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日本農民新聞 2019年6月25日号

2019年6月25日

このひと

農林水産業みらい基金の運営方向

 

一般社団法人
農林水産業みらい基金
事業運営委員長

山口廣秀 氏
 ※廣はまだれに黄

 

農林水産業と食とくらしの発展へ
チャレンジに“あと一歩の後押し”を

 

 2014年、農林水産業と食と地域のくらしを支える全国各地の取組みの支援を目的に、農林中金が200億円を拠出し「農林水産業みらい基金」(以下=基金)は設立された。この5年の取組みを振り返りつつ、今後の基金の運営方向を、助成対象案件を審査・選定している事業運営委員会の委員長を務める山口廣秀氏に聞いた。 ※廣はまだれに黄


 

農林水産業の専門家でない視点から

運営委員長を引き受けられた経緯について。

 基金の設立時、意思決定機関である理事会のもとに、いわば“実働部隊”としての事業運営委員会を設置するので、その委員長を引き受けてくれないか、との話がありました。私は、日興リサーチセンター理事長としての本業もありますが、農林水産業の現場にも赴き助成対象事業を審査する仕事であることを知り、魅力も感じました。農林水産業の知識は十分には持ち合わせていませんでしたので、自分にとって勉強になると思うとともに、農林水産分野の専門家ではない者の視点も必要ではないかと思い、お引き受けしました。
 基金は、様々なプロジェクトに対し事業・活動資金を支援することを仕事としていることから、ファンドのような要素もありますが、我々の助成金は、返済や配当を求めることがない“渡し切り”の資金です。それだけに、どの程度のリスクのあるプロジェクトなのかを見定めなければなりません。非常に厳しい判断が求められますが、そこに難しさや面白みがあり、私の役割もあるのではないかと感じています。

 

意欲的な取組み支援し明るい方向へ

基金が果たす役割をどのように受け止められていますか。

 基金は、農林水産業の「持続的発展を支える担い手」、「収益力強化に向けた取組み」、農林水産業を軸にした「地域活性化に向けた取組み」を支援することを目的としています。
 設立当時はTPPの交渉の最中で、農業はじめ第一次産業のGDPに占めるウエイトは低下の一途を辿っていました。就農者も漸減傾向で高齢化も進み、国際的な圧力も様々に存在する非常に厳しい経営環境だったと記憶しています。
 そうした中でも、新たな方向性を見つけ出そうと意欲的な取組みを支援し、少しでも日本の農林水産業を明るい方向に導いていけないか、との考えからはじめた当基金の取組みは、非常に意義のある事業だと受け止めています。

 

全体の道筋のなかで課題を明確に意識

審査のポイントと助成先の特徴は?

 我々の基本的考え方と助成対象先審査のポイントは、およそ次の5つの観点に集約されます。
 自らのビジョンと課題を明確に捉えているかの「課題の明確さ」。他者のモデルとなり得る創意工夫ある取組みかどうかの「新規性・モデル性」。地域の人々との協調・連携や地域資源の活用などの「地域貢献・内発性」。新しい技術の導入などで新たな価値の創造につながる「イノベーション・革新性」。助成後の販売戦略など事業継続の確からしさという「継続性」です。
まずは自発的なチャレンジであることが重要です。それが地域の抱える様々な課題の解決につながっていき、その延長線上として他のチャレンジにも波及していく可能性があること。また地域で行政とも連携ができ、幅広く地域全体にプラスが及んでいくようなものであること。その上で、他にはない独自性や創意工夫があることなどが重要なポイントです。
 チャレンジの過程で、プロジェクトが抱える課題が明確に意識され、解決すればプロジェクト全体の実現に至る道筋が見えてくるような課題を、「基金の支援で解決でき、道が拓けてくる」ことになれば素晴らしい。そうした思いから“あと一歩の後押し”を我々の重要な役目としています。
 これまでの助成先は、時代の流れのなかで、ICTを駆使し生産性を高め、魅力ある農林水産業を目指す取組みが非常に多くなっています。6次産業化の実現に向けた輝かしい取組みもあります。
 そのほかにも、インバウンドや国内の旅行客に農業体験をしてもらいながら、それを地域の発展につなげていこうとする農業体験ツーリズムを意識したプロジェクトや、日本の得意技の安全・安心を看板に海外に打って出ようとするプロジェクトなど、助成対象事業の内容は様々ですが、全てに共通するのは、事業経験に裏打ちされた新たなアイデアではないかと考えています。その中には、動き出してみれば“コロンブスの卵”といえるものも少なくありません。

 

地味でも実現への強い意欲が心うつ

今年度の募集が始まりました。応募への期待は?

 どういうプロジェクトを打ち出し、どういう形で助成を受けるかに、知恵を巡らせていただきたいと思います。ICTを駆使した申請案件も増えてきていますが、我々が独自性やモデル性があるものを採択すれば、自ずと他の地域への波及も出てくるのではないかという気がしています。
 一方で、地域や農林水産業者が抱えている課題の解決を、地味であっても着実に実現していく強い意欲を感じられる事業は、我々の心に訴えてくるものがあります。
 我々としては、面白い案件を期待する一方で、一見地味な案件でも、そこから得られるものが大きければどんどんピックアップしていきたいと思っています。「取り上げてもらえないだろうな」と思わずに、是非チャレンジしてもらいたいと思っています。

 

国全体の発展は元気な農林水産業から

これからの第一次産業への期待を。

 日本は四面を海に囲まれ、豊かな山や里が存在します。農林水産業、特に農業が発展していかなければ、この国全体の成長可能性は悲観的にならざるを得ません。元気な農業、林業、水産業があって初めて国全体の発展が展望できると思っています。是非、農林水産業の発展を実現してもらいたい。我々もそのための支援を精一杯していきます。
 「安全・安心」ひとつとっても、日本の農林水産物には海外から熱い眼差しが注がれています。そういうものを意識した展開は、これからの第一次産業のポイントになるでしょう。海外からの旅行客に喜んでもらえるような第一次産業の活用も、十分発展の可能性があると思います。
 現場には、新しい芽がたくさん芽吹きつつあると確信しています。


 

〈本号の主な内容〉

■このひと 農林水産業みらい基金の運営方向
 一般社団法人農林水産業みらい基金 事業運営委員長 山口廣秀 氏

■特集■ 食料・農業・農村基本法 施行20年
     国民の食を守る
      食料安全保障の確立にむけて

 ◎食料・農業・農村基本法20年とこれから
   福島大学 農学群食農学類長 生源寺眞一 氏

 ◎食料安全保障の確立へ JAグループの役割と決意
   JA全中 会長 中家徹 氏

 ◎新たな食料・農業・農村基本計画の検討にあたって
   食料・農業・農村政策審議会 会長
   東京大学大学院教授 中嶋康博 氏

 ◎食料安全保障を考える視点
   (株)農林中金総合研究所 基礎研究部長 平澤明彦 氏

 ◎G20新潟農業大臣会合

■クローズアップインタビュー
 アグリビジネス投資育成(株) 取締役代表執行役 森本健太郎 氏

■JA人づくりトップセミナー ~これからのJA人づくり~
 JA全中が開催

■イネいもち病 話題と防除対策
 元農研機構中央農業総合研究センター 小泉信三 氏

行友弥の食農再論「教訓を語り継ぐ」

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