日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2019年6月15日号

2019年6月15日

農林中央金庫大竹和彦専務理事アングル

次期JAバンク中期戦略のねらいとポイント

農林中央金庫
専務理事
大竹和彦 氏
変化を追い風に 新たな価値創造へ挑戦
農林水産業を牽引しさらなる持続的成長を

 JAバンク(JA・信連・農林中金)は、本年4月からスタートする「JAバンク中期戦略」(平成28~30年度)を策定した。JAバンクが3か年ごとに策定する総合的戦略である「中期戦略」のねらいとポイントを、農林中金の大竹和彦専務に聞いた。


10年後のJAバンクの目指す姿掲げ

まず、現JAバンク中期戦略の成果から。

 今年度は、現行の中期戦略(25~27年度)の最終年度にあたります。現行中期戦略では、10年後のJAバンクの目指す姿として、「食と農、地域社会へ貢献することによって独自の存在感を発揮すること、そして利用者の満足度・信頼を高めながら各地域でシェアを維持・向上し、将来にわたり安定的な事業基盤を確立すること」を掲げました。農業メインバンク機能の強化、生活メインバンク機能の強化、人材育成・能力開発などを柱に、県域ごとに設定した目標を確実に達成するべく、従来以上にPDCAを意識しながら取り組みに力を入れてきました。

復興に向けた新たな動きを後押し

 また、この3年間で尽力してきたのが、東日本大震災の被災地復興への取り組みです。復興支援プログラムに基づき、ローンやファンド等の金融支援の他、生産資材等の費用助成やJAによる地域の復興を促進する事業への支援、風評被害払拭への支援など、非金融支援にも取り組んできました。

 被災した8JAへは、震災特例支援の枠組みにより資本増強を実施しましたが、ほぼ計画通りに経営は回復しており、8JA全てで優先出資の全額返済またはその方針が決まっています。しかしながら、営農再開は地域によって進捗度合が違い、特に福島は原発事故の関係もありまだまだ途半ばの状況にあります。引き続き、担い手の育成や大規模化など、復興に向けた新たな動きへの後押しに重点を置きつつ、復興の遅れも踏まえた十全な支援を継続していきたいと考えています。

農業者ニーズに十全に応える施策・態勢づくりに注力

 農業メインバンク機能の強化については、各都道府県別に選定したメイン強化先(8万先以上)への100%訪問を実践することで、担い手との関係強化を進める取り組みが定着してきました。また、多様化する農業者ニーズに応える農業融資担当者の育成に向けて、JAバンク農業金融プランナー資格の取得を奨励し、取得者は着実に増えています。

 地域農業への貢献の観点からは、営農経済事業、信用・共済事業等が一体となった県域担い手サポートセンターや、県域農業金融センターの構築・強化を進め、農業者ニーズに十全に応える施策・態勢づくりに取り組んできました。

 また、今年度より農業資金の新規実行額を目標に設定し、農業融資シェアの維持・向上を目指しています。さらに農業法人や大規模農家の資本増強ニーズに応え、アグリシードファンドや担い手経営体応援ファンドも設定しており、それぞれ実績が出てきています。
JA貯金100兆円に向けて

 生活メインバンク機能の強化については、大口利用者への重層訪問やターゲット推進、セット推進を展開。また、顧客ニーズに応える態勢として各県域に相続相談センター機能を整備しました。この3年間では、特にキャンペーン活動や年金受取口座獲得、PDCA管理の強化などに取り組み、「平成30年度にJA貯金100兆円」を目指すという目標を掲げて進んできました。

自ら考え自ら動く組織風土へ

 また、事業運営態勢の変革にも注力いたしました。「自ら考え自ら動く」組織風土への変革を通じて中長期的な顧客基盤拡充を図る「JAバンクCS改善プログラム」や、“顧客視点での営業”“実績と行動の見える化”を通じて短中期で事業伸張を図る「現場営業力強化」の取り組みを進め、成果も現れてきています。27年度からは、より効果的・効率的に展開するため、両プログラムを融合した「CS・現場営業力強化プログラム(融合プログラム)」の導入を開始したところです。

変革をリードする人材育成を

 人材育成については、中期戦略とあわせ「JAバンク中期人材開発計画」を策定し進めてきました。全国・県域で「JAバンクアカデミー」を立ち上げ、JA組織の変革・革新をリードできる人材の養成(能力開発)や、利用者から選ばれ信頼される人材の育成(実践力)などに取り組みました。JAの信用事業担当役員、担当部長を対象とした全国研修を開始し、特に役員研修では既に約半数のJAの参加をいただいています。

JAバンク自己改革に着手

JAバンクを取り巻く情勢や今後の課題は?

