〈本号の主な内容〉
■このひと
外食産業の現在とこれから
(一社)日本フードサービス協会(JF)会長 久志本京子 氏
■第30回JA全国大会にむけた組織協議のポイント
JA全中 専務理事 馬場利彦 氏
組合員・地域とともに食と農を支える協同の力
~協同活動と総合事業の好循環~
■JA全農 令和6年度事業のポイント
JA全農 耕種総合対策部 山田正和 部長
JA全農 耕種資材部 高橋正臣 部長
JA全農 くらし支援部 山崎智弘 部長
このひと
外食産業の現在とこれから
(一社)日本フードサービス協会(JF)
会長
久志本京子 氏
日本フードサービス協会の新会長として5月16日、久志本京子(㈱アールディーシー会長)氏が就任。初の女性会長が誕生した。コロナ禍の逆境を乗り越えてこれからの外食産業をどのように展開させていくのか、新会長に聞いた。
50周年という大きな節目をチャンスとして
■会長就任の抱負を。
私は兄が創業した㈲アールディーシー(1994年株式会社化)に1993年に入社し、2011年に兄が急逝してからはその遺志を継いで経営に携わってきた。その後若手も育ち、3年前には代表権の肩書も外した会長となり、少しゆっくりしようと考えていた。
そうした時、日本フードサービス協会の近藤正樹前会長が弊社にお越しになって次期会長の就任を打診された。2年前から副会長をさせていただいていたものの私としては大変驚き、とてもそんな大役をお受けできないと思ったが、初の女性会長だからとノセられたこともあり(笑)。また、今年は協会創立50周年だとお聞きして、これもご縁だと思い、少しでもお役に立てるのであればとお引き受けした。
50周年記念式典を開催する10月30日に向け、50周年記念事業として例えば、協会綱領の見直し、記念出版物の作成、業界をめぐる諸課題への提言とりまとめなど、特別委員会を立ち上げて早急に固めていきたい。
50周年は協会にとって大きな節目であり、これまでやろうと思っていてできなかったことなども思い切ってできるチャンスにもなると思う。人材不足で業界が苦労している中、会員同士の情報交換を深めてつながりを強めるチャンスにもしたい。
そして何より、お客様への感謝、従業員への感謝、そして飲食業を外食産業に創り上げてきた先達の方々への尊敬の念とともに、改めて、外食産業が消費者・社会にとって本当に不可欠な産業であることをご理解いただけるような取組みを行っていきたい。
働きがいある魅力的な職場にすることが急務
■外食産業を取り巻く情勢・課題は。
昨年5月のコロナ5類移行後、外食産業においては人流の戻り、インバウンドの回復などで業績は回復基調にあるものの、引き続き厳しい状況は続いている。地域や立地によっても異なるが、業態の中では、特に酒類を提供する居酒屋やディナーレストランは厳しい状況が続いており、5月25日の外食産業市場動向調査結果によれば、客数は2019年対比93.8%となっている。
食材・資材・物流・光熱費など、さらに今後も上昇することが予想される。お客様の節約志向が高まっている中で、価格転嫁に関しては慎重にならざるを得ない状態で、今後どこまで値上げが支持されるのかが重要な経営課題となっている。
加えて深刻なのが人手不足だ。当然ながら豊富な労働力を確保できる時代ではない。女性や高齢者の方々に活躍していただくことはいうまでもなく、勤務時間の配慮など働きやすい職場環境の整備や、そして何より外食産業で明るく、楽しく働いてもらえるよう、従業員満足度の高い、働きがいのある魅力的な職場にしていくことが急務だと思う。働き方改革などに業界をあげて真剣に取組まなければいけない。
海外展開については、コロナ禍の3年間は見合わさざるを得ない状況だったが、海外出店は近年増加している。今後、成長の見込まれる海外への進出への取組みがさらに活発化していくと思われる。協会の関連組織であるJRO(日本食レストラン海外普及推進機構)も6月19日の総会に合わせ、「日本産食材の輸出促進と外食産業の海外展開」をテーマに記念セミナーを行ったところだ。
