性の参画が補助的な役割にとどまらず、農業経営や消費者との関係性を更新する力を持っていることを示している。

 実際に大阪府内で農業に関わる女性たちに会ってみると、政策で語られる「労働力」や「経済成長」といった言葉とは異なる動機が見えてくる。彼女たちは、農業や食そのものに魅了され、農業を楽しみながら、女性であることを一つの強みとして、生産、販売、自家加工などに工夫を重ねていた。大阪のような都市部では農業以外の就業機会も多いが、それでも家の農業の規模や方針、自身の価値観をふまえたうえで、農業に関わるという選択をしている点は大変興味深い。

 また近年、農業を職業として選びたいと考える若い女性が、農業の世界に関心を持つようになっていることも、調査の中で見えてきた変化の一つである。農業が「継ぐもの」だけでなく、家族経営の中で、農家の「嫁」として半ば当然のように農業に関わり始めるケースも少なくない。その中で、農業が「選ぶもの」になりつつあることは、前向きに受け止めたい。しかしその入口において、依然として家族関係や性別役割を前提とした説明がなされる場面があることも、聞き取りの中で浮かび上がってきた。

 

農業側がどう変わる必要があるのかを問い直す年に

 農業経営への女性参画を進めるとは、単に担い手の数を増やすことではない。誰が、どのような立場で、どの段階の意思決定に関わるのか。そのプロセスを丁寧にひらいていくことが不可欠である。

 2026年の節目を、女性に何を求めるかを考える年ではなく、農業の側がどのように変わる必要があるのかを問い直す年としたい。

 JAやJAグループにおいても、女性役職員やJA女性組織が、現場で培ってきた経験や視点を、経営や組織運営にどう反映させていくのかが、あらためて問われている。女性の参画は、農業を「支える人手」を増やすためだけのものではない。農業そのもののあり方や、地域との関係、消費者とのつながりを見直す契機となる。新しい年の始まりに、農業経営への女性参画を、改めて私たち自身の課題として考えていきたい。


 そえじま・くみ 摂南大学農学部食農ビジネス学科准教授。農山漁村で活動する女性を応援する(一社)うみ・ひと・くらしネットワークの主宰者の一人。最近の著書に『大阪の農と食を支える女性たち』(大阪農業振興協会ブックレット№4)などがある。

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