日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2024年10月18日(増刊)号

2024年10月18日

第30回 JA全国大会 記念号(本編)

〈本号の主な内容〉

■第30回 JA全国大会に向けて
 JA全中 代表理事会長     山野徹 氏

■事業が果たす役割
 JA全農 経営管理委員会会長  折原敬一 氏
 JA共済連 経営管理委員会会長 青江伯夫 氏
 農林中央金庫 代表理事理事長 奥和登 氏
 JA全厚連 代表理事会長    長谷川浩敏 氏
 家の光協会 代表理事会長   栗原隆政 氏
 ㈱農協観光 代表取締役会長
 (一社)全国農協観光協会 代表理事会長
                 篠原末治 氏
 文化連 経営管理委員会会長  八木岡努 氏

■友誼団体からのメッセージ
 全国農業会議所 会長      國井正幸 氏
 日本生協連 代表理事会長    土屋敏夫 氏

■中央会アンケート
 JA北海道中央会 専務理事   柴田倫宏 氏
 JA青森中央会 常務理事    野呂文人 氏

■JAグループへの期待
 農林水産省 経営局 協同組織課長 新川元康 氏
 農林水産省 経営局 金融調整課長 宮田龍栄 氏

■【特別企画】JAの女性活躍に向けた現状と課題
 ㈱農林中金総合研究所 客員研究員 斉藤由理子 氏
 JAグリーン近江 代表理事組合長  大林茂松 氏
 JAみえきた 代表理事組合長    生川秀治 氏
 JAぎふ 代表理事組合長      岩佐哲司 氏
 JA松本ハイランド 代表理事組合長 田中均 氏
 JAはだの 代表理事組合長     宮永均 氏

■農業支援サービス事業体紹介


第30回JA全国大会にあたって

 

協同活動と総合事業の好循環で

組合員・地域住民との接点・つながり強化

 

JA全中
代表理事会長

山野徹 氏


 

今回は30回目となる節目のJA全国大会です。JAグループを巡る情勢や課題をどのように認識し、議案の検討をすすめてきましたか。

 前回の第29回大会から3年。この間、わが国の農業・農村・JAを取り巻く環境は大きく変わりました。コロナ禍で人々の価値観が変わり、環境問題も自国だけのことを考えていては世界から取り残される状況となりました。ロシアのウクライナ侵攻から食料の安定供給が大きな課題となり、食料安全保障の確立や食料自給率の低下に改めてスポットが当たりました。

 これを踏まえ大会議案の検討に当たっては、前回大会の実践状況と課題、食料・農業・農村を取り巻く環境、地域・組織・経営に関する将来の見通し、という大きく3つの視点で検討を行ってきました。

 併せて、食料安全保障のリスクが高まるなか、食料・農業・農村基本法が改正されました。JAグループとしても、組合員・消費者の負託に応えるため、食料安全保障の確保へ貢献していく必要があります。

 さらに、国連は、来年2025年を2度目の国際協同組合年に制定しました。このような状況のなかで、持続可能性に資する取組み、デジタル技術の活用、人を大事にする経営といった社会的潮流も踏まえて、これからのJAグループの取組み方向を検討してきました。

 

今大会のスローガンのねらいや思いと、具体的実践へのお考えを。

 JAグループの存在意義を『協同活動と総合事業で食と農を支え、豊かなくらしと活力ある地域社会を実現する』と改めて整理しました。「食と農を基軸に地域に根ざした協同組合」として役割を発揮し続けるために、国際協同組合年も踏まえ今回の大会ではこの存在意義を統一的に確認し、組織内外に周知し理解・共感を広げていきたいと考えています。

 この存在意義をもとに、主題は『組合員・地域とともに食と農を支える協同の力』とし、食料・農業への貢献と併せて、「組合員」という言葉を入れました。「組合員」が主題に入るのは、全国大会では初めてですが、組合員が主役、組合員のための組織であることを改めて意識したものとしています。

 副題は『協同活動と総合事業の好循環』。JAを取り巻く環境が厳しいなかで、協同組合の原点である「組合員・地域とともに」、JAの特長である「協同活動と総合事業の好循環」を通じて、組合員との接点や繋がりを強化し、JAの仲間をつくり、組織基盤・経営基盤を強化していくことが重要、との思いからのテーマです。

 大会では、JAグループの存在意義の発揮に向けた5つの取組み戦略を提起しています。

 組合員・地域社会に提供する価値の最大化に向けた「食料・農業戦略」と「くらし・地域活性化戦略」、価値提供を支える「組織基盤強化戦略」と「経営基盤強化戦略」、国民理解醸成に向けた「広報戦略」の5つです。このそれぞれの戦略を、JAの実情や課題に応じて選択し実践する。そして各戦略が有機的に連携し、好循環を生み出すことで、JAグループの存在意義の発揮につながっていくことを目指しています。

 

取組み戦略のポイントは。

 「食料・農業戦略」では、次世代の担い手の確保や多様な農業者への支援、環境に配慮した農業の推進により農業生産基盤を支えること。また、総合事業を通じて、JAグループが一体となって、農業所得の増大と、安全・安心な国産農畜産物の安定供給を実現することで、食料安全保障に貢献していきます。

 「くらし・地域活性化戦略」では、協同活動と総合事業を通じて、組合員の豊かなくらしの実現と、地域社会の活性化・地域コミュニティの維持による地域社会の持続的発展に貢献します。訪問活動等の対面接点とSNS・アプリ等の非対面接点による事業・部門の垣根を越えた「くらしに寄り添う接点創出」により組合員のニーズを把握し、活動と事業を通じて価値の最大化を図っていきます。

