日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2023年9月25日号

2023年9月25日

このひと

 

JA厚生事業のこれから

 

全国厚生農業協同組合連合会
代表理事会長

長谷川浩敏 氏

 

 全国厚生農業協同組合連合会(JA全厚連)は7月25日に開催した通常総会、理事会を経て代表理事会長に、長谷川浩敏氏(JA愛知厚生連経営管理委員会会長)を新たに選任した。長谷川新会長にJA厚生事業の現状と課題を聞いた。


 

地域住民・行政・他医療機関との連携強化

自身のJA厚生事業とのこれまでの関わりと就任の抱負を。

 私は、平成29年6月に、JA尾張中央の代表理事組合長となった際、 JA愛知厚生連の監事に就任しました。当時、JA愛知厚生連は8病院を経営していましたが、各病院に出向いて現状や施設等を視察させてもらいました。これが厚生連病院との出会いでした。

 令和2年6月にはJA愛知厚生連の経営管理委員会会長に就任し、令和5年6月に再任となりました。そこでは県に対し現場での具体的な課題をまとめ、解決への対応を要請してきました。そしてこの度、JA全厚連の代表理事会長に就任することとなりました。

 わが国は急激な少子高齢化と人口減少に伴い社会保障費の担い手となる労働力人口も減少しています。また、国の財政状況は年々悪化しており、医療をはじめとした社会保障費の財源確保は一層厳しさを増しています。

 こうした医療情勢の中、厚生連は地域性や規模は様々ですが、いずれも市民病院的な役割を果たしており、法的にも公的医療機関と位置付けられています。 もとは医療に恵まれない地域において、組合員と地域住民の力を結集することによって病院を設立してきた歴史的背景があり、今後とも組合員のみならず地域住民の医療・保健・福祉のニーズの変化に適切に対応していくことが厚生連の使命であります。

 5月8日に新型コロナウイルス感染症が5類感染症に分類変更されたことに伴い、今後は補助金が大幅に削減されること、また、水道光熱費をはじめとする物価高騰の影響、医療DXへの対応、労働力人口が減少する中での人材確保等、診療報酬という公定価格で運営していくことには限界もあり、経営的には厳しくなることが想定されています。

 今後も、国の諸施策を注視しながら、公的医療機関として医療・保健・福祉サービスの継続的な提供が可能となるよう、安定的な経営基盤の確立をはかるとともに、地域住民・行政・他の医療機関との連携強化に向け、JAグループ一丸となって取り組んでいきたいと、決意しています。

 

医師の地域偏在解消等へ診療報酬引き上げを

JA厚生事業を取り巻く環境と課題認識は?

 厚生連病院は、その約4割が人口5万人未満の市町村に立地するなど、高齢化や人口減少が進む地方を中心に事業を展開しています。

 わが国では、高齢者の増加と生産年齢人口の減少、少子化が続き、地方圏では、人口減少に伴う社会・生活基盤の縮小・衰退が危惧されています。医療、介護等のあり方は地域毎に大きく様相が異なり、地域の実態に即した具体的な対策の進め方が必要と考えられます。

 人材確保、処遇改善、医療DX、診療報酬並びに介護報酬制度に規定される基準をクリアーする施設整備などが、これからの医療に向けては避けて通れない課題となっており、まさしく、人・物・金・情報・技術・体制の効果的、効率的活用が持続可能な医療・介護システムを堅持するために必要となっています。

 こうした課題解決は容易ではなく、関係者が地域の中で真剣、率直に検討を重ね、理解を深めていかなければならないと考えています。時間的余裕もなく、財政的にも苦しい状況の中で鋭意取り組んでいかなければなりません。

 また、こうした医療対応に加え、第8次医療計画、地域医療構想、医師の働き方改革及び人材不足・偏在への対策などの重大なテーマにも取り組まなければなりません。いずれも大変な内容で難題になりますが、全力で立ち向かうよりほかはないと受け止めています。

 本会としては、引き続き、国に対して医師の地域偏在の解消や医療スタッフの処遇改善のための診療報酬の引上げ等を要請していくこととなります。

 

地域とともに地域医療を守る

地元・JA愛知厚生連での取り組みの特徴は?

