このひと
JAバンクの取組み方向
JAバンク代表者全国会議議長
JAバンク中央本部委員会委員長
寺下三郎 氏
昨年7月27日、JAバンク代表者全国会議議長(県域信用事業を代表する者の全国代表者)とJAバンク中央本部委員会委員長に、寺下三郎氏(大阪府信連経営管理委員会会長)が選任された。寺下氏にJAバンクの取組み方向について聞いた。
JAならではの存在価値発揮を
■7月にJAバンクの代表者全国会議議長・中央本部委員会委員長に就任された抱負は?
国際情勢が非常に不安定ななかで、原油価格の高騰や円安は食料自給率に影響を与え、農業生産者も消費者も大きな不安を感じています。そうしたなかで、食料・農業・農村基本法改正への見直しが行われ、わが国農業の大きな転換点を迎えています。生産者の高齢化、担い手の減少等々が進むなかで、JAグループの使命を再認識し協同組合の理念に基づいて組合員の意思を結集し、JAバンク事業を通じてJAならではの存在価値を発揮していきたいと思います。
経営戦略シートで目指す姿実践
■現行中期戦略の取組みの現状は?
JAバンク中期戦略は、JAバンクが3年ごとに策定する総合的な戦略ですが、現行2022~24年度は、JAグループで掲げる農業・くらし・地域の領域において、信用事業を起点に総合事業性を最大限に発揮した金融仲介機能を発揮していくこととしています。
その実践に当たっては、JAごとにおかれた環境が異なるなかで、それぞれのJAは「JAバンク経営戦略シート」の策定を通じて目指す姿を設定し、その実現に向けた取組みを実践することにしています。全国の多くのJAで、農業・くらし・地域それぞれの領域で、さらなる機能発揮を目指し、実現に向けた取組みを着実に進めているところです。
例えば、地元・JA堺市の経営戦略シートでは、「持続可能な都市農業の振興」や「組合員・利用者から必要とされるJA」といった目標を設定、TAC・ふれあい相談員が組合員世帯への訪問で得た農業資金ニーズを部署横断的に共有することで、適切な資金提供に繋げています。また、全事業共通の戦略として新たに掲げた「ふれあい・よりそい戦略」の実践で、組合員・利用者への訪問・対話により関係性の構築を図っています。その要となるリーダー育成に向けた教育体系の整備と運用にも力を入れているところです。
JAバンクでは、取組みが組合員・利用者からどのように評価されているか、期待に応えられているか等々を可視化すべく、組合員・利用者満足度調査を全国のJAで実施しています。
その結果をみると、農業・くらし・地域のそれぞれの領域ともに期待に応えているとの評価をいただいており、特に相談対応やコンサルティングの期待が高いことが改めて確認できました。
今後、調査結果を各施策と照らし合わせ、経営戦略シートや取組みに適切に反映していくことが重要だと考えます。
リアルとデジタルの融合で接点再構築
■昨今のJAバンクを取り巻く情勢認識は?
新型コロナウイルスの感染は収束に向かいつつあり、企業の生産活動や雇用が正常化するとともに、対面でのイベントや集まりが再開されています。一方で前述のように不安定な国際情勢下での安定的な食料の供給・確保に、生産者も消費者も不安を高めています。
JAグループにおいても、組合員・利用者と対面でリアルに接する機会が増えているものの、コロナ禍の社会変容を通じてデジタルを活用した非対面へのニーズも顕在化しています。組合員・利用者のニーズに対して、JAバンクらしい「リアル」と「デジタル」の融合を通じて、JAの強みを活かした利用者との新たな接点の再構築が必要になるものと認識しています。
食料・農業・農村基本法見直しの議論の核となる論点は、食料安全保障の強化です。JAグループでは、平時からすべての国民の食料安全保障を確保するため、食料安定供給の強化や適正な価格形成等に取組むほか、環境負荷低減や農業者の減少に対応することで、持続的な食料生産体制の確立を目指しています。JAバンクとしては、JAグループの検討と平仄を合わせつつ、農業者の経営安定化、農業者所得向上に向けて、金融面で対応していきます。
昨年7月の金融政策決定会合においてイールドカーブコントロールが柔軟化されたことを受け、国内の長期国債金利は数年前と比較して上昇基調にあります。仮に日本銀行がマイナス金利を解除することとなれば、金融機関においては、投融資・調達等の動きがより活発化してくるものと見込まれます。
組合員・利用者にとっては、借入金利息の増加により農家経営や家計の圧迫に繋がる可能性があります。JAバンクとしても、日銀や他業態の動向もふまえつつ、組合員・利用者に対して適切に資金供給を行うことができるよう、スピード感持って対応していく必要があります。
コンサル機能強化、資産形成や運用も提案
■新年、新年度の取組み方向は?
