日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2024年5月25日号

2024年5月25日

このひと

 

JA青年組織活動のこれから

 

全国農協青年組織協議会
(JA全青協)
会長

洒井雅博 氏

 全国農協青年組織協議会(JA全青協)が5月16日に開いた通常総会で、令和6年度の新会長に洒井雅博氏(JA全青協副会長、JA東京青壮年組織協議会顧問)が就任した。洒井新会長に、抱負やJA青年組織活動に対する思いなどを聞いた。


 

対話を通し時代に即した取組みを

会長就任の抱負について。〉

 JA全青協創立70周年を迎える今年は、今後10年をどのようにスタートさせるかが重要になってくる。JA全青協は長い歴史の中で、時代に即した様々な取組みを行ってきた。執行部をはじめ皆さんとともに、次の時代に即して必要なことを考えて取組んでいきたい。そのためには、対話をいかに進めていくかが鍵となる。コロナ禍を経て、対話の大切さ、実際に会って話し合うことの大切さを感じた。

 しかし、なかなか全国各地の全ての意見を汲み取ることは難しい。それでも、農業者にとっての共通の課題は絶対にある。その課題をしっかり柱立てていくことが必要だと考えている。

 JA都青協委員長から全青協監事や副会長を務める中、ポジションによって見え方が変わってきたと感じる。委員長として県域の代表を務めること、監事として全体を俯瞰すること、副会長として執行部を運営することは全く異なるものだ。会長という立場では、しっかりと皆から意見を聞くことを念頭に置きたい。

 私は東京の出身なので、地方の実情を肌で感じられない部分がある。だからこそ、皆の意見を集約し、代弁者としていろいろなところに伝えていく。それが私の役目で全青協の役目である。全青協は全国の意見を集約し、国や行政に伝えてきた。私もそれを引き継いで取組んでまいりたい。

 

消費者と盟友の声を活かし活動に繋げる

青年組織活動を振り返り、会長として何を重点に取組むか。

 産地としての東京は、農地面積も少なく、生産額も全国のほぼ1%しかないという側面を持っている。その反面、1番の利点は消費者に最も近い場所であることだ。

 日本の人口の10分の1に当たる約1400万人が東京都民として暮らしている。この消費者にアプローチできるのが、東京の都市農家だ。農家自身が農産物の販売先を探す、JAの直売所で販売するなど、ダイレクトに消費者の反応を知ることができる。このように消費者の反応を知っていることが私の強みだと考える。この強みを活かし、消費者の声を全国の農家に伝える一方で、全国の農家の声を消費者へ伝えていくことにも注力したい。

 学習面では、全国盟友の学習活動を基盤にしていこうと考えている。作物や地域が違えば学びたいことは変わる。副会長の時は学習面を担当し、営農をはじめ、どのような学習がプラスになるのかを考えたが、人によって多種多様であることに気づいた。

 しかし、その中にある農業者としての芯は変わらない。芯に当たる部分の学習をどのように取組むべきか。上手くいった時、上手くいかなかった時の反省を次年度に活かし、どのように学習に取組んでもらうか、執行部も勉強していく。

 そして70周年記念事業に力を入れていく。全青協の過去10年ほどを振り返ると、受け継いできたものもあれば、時代に即して変わってきた部分もある。そこをしっかりと見直し、次の一歩へと繋げていく。

 

農業者と消費者双方の理解を前提とした政策を

食と農、農政に対しての思いを。

 今回の食料・農業・農村基本法の改正に関しては、農業者はもちろん、消費者にもより絡んでくる。農業者と消費者双方に不利益がない形にしていただきたい。価格転嫁の必要性の高まりなど情勢が変化している中で、消費者理解が非常に重要になる。政府や国が一足飛びに対策を講じるのではなく、消費者との対話、農業者との対話をしっかり行ってほしい。

 農産物をいろいろなスーパーに出荷していて思うが、価格が少しでも上がると野菜の売上が鈍るなど、消費者の購買傾向を肌で感じる。このように難しい価格転嫁について、どのように消費者に理解してもらうかを改めて考えていきたい。

 

〝自分事〟として捉えた農業経営へ

有機農業やスマート農業の取組みについて。

 有機農業やスマート農業も取組むべきものだ。労働力が不足していく中で、スマート農業技術・機械を導入しながら労働力不足を解消していかないといけない。また自国でなるべく肥料も賄っていくことが望ましい中、有機農業は一つの手だと思っている。

 これらに取組む上では、まず自分たちのために取組むことが大事だ。他から言われたからなど受け身の姿勢で取組むのではなく、しっかりと自分たちで考えること。例えば、「有機肥料を取り入れることで、経営のコストが下がる」「だが、肥料をたくさん撒かないといけないから労働時間が増える」ということを、自身の身をもってきちんと理解する。スマート農業では、機械の導入で収支がとれているか、農業者自身がきちんと理解して考えなければならない。私たち含め、しっかりと勉強していかなければいけない部分だと感じる。

 

若い世代の力を活かし農業界を盛り上げる

10月の第30回JA全国大会に向けて。

 JAは「組合員のために」という。それはありがたいが、そもそもは農業者が農協を作り、「自分たちの農協」という思いで運営をしていた。それが私たちの世代になると、JAがしてくれて当たり前だという意識が強くなってきているのではないか。

 そのような意識ではなく、私たちも運営主体の一員として、JAと一緒に農業界を盛り上げていかなければいけない。そのためには、私たちの世代も総代や理事を務め、併せて勉強を進めていくことが必要だ。このように取組めば、より若い世代の力をJAが利用することができ、我々もJAを利用することを覚える。お互いにより良い発展へ繋げることができるのではないか。

 

交流の場を全国・地域単位で

同世代・次世代との横連携について。

 私たちの同世代、そしてさらに若い次世代との横連携はとても重要なことだ。相互に交流することで、いろいろな考え方があることを知り、お互いの考えを取り入れることができる。一方で、地域でもっと新しいことが生まれてくるかもしれない。たくさん交流することによって、いい影響はどんどん広がっていくだろうと感じている。


 

〈本号の主な内容〉

■このひと
 JA青年組織活動のこれから
 全国農協青年組織協議会(JA全青協)
 会長 洒井雅博 氏

■〈令和4年度 カット野菜製造の実態調査〉
 原料野菜の推計市場規模は約1070億円
 国産利用拡大に前処理・一次加工体制の強化が必要

行友弥の食農再論「『健康食品』の不健康」

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