 「地域とともに地域医療を守る」を基本姿勢とし、前方連携の強化・戦略的広報の実施・健診の強化を患者確保の3本柱と位置付け、地域から選ばれる病院を目指しています。

 医療事業においては、大規模病院は、地域医療の中心的役割を果たすため、高度医療機器の整備等により高度急性期・急性期医療の充実を図っています。

 一方、中規模病院は、その地域にふさわしいバランスのとれた医療提供体制の構築に努めており、規模の適正化及び病床機能転換を模索しながら、地域の急性期・回復期・慢性期医療を提供しています。

 新型コロナウイルスの第7・8波では、入院患者や発熱外来の受診増加・院内クラスターによるマンパワー不足など、かつて経験したことがない厳しい医療情勢に直面しましたが、こうした中でも、通常診療に加えコロナ対策に積極的に取組みました。特にコロナワクチン接種については、県の要請による大規模集団接種会場の設置・運営、市町村による集団接種、個別接種、 JAグループ愛知の職域接種を推進しました。

 例えば、JA愛知厚生連の各病院は、運営委員会を設け、地区行政に対しての補助等の要請を行っています。また、健康診断の受診率向上へ、初めて受診される方への助成の取組みを全共連の協力を得て進めています。

 

女性・青年組織と連携し健康増進活動強化

JAグループ自己改革の中での厚生事業の位置づけと役割は?

 組合員・地域住民の保健・医療・高齢者福祉 を守り続けるための健康増進活動は、厚生事業の重要な柱ですが、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う緊急事態宣言下ではこの活動が全国的にストップしました。このような状況も踏まえ、令和3年10月の「第29回JA全国大会」において、健康増進活動強化が決議されました。国も現在、癌の発見率が落ちている社会現象を受け、再び健康増進活動強化へ運動を展開し始めています。

 JA厚生連が行う健康増進活動への支援については、全国連や全青協、女性協と連携し、各組織の研修会等で健診受診の重要性を発信しています。もともとJA女性組織は健康増進への意識が高かった中で、JA青年組織もJA全青協が発行する 「ポリシーブック2022」に、定期的な健診の必要性や人間ドックの助成要請を記載しました。 5年度は、この記載内容についてさらに一歩すすめ、「毎年、JA厚生連等で人間ドックや健康診断を受診するよう」提唱しています。

 JAの自己改革では、農業者の一番の課題である農業所得の向上のための施策が展開されていますが、中でも一番大事なのは働くヒトが健康であることと考えています。

 農業者が元気で働ける環境の整備に、JAの経営者や各事業連トップが強い意識を持ち、総合事業のJAグループの中に医療や健康増進を行う事業体があることをさらに意識し、健康を軸に事業の価値を高めていってほしいと思っています。


 

〈本号の主な内容〉

■このひと
 JA厚生事業のこれから
 全国厚生農業協同組合連合会 代表理事会長 長谷川浩敏 氏

■宮下一郎農相が農水省で就任記者会見

■特集 持続可能な農業と食料安全保障
 ◎食料をめぐる世界情勢と日本の食料安全保障の課題
  農林中金総合研究所 理事研究員 阮蔚 氏
 ◎気候変動が食料システムに与える影響と課題
  農研機構 農業環境研究部門 エグゼクティブリサーチャー
                  長谷川利拡 氏
 ◎農業の研究イノベーションの方向
  -持続可能な食料供給基盤の確立に向けて-
  農水省大臣官房技術総括審議官兼農林水産技術会議事務局長 
                  川合豊彦 氏
 ◎農業生産の現状とJA全農の取組み
  JA全農 常務理事        日比健 氏
 ◎持続可能な日本の食と農へ 生協の考え
  ~「基本法」見直しにむけて~
  日本生協連 常務理事      二村睦子 氏

■JA全中 「ミライ共創プロジェクト」を創設
 第1セション 徳島県上勝町「葉っぱビジネス」に学ぶ

■農林中金・JAバンクのIT活用の取組み方向
 農林中央金庫 IT統括部 井野真吾 部長

行友弥の食農再論「義務教育は無償」

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