2024年度は、現行JAバンク中期戦略の最終年度として、取組みを着実に実践していくとともに、足元の情勢変化や組合員・利用者の声も踏まえ、農業・くらし・地域の各領域の取組みを強化していきます。
農業領域では、農業者の経営・資金繰り支援をおこなうべく、融資・出資機能を提供するほか、農業者の多様なニーズの補足・解決に向けたコンサルティング機能の強化に取組みます。そのため、JAの農業融資専任担当者を対象とした実践的な集合型研修等を通じて、出向く活動や提案力の向上のサポート等を強化していきます。とにかく訪問する頻度を増やし、組合員・利用者から情報を得、そしてこちらから情報を提供することで、良好な信頼関係を築いていくことが大切です。
くらし領域では、豊かなくらしの実現にむけて組合員・利用者のライフプラン・イベントニーズを踏まえた資産形成・運用、生活資金の提案実践に取組んでいきます。
特に、NISA制度は1月から、最大利用可能額の増額、非課税保有期間の無期限化など抜本的な拡充がおこなわれており、他業態からの顧客囲い込みによる口座の獲得競争が激化する見通しです。NISA口座獲得は、付帯取引への発展や中長期的な取引継続を期待することができます。JAバンクとしても、利用者基盤の維持・確保のためには、他業態との競争に勝ち抜いていく必要があると認識しています。
地域領域では、各地域のニーズ・課題に即した地域活性化策の実践として、個々の地域課題に取組むJAの創意工夫ある取組みを、JAバンクとしてもサポートしています。
その中でも「スマホ教室」は、全国的に面的に取組まれ、取組開始以降累計で6300回にものぼり、女性部組織等からは「コロナ禍で希薄化した組合員同士の繋がりを取り戻すきっかけになった」との声も寄せられています。今年もスマホ教室を継続的に展開するとともに、地域金融教育についても新たなスキームとして検討・展開していくことにより、面的な取組みを一層広げていきます。
コロナ禍で中止となっていた農業祭などの各種イベントも4年ぶりに開催され、コロナ前の地域密着が取り戻されつつあります。地域に賑わいがなければJAの事業も成り立ちません。総合事業を通じて金融仲介機能を発揮していくことを使命としたJAバンクとして、組合員・利用者、地域から必要とされるJAバンクであるために、これからも何をなすべきかを追求していきたいと思います。
〈本号の主な内容〉
■このひと
JAバンクの取組み方向
JAバンク代表者全国会議議長
JAバンク中央本部委員会委員長
寺下三郎 氏
■新春インタビュー
内閣総理大臣補佐官(農山漁村地域活性化担当)
小里泰弘 氏
■3党農業担当議員に聞く 2024年の農政
自由民主党 農林部会長 細田健一 氏
公明党 農林水産部会長 角田秀穂 氏
立憲民主党 農林水産部門会議部門長 金子恵美 氏
■第3回 JA活力ある職場づくり全国ネットワーク研究会
JA全中が開催
■JA全農の日本産農畜産物の海外輸出戦略
JA全農 輸出対策部長 原川竜也 氏に聞く
■水稲除草剤の最近の特徴と今後の展望
日本植物調節剤研究協会 研究所 試験研究部
第一研究室長 半田浩二 氏
■2024年問題と農産物物流に求められている機能・役割
全農物流㈱ 代表取締役社長 寺田純一 氏に聞く
■新春インタビュー
日本農業法人協会 会長 齋藤一志 氏