 この3年間の取り組みの途中で、農協改革の議論が沸き起こりました。JAグループは、将来目指すべき協同組合としてのJAのあり方、営農・経済事業の強化について検討を進め、平成26年11月に「JAグループの自己改革」を決定し、これを受けてJAバンクでは、農業所得増大と地域活性化への貢献に向け「JAバンク自己改革」を取りまとめ、新たな施策を順次開始しています。改革集中期間は平成30年度までとしており、次期中期戦略期間と一致しています。したがって、次期中期戦略では、この改革を柱に据えたうえで、確実に成果を出していくことが求められます。

 JAバンクとしての農業融資シェアは、全体の約60%程度を占めますが、農業資金の需要低迷や、メガバンク・地銀など他業態の農業分野進出、政策金融の伸長などを背景に、残高は減少基調にあります。

 また、担い手の大規模化などを背景に農業者ニーズは多様化・高度化しており、金融ニーズへの対応力強化とともに、6次化支援やビジネスマッチングなどの非金融面もあわせて、取引実現と関係構築を進めていくことが重要です。

 リテール金融市場は拡大の最終局面を迎え、近い将来縮小に転じると見通されています。日本の人口はすでに減少過程に入り、個人の金融資産もいずれピークアウトすると予測される中で、地域における存在感を高めるべく、シェアを確保していく一つの目標として「JA貯金100兆円」を掲げました。

 金融業界では、地銀等の生き残りをかけた組織再編が加速し、一方でゆうちょ銀行の預入限度額が引き上げられようとしています。競争が益々激化する中で、どのように地域における存在感を向上させていくかが、最大の課題と考えています。

農業者・地域から評価・賛同獲得を

次期中期戦略の基本方向は?

 中期戦略は、JAバンクの総合的戦略として3年ごとに策定しているものです。昨年のJA全国大会では、JAグループとしての今後3か年の取り組み方向を決議しておりますが、これと同軌を取りつつJAバンクとしての次期中期戦略をまとめました。目指す姿は「食と農、地域社会へ貢献することにより、地域で一層必要とされる存在へ」。副題には「私たちは、良質で高度な金融サービスの提供を通じて、『農業所得増大』と『地域活性化』に貢献します。」を掲げました。

 すでに平成26年度からスタートしているJAバンク自己改革の取り組みを完遂することと、現行戦略で新たに導入した施策や構築した態勢の定着・強化により確実に成果につなげていくことを基本方向としました。そうすることで、JAバンクとして農業・地域振興への役割を発揮し、農業者からのさらなる評価と准組合員等からの賛同を獲得します。そして、JAが地域において一層必要とされる存在になることで、事業利用の拡大・事業収益の拡大につながり、それが自己改革を推し進める原動力になる、という好循環をつくることを目指します。

JAバンク自己改革を確実に

そのJAバンク自己改革のポイントは?

 3本の柱からなっています。(1)農業所得増大と地域活性化に資する踏み込んだ対応、(2)JAが営農経済事業に全力投球できる環境整備、そして(3)農業と地域・利用者をつなぐ金融サービスの提供・地域貢献です。

 1つ目の柱については、「農業所得増大・地域活性化応援プログラム」を活用して有効な施策を具体化し、適切に展開してまいります。この「応援プログラム」は、事業規模2兆円、支援総額1000億円規模で、「農林水産業・地域社会の活力創造プラン」に連動させつつ構築しています。(1)グローバルな食市場獲得応援、(2)農畜産物の付加価値向上応援、(3)担い手の規模拡大等効率化応援、(4)地域活性化等応援、の4つの分野において、農業生産拡大・生産コスト削減や地域活性化に資する様々なメニューを用意しています。

 2つ目の柱については、JAグループの自己改革で打ち出している営農経済事業強化に対応するため、信用事業運営の合理化を課題にあげています。JAバンクでは、店舗の営業拠点化(営業強化)と信用事業合理化(効率化)による“強い店舗”づくりを目指し、合理化の一環として全JAに現金事務効率化機器を配置し、JA窓口事務の効率化と堅確化を図り、その結果として生み出される要員や時間などの有効活用を進めます。

