日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2023年9月15日号

2023年9月15日

このひと

 

〝なくてはならない全農〟へ
~これからの〝舵取り〟~

 

JA全農

経営管理委員会会長
折原敬一 氏

 

 JA全農は7月28日に第47回通常総代会を開催。総代会後の経営管理委員会で、新たな経営管理委員会会長に折原敬一氏(全農山形県本部運営委員会会長)を選任した。折原新会長に、これからの全農の事業展開と舵取りの考え方を聞いた。


 

食料安保を意識し現場を後押し

まず、就任の抱負を。

 農業、農村は現状厳しい環境にありますが、それだけに全農という組織は、JAや組合員のみなさんから期待されていると改めて感じています。

 その期待の基本は生産振興であり、全農の第一の仕事です。日本列島にはいろいろな産地があり、様々な課題が山積しています。

 先般、全中会長はじめJAグループトップと岸田首相にお会いし、現在、生産者が抱えている課題について話をさせていただきました。食料安全保障の確立を含め、基本は〝食べられること〟です。それには農業を持続させていかなければならないなかで、農業現場の生産者の思いをしっかり国に伝えながら、多方面で施策の支援をお願いしてきました。

 そのキーポイントは持続可能な食料生産です。生産資材が高騰するなどの生産現場の苦労が何とか報われるようにしなければ、持続可能な農業の実現は不可能で、それにより地域が疲弊するようなことになれば国としても大きな損失です。

 そうしたことを十分意識しながら、農家組合員に対してさらに力強い後押しをしていけるような事業を展開していかなければならないと思っています。

 

生産者、消費者、職員、経営基盤のバランスを

組合員、JA、消費者に「なくてはならない全農」の姿をどのように認識していますか?

 全農会長に求められる役割・使命は、「全農自己改革」の背景と実践をしっかり振り返りながら、「食と農を未来につなぐ」をキャッチフレーズとした中期計画を着実に実践するとともに、さらなる発展をめざし次世代へ継承することだと考えています。

 これからの3年の在任中においても、生産者と消費者を安心で結ぶ懸け橋になるという経営理念のもと、「持続可能な農業と食の提供のために〝なくてはならない全農〟であり続ける」ため引き続き邁進します。

 それらを具現化するにあたっては、第1に生産現場に寄り添い、組合員の目線に立った施策の展開、第2に消費者への訴求のあり方の深掘り、第3に職員のスキル向上と自由闊達な職場風土の構築、第4に経営基盤の安定化と盤石化に取組まなければなりません。この「生産者」「消費者」「職員」「経営基盤」の4つのバランスを意識した経営を実践していきたいと思います。

 

すいか産地づくりを組合員とともに

「現場主義」「組合員目線」を信念としている背景を。

 協同組合運動に身を投じて、半世紀。私が尾花沢市農協に入組した昭和48年頃は、養蚕の斜陽化や米の減反政策の導入などで新たな営農類型を模索する時代でした。そうしたなか、行政の支援も得ながら園芸と畜産を振興し、産地化に向けた取組みがスタートしました。

 営農指導員として、ゼロから始めたすいか産地づくりに明け暮れ、今では生産量日本一の夏すいかの産地になりました。また、県内一、東北でも有数の和牛生産地としての評価も得るに至っています。現場での幾多の試練に立ち向かった生産者を始め、行政・JA関係者が一丸となって取組んだ賜物であり、次世代に引き継いでいかなければなりません。

 そこで培った経験が、「現場主義」「組合員目線」という、私の確固たる信念となりました。

 全農にとっても、生産者の営農継続、地域農業の振興が存在意義であり、生産現場、組合員目線が何よりも重要となります。これに加え「目の数」も意識することが重要です。園芸振興や畜産振興が進んだとはいえ、全国約400万人の正組合員のうち、依然として水田農業に関わる組合員が最も多いことをしっかり意識しなければなりません。

 

活用してよかったと思える組織体に

担い手農家や農業法人とどのような関わり方をしていきたいとお考えですか?

