〈本号の主な内容〉
■このひと
JA全農のこれから
JA全農 代表理事理事長 桑田義文 氏
■令和6年度 『家の光』12・1月号普及活用全国特別運動
家の光協会が展開中
組合員の〝幸せづくり〟に向けて
「お金」と「健康」をテーマとした別冊付録
■総合防除(IPM)の推進について
農林水産省 消費・安全局 植物防疫課 防疫対策室
このひと
JA全農のこれから
JA全農
代表理事理事長
桑田義文 氏
JA全農が7月30日に行った通常総代会後の経営管理委員会で代表理事理事長に桑田義文氏(前代表理事専務)が就任した。直面する人口減少、労働力不足、コスト高・物価上昇、気候変動などの事業環境に対するこれからの全農の事業運営・組織のあり方について桑田新理事長に聞いた。
全農の目指す姿の実現へ 一人ひとりの力をかたまりに
■理事長就任の抱負を。
全農は、2030年の目指す姿を「持続可能な農業と食の提供のためになくてはならない全農であり続ける」としたうえで、今次中期計画において6つの全体戦略として、①生産振興、②食農バリューチェーンの構築、③海外事業展開、④地域共生・地域活性化、⑤環境問題など社会的課題への対応、⑥JAグループ・全農グループの最適な事業体制の構築を掲げています。また、「食と農を未来につなぐ」をキャッチフレーズとしています。
私のミッションは、まずは目指す姿を実現することに尽きるだろうと思っています。令和6年度は今次中期計画の最終年度。残された短い時間、全力をあげて成果に結びつけることはもちろん、現在議論を進めている次期中期計画も、今次中期計画を発展させた計画にしたいと考えています。
全農グループには、グループ会社も含めて約2万8000人の役職員がおります。全ての職員がしっかりと対話し、連携ができ、担当する事業に同じ気持ちで向き合うことができるように発信していくことが私の大事な役割だと考えています。理事長として、自分の言葉で発信することがとても大事であると思います。
「接点強化」「つながる」「競争力強化」「人材の創造」「経営確立」の5つの視点が、全農グループ職員一人ひとりの事業に対する姿勢になるように、そして、かたまりとして力を発揮することができるように、丁寧に発信してまいります。
中期計画の進捗順調も課題は目白押し
■6つの全体戦略をはじめ中期計画の進捗は。
多少の濃淡はありながらも、順調に進んでいると考えています。
〈生産振興〉では、環境問題がこれほど注目されている中で、堆肥や汚泥を活用した肥料などの普及に取組んでいます。また、米の多収性品種の育成についても成果をあげています。
〈食農バリューチェーンの構築〉では、物流の2024年問題への対応が大きな課題です。米と青果での、船や鉄道を活用したモーダルシフトが進んできましたし、青果物の中継輸送に向けたストックポイントの設置も進みつつあります。
さらに、他企業との共同輸送がこれからはとても重要です。日清食品様などと始めた共同輸送の取組みをさらに広げ、いろいろな企業とつながっていく必要があると考えています。
私は専務時代、商品開発を担当してきました。全国のこだわりの原材料を取り扱えることは、全農グループの大きな強みです。この強みを生かして他企業のお力をいただきながら、多くの商品開発を行うことができたと思っています。
〈海外事業展開〉では、肥料と飼料の原材料については引き続き、安定供給に取組んでいきます。輸出事業では、主要3品目である米、青果物、和牛肉等の実績を見ると、国全体では前年実績を下回る中でも全農グループは102%と、拡大基調をなんとか維持できたことは一つの成果だと考えています。
〈地域共生・地域活性化〉については、自家消費型の太陽光発電や「JAでんき」の普及が進み、エネルギー供給基盤の強化を進めています。
〈環境問題など社会的課題への対応〉では、環境にやさしい資材や生産技術を体系化したグリーンメニューの実証・実践が進んでいることが大きいと考えています。
〈JAグループ・全農グループの最適な事業体制の構築〉では、大きな会社再編を行いました。エーコープ会社や飼料会社の合併を進めることができたことは成果だと思います。