産業界・社会の一員として、外食産業も2024年物流問題、SDGs、脱炭素化、脱プラスチック、食品ロスの削減、廃棄物の資源化などに取組んでいかなければいけない。外食産業が地球や環境、そして、人にやさしい職場や会社に向かっていくことは、お客様や従業員の観点からも必要な取組みで、こうしたテーマについては、協会の各委員会での取組みを一層推進していく。
これら各種課題に対応するため、先進的な取組みを行っている会員も多い。そうした情報を共有し、広くフィードバックしていくことも必要だと思う。
9つの委員会で機動的に課題に対応
■外食産業を支える協会の取組みの現況と今後は。
当協会には現在、9つの委員会があり、それぞれ主要なテーマに取組んでいる。例えば、教育研修委員会では、最新の米国のトレンドを学ぶ米国研修をはじめ、様々なセミナー・研修会を実施し、内容も階層別などに分かれている。
安全安心委員会では食の安全安心に関わるリスクコミュニケーションを実施、労務委員会は労務管理の改善や外国人の技能実習制度への取組み、行財政対策特別委員会では政府への政策要求を策定、食材の委員会では生産者の方とのマッチング、産地見学交流会などを活発に行っている。
新たな課題には、それぞれの委員会で機動的に取組んでいきたい。
互いに手を携えて新たな可能性を
■外食産業における日本農業との連携、期待について。
弊社グループは、米・野菜や魚介類など国内産の食材を重用している業態が多い。生産者の皆さんとの連携に一所懸命努めており、つながりを深めてきている。アジア展開も行っているので、安全・安心でおいしい日本の食材が現地で人気を集めていることは実感しているが、同時にコスト面の課題も感じている。
近年の円安の影響については、業界全体をみると、これまで輸入に頼ってきた部分が国産回帰に向かっている傾向はみられるようだ。
牛肉・オレンジ自由化で揺れていた1988年には、当協会として農業者に向けて「外食産業界から農業者へのメッセージ-国際競争力のあるタフな日本農業の実現を目指して-」を発表した。日本農業と外食産業が互いに手を携えていけば、新たな可能性を見出すことができる。そして日本農業が真に競争力をつけるため、外食産業は最大限の支援・協力を惜しまないというメッセージだ。
その具体的な取組みとして、協会会員の食材のバイヤーやメニュー開発者が参加して、全国の生産者との「産地見学交流会」を100回以上にわたって実施してきている。その中で行われる交流・商談などを通じて、国産食材の利用推進、新たなメニュー化につなげてきている。
生産者と積極的に連携しながら、例えば、外食産業で日本産の野菜・食材を使用した付加価値の高い健康志向のメニューを提供することは、仮に高くともお客様に十分受け入れられると思う。
将来的に考えれば、野菜・牛肉・魚類などの食材が、海外から入手できなくなることも想定され得る。そうしたことを考慮しても、外食産業と生産者の方々との連携はますます重要になってくる。
「産地見学交流会」以外にも、外食産業と生産者とのマッチングの場として、パートナーズ商談会を毎年開催しており、今年は11月20日に開催を予定している。昨年の商談会では、全国の生産者や食品事業者の方々から、外食向けの商品提案や安定供給に向けた取組みが紹介された。
コロナ禍で、農業・畜産・水産業など生産者の方たちも大変ご苦労されたので、外食産業として一緒に、できる限りのことをさせていただきたいと思う。
様々な業態で約250店舗を国内外で
■出身母体である㈱アールディーシーの企業理念や概要を。
弊社グループは「がってん寿司」「とんかつ かつはな亭」「がってん食堂大島屋」「旬菜食健 ひな野」など様々な業態で直営、フランチャイズ合わせて約250店舗を国内外で展開している。RDCのRはリーズナブル(Reasonable)、Dはデリシャス(Delicious)、Cはカスタマー(Customer)で、手頃なお値段で本物の味をお客様に楽しんでいただきたいという願いを込めている。手づくりにこだわり、お客様にご満足いただけるような商品開発、食材の調達にこだわっている。
創業以来の企業理念は「Good Person Good Company Good Future」。従業員一人ひとりの能力を引き上げることが大切と考え、研修には施設も設けて力を入れている。