 生産者が法人化し組織が大きくなると、JAグループの力は必要ないと判断される方々もいると思いますが、そうした面を取り払うためにも、対話のなかで我々の事業への認識を深めてもらうことが大事です。

 資材価格の高騰対策を含めて、全農が果たしている役割への認知度はだいぶ上がってきていると理解しています。各担い手団体の協力を得て価格を抑えた農業機械の開発、提供にも努めています。肥料農薬についても、コスト低減を意識した大型規格や銘柄集約などの取組みを行い、活用してもらっています。

 こうした取組みを通じて生産された農畜産物を、きちんと販売し生産者の手元に収益が入ることが大事です。大規模な担い手や法人組織にも、活用してよかったと言ってもらえるような全農の組織体を目指していきたいと思います。

 

消費者への訴求のあり方深掘り

消費者との関係づくりにどのような取組みが重要だとお考えですか?

 単に宣伝と広告を通して、国産の農畜産物を購入してもらうことだけにとどまらず、適正な価格形成へ理解を得るためにも、訴求のあり方を深掘りする必要があります。

 労働力の確保や地域共同活動の維持の観点からも、消費者という立場に止まらず、地域農業を理解し応援してもらうための訴求も必要です。そのためには、JAグループのキーメッセージである「国消国産」の運動は、JAグループ全体として、今後も幅広く展開していく必要があると思います。

 全農は様々な企業体と連携して、商品開発や地元農畜産物を活用した商品を提供しており、その認知度はだいぶ深まってきています。こうした取組みをもっと知ってもらうため、農業をもっと知ってもらうために、消費者の目線を知ることもとても大事です。国産を応援いただける企業と連携を深めた事業の展開をさらに進めていきたいと考えています。

 そうしたなかで、生産者が農業でしっかり生産基盤が構築できるようになれば、後継者も育つのではないでしょうか。

 

現場目線での活動の共有を

職員へのメッセージを。

 言うまでもなく、組織は人であり、実際に業務を遂行していくのは職員であり職場です。国民の命を預かる重要な産業に携わっていることを第一に意識すべきです。単なるサラリーマンではなく協同組合運動の原点、現場をしっかり理解しながら、日々の仕事に励む必要があります。

 そのことが新たな発想につながり、いろいろな企画を提案できる基礎になると考えます。何事も現場サイドに落とし込んで、現場目線で活動することをぜひ共有してほしいと思います。

 私も協同組合運動の実践者として、JA経済事業のリーダーとして、高い志をもつ全農職員が能力をいかんなく発揮できる環境づくりをすすめていきます。

   ◇

 これらの取組みは、経営の安定なくして実践することはできません。安定した経営のもと、JAを通じた組合員への還元、地域への貢献、職員・職場への投資を通じ、経営の盤石化を図っていきます。

 また、環境変化に柔軟に対応しながら、単純に前例を踏襲することなく見直すべきは見直したうえで、次世代に引き継いでいきます。


 

〈本号の主な内容〉

■このひと
 〝なくてはならない全農〟へ~これからの〝舵取り〟~
 JA全農 経営管理委員会会長 折原敬一 氏

■新農林水産大臣に 宮下一郎 氏

■来年2月開催 JAグループ国産農畜産物商談会
 出展者募集開始

■JA共済連が力を入れる 防災・減災に向けた取組み
 体験学習型イベントプログラム「ザブトン教授の防災教室」
 特設サイト「学んでみよう! JA共済防災サイト」の開設

■第17回 森林組合トップセミナー・森林再生基金事業発表会
 全国森林組合連合会・農林中央金庫が開催
 「農中森力(もりぢから)基金」第8回助成先が事業成果を報告

■令和5年度『家の光』12・1月号普及活用全国特別運動
 家の光協会が展開中
 組合員の〝幸せづくり〟を応援
 『家の光』の活用で家計管理の実践を

keyboard_arrow_left トップへ戻る