 3つ目の柱については「農業と地域・利用者をつなぐ金融サービスの提供と地域貢献」として、移動店舗車の導入を促進し、過疎地等への金融サービス維持を図るとともに、災害時におけるBCP対応用の店舗として活用できる体制構築を進めます。農村および地域の基盤維持のための金融サービスの提供は、JAに期待される役割であり取り組みを強化していきたいと考えています。

 また、全国統一運動として『JAバンク 農とあゆむプロジェクト』を展開します。准組合員を「直接的に地域の農業や経済に貢献する存在」と位置づけ、全国のJAで農業振興に結びつく商品・サービスの企画に積極的に取り組もうというものです。例えば、“直売所利用券付定期貯金”などです。さらに、直売所利用の活性化に向け、総合ポイント制度導入による「利用者の会員化」や、クレジットカード決済端末導入による「決済手段の多様化」等に取り組み、国産農産物の消費拡大を応援してまいります。既に先進事例もたくさん出てきています。

日本農業のメインバンクとして役割発揮

農業メインバンク、生活メインバンクとしての今後の取組みは?

 「日本農業のメインバンクとしての役割発揮」を通じて、農業の担い手を全力でサポートします。「応援プログラム」を活用し、農業生産拡大や生産コスト削減に直接寄与する支援策を展開しつつ、農業融資シェアの維持・向上と、担い手全般のCS向上を実現してまいります。具体的には、JAが中心となって農地集約化、法人化、産地形成などを応援し、県域担い手サポートセンターや農業金融センターが大規模農業法人等への対応強化を図るなど、JAバンク全体で農業の成長に寄与できる総合的相談機能を果たし、「しっかりと農業を支えるJAバンク」との評価を獲得していきたいと考えています。

 「地域の生活を支える金融サービスの提供」を通じて、引き続き「JA貯金100兆円」を旗印に貯金量の伸長に取り組み、地域におけるJAバンクの存在感の一層の向上に努めます。貯金、ローン、給振、年金受取、クレジットカードなど、お客様のライフイベント・ニーズにあわせた商品・サービスを提案してまいります。また、高齢者のニーズを踏まえた相続相談態勢・次世代対策を強化します。そして、JAが中長期的に事業量・収益を確保できるような、事業運営態勢の変革にも継続的に取り組みます。

 「お客様からのさらなる信頼獲得」のためには、(1)お客様サービスの向上、(2)利用者保護等の取り組みの徹底、(3)人材育成の強化など、JA態勢の強化が欠かせません。特に、人材育成では、引き続きJA変革リーダーの養成に取り組むとともに、職員の行動の変容、金融知識の習得を促進する枠組みを構築することで、JAバンクを支える人材を継続的に確保します。

 こうした中期戦略の活動を着実に成果に結びつける観点から、各施策によって目指す姿・成果を明確化し、全国のJAで共通の目標を設定します。各県域では、その目標達成に向け、地域の実情を踏まえて施策の重点化を反映した戦略を策定しています。当金庫としては、県域ごとの態勢構築・取り組みを十分にバックアップすべく最大限の機能発揮に努めていきたいと考えています。

自ら取り組む改革でピンチをチャンスに

中期戦略の実践に向けてのアピールを。

 今、「農協改革」という形でJAのあり方そのものが問われています。農業の成長産業化や地域の活性化は、国の施策としても大変重要ですが、農業や地域はまさに我々が拠って立つ基盤であります。その農業や地域に対して、農業協同組合としていかに貢献できるか、という観点からすると、昨今の情勢はピンチではありますが、チャンスでもあります。人に言われて取り組むのではなく、自らが必要性を感じて取り組まなければ、本当の改革にはなりません。これを機に、より一層「地域にとって必要だ」と言われるJAバンクをつくっていくために、あらゆる知恵を絞りつつ、JA・信連・当金庫が一体となって努力していきたいと考えています。


〈本号の主な内容〉

■アングル 農林中金中期経営計画のねらいと実践
農林中央金庫 代表理事専務 大竹和彦 氏

■JA全農新3か年計画と2019年度事業のポイント
〇耕種総合対策事業
 JA全農 耕種総合対策部 永島聡 部長

■JA全農新3か年計画と2019年度事業のポイント
〇耕種資材事業
 JA全農 耕種資材部 冨田健司 部長

■「災害に強い施設園芸づくり」月間

■野菜の土壌伝染性病害に関する適切な防除
 農研機構 野菜花き研究部門 野菜病害虫・機能解析研究領域
 農学博士 寺見文宏 氏

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