また、元日に発生した能登半島地震の被災地支援にも力を注ぎました。初期段階では、生活物資の支援、燃料供給、米穀倉庫のはい崩れの復旧などの支援を進めた一方、現時点でもグループから人を派遣し、共同利用施設の復旧支援を続けています。
こうした成果があがる一方で、課題も多くあります。資材価格が高止まりする期間がこれほど長くなるとは想定していませんでした。また、夏場の猛暑は、農畜産物生産には良いことがなく、現在の一時的な米不足の一因にもなっています。青果物の被害や和牛肉の消費低迷など、課題は数多くあります。
加えて大きな社会的な要請である、適正な価格形成をこれからどう進めるのか、国や全中ともしっかり協議する必要がありますし、慢性的な労働力不足など構造的に大きな問題が数多く残されています。
適正な価格形成、環境負荷の低減など対応
■生産者・JA、消費者・実需者との向き合い方は。
5月29日に改正された食料・農業・農村基本法が、適正な価格形成の部分で求めていることは、生産から消費に至るまでの全ての関係者がしっかりとつながって価格形成を考えてほしいということ。全農グループの生産者・JA、消費者・実需者との向き合い方とは、改正基本法にどう向き合っていくのかということでもあるのでしょう。
輸入品で補完する品目はあるにしても、大前提は国内で食料生産することで食料自給率を引き上げていくということ。この方向感に沿って、JAグループの一員として全農グループは、国や全中と連携して全力を尽くします。
生産面では、生産性改善が期待できる技術開発や担い手育成事業などを耕種も畜産も行ってきました。こうした生産基盤対策に、今まで以上に力を入れなければなりません。
販売面では、輸出の拡大はもちろんですが、コロナ禍で変化した消費者ニーズ、例えば簡便・即食ニーズなどへの対応も求められます。私どもがこれからスタートさせる冷凍青果物事業などは、改正基本法の方向感に合致していると思います。
加えて前述の、適正な農畜産物価格の形成、環境負荷低減、物流の2024年問題対応の3つは、特に力を入れる必要があります。こうした課題に向けての全農の取組み姿勢として、3点あげさせていただきます。
1点目は、事業の効率性と競争力強化です。とくに付加価値をつけることにより競争力を上げていくことを重視します。また、グループ会社の連携や、場合によっては会社の集約再編を恐れずに取組むことが必要であると思います。
2点目は、積極的な施設投資や、外部出資により新規事業を開発していくことです。冷凍青果物事業などがそのよい例となるでしょう。
3点目は、全農グループの体内にない機能については、外部としっかりつながって連携するという姿勢です。
以上の3点に留意して取組んでいきたいと考えています。
現場に近い所にいる世代が組織変わる原動力に
■人材や組織をどう生かしていくか。
人・組織・資産を、全て自己調達する時代は、すでに終わりを告げているという認識は、全農グループに限らず広く浸透しているように思えます。人口減少に伴い需要が減っていくなかで、すべてを自分で揃えていくという事業の進め方は、コスト上昇を招き大きな経営リスクとなります。他社のトップの皆様方と話をしていても、この認識は共通しています。
全農グループ内、JAグループ内の連携強化は当然進めるとして、グループ外との連携、資本関係を含めた提携などはこれまで以上に積極的に考えていく必要があると思います。
人材面では、私自身、30代の頃が一番苦しくて楽しくて充実していたことから、30代に注目しています。今頑張っていないわけではありませんが(笑)。20代から10年ほど仕事に揉まれ、30代は頭の回転もフットワークもよく、周囲への反発心もありましたが、楽しみながら苦労もした10年間だったと。
私は、現場に精通した30代の世代が活性化することで、組織全体も活性化すると考えています。そこで、30代の職員を集めた研修も昨年から始めました。組織が変わる原動力になってくれる世代ではないかと期待しています。