 「組織基盤強化戦略」は、一言で言えばJA仲間づくり戦略です。組合員の意思反映に向けて組合員との対話に取組みます。組合員の願い・ニーズを把握し、協同活動と総合事業を通じて実現することで組合員との関係強化を図り、組合員とともに営農やくらしの実現に取組みます。

 併せて食と農を基軸として地域に根ざした協同組合として、さらなる助け合いの力を発揮するため、JAの仲間づくりに取組みます。「人」あっての組織です。農家組合員総数が高齢化とともに減少していくなかで新たな仲間をつくり、組合員教育、職員教育にしっかり取組んでいきます。

 「経営基盤強化戦略」では、将来にわたり価値を提供していくために、不断の自己改革として財務・収支の改善を図ることで、持続可能な経営基盤の確立に取組みます。また、高度なガバナンス・内部統制の構築に取組むことで、組合員・利用者から信頼される組織・業務運営をすすめます。

 JAの組織基盤・経営基盤を強化していくための原動力となるのは、役職員の力です。役職員一人ひとりが最大限役割発揮できるように、組合員・地域から信頼される協同組合らしい人づくりをすすめるとともに、多様な職員が働きやすい、働きたいと感じる職場づくりに取組みます。

 「広報戦略」では、食料・農業・農村基本法の改正をふまえた「食料安全保障の確保」「適正な価格形成」に向け、消費者の皆さまに理解いただき、国産農畜産物を手に取っていただけるような広報に取組みます。

 また、JAの存在意義、提供する価値について理解・共感を醸成するため、社会との対話を行うとともに、国際協同組合年もふまえ、協同組合の役割や価値に対する理解の醸成を図るための広報に取組みます。

 

2度目の国際協同組合年と環境問題への対応は。

 国際協同組合年の目的の一つに「協同組合の事業・活動・組織の充実を通じて、SDGsの達成に貢献すること」が掲げられています。

 協同組合間やステークホルダーとの連携を強め、実践を通じて、協同組合の理解促進や認知度向上に努めていきたいと思います。

 JAグループでは「SDGs取組方針」に基づき、事業・活動を通じて様々な社会課題解決に取組んでいます。JA独自のSDGs方針を策定するJAが出てくるなど、持続可能性に関する意識は、組合員・役職員に着実に浸透してきています。

 ここ数年、毎年のように地震や自然災害がわが国を襲っている現実を踏まえても、気候変動を始めとして環境問題にそれぞれの地域でしっかり取組んでいくことは、重要な課題です。

 

社会的な潮流としてデジタル化への対応は。

 組合員が多様化するなかで、組合員との接点、コミュニケーションにおいても、これまでの対面だけでなくSNSを含めた非対面接点も重要になると考えており、デジタル技術の活用は各戦略においても位置付けています。

 JAのデジタル化は効率化を意識したものが大半でした。実際、JAグループにおいても人手不足は問題となっており、デジタル化で業務の効率化や生産性の向上に、引続き取組んでいく必要があります。

 一方で、非対面接点の活用とともに、データを活用した成長戦略にも取組んでいく必要があります。データ分析やデジタルマーケティングなど、JAの事業・経営に貢献する取組みの検討も始めているところです。

 重要なことは、デジタル技術を活用し、効率化戦略と成長戦略を企画・実践することができる「デジタル人材」を育成していくことと考えています。中央会・連合会が一体となって、こうしたJAの事業・活動を支援する取組みを検討し、JA運営の一助になっていきたいと思います。

 

基本法の改正を踏まえ、国産農畜産物の「適正な価格形成」の実現が、今後の重要な論点となっていますが。

 現在の農畜産物価格は、生産コストを適正に反映したものとは言えず、持続可能性という観点から農業者の経営は大変厳しいものとなっています。基本法改正の「適正な価格形成の仕組み」の議論では、世界的な物価上昇のなか、生産コスト増加分を誰かに押し付けるのではなく、皆でどう受け持つかを考えるものであると認識しています。生産者だけでなく、加工・流通・小売りなどの事業者の皆さまや、消費者の皆さまに理解いただき、国産農畜産物を手に取っていただけるような広報が、よりいっそう重要になってきます。

 JAグループは、令和2年から「私たちの『国』で『消』費する食べ物は、できるだけこの『国』で生『産』する」、「国消国産」のキーメッセージをもとに様々な取組みを進めています。

 前述の5つの取組み戦略のうち「広報戦略」では、適正な価格形成の実現などを図るため、多くの消費者のみなさんに、食と農の現状や課題を知っていただき、実際に国産農畜産物を手にとっていただけるような施策を展開していきます。

 具体的には、子育て層と若年層を重点訴求対象に、JA直売所を訪問すると、国産農畜産物があたるキャンペーンを実施するほか、JAグループ各組織で活用可能な、乃木坂46やJAグループサポーターの林修先生と連携した資材を活用した広報に力を入れていきます。

 今年度初めての取組みとしては、10月16日の「国消国産の日」を「国消国産一斉行動日」と定め、その日にJAグループ各組織が、広報戦略などに応じてWeb・SNSを活用したり、店舗・直売所などを基点とした何らかの広報を展開します。

 

最後に、大会決議の実践に向けた決意とメッセージを。

 全国のJAの共通の意思である第30回大会決議を、各JA・県域で、しっかりと実践していっていただきたい。

 いま、農業・農村・JAグループは大きな転換期を迎えています。この転換期をチャンスと捉え持続可能な農業と地域を未来に繋げていただきたい。

 昨今の資材価格や生産コストの高止まり、適正な価格形成など課題は山積していますが、基本法の改正や国際協同組合年をチャンスと捉え、全国大会を契機に全国各地の仲間とともに、農業・農村・JAグループの未来を切り拓いていこうではありませんか。

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