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日本農民新聞 2023年6月15日号

2023年6月15日

アングル

 

改正植物防疫法
~何がどう変わったのか~

 

農林水産省 消費・安全局
植物防疫課長

尾室義典 氏

 

 「植物防疫法の一部を改正する法律」(改正植物防疫法)が、4月1日から施行された。これまでの植物防疫法と何がどう変わったのか。改正の背景とねらいを、農水省・尾室義典植物防疫課長に聞いた。


 

増加する侵入・蔓延リスク

まずは、改正に至る背景から。

 1点目は、社会環境が変わってきたこと。温暖化等気候変動をはじめ、最近ではインバウンドやeコマースなどで外国のものが簡単に日本に入ってくる状況が増加していることもあって、病害虫の侵入、蔓延のリスクも増加しており、この対策が迫られた。

 2点目は、化学農薬の使用量低減等による環境負荷の軽減への対応が国際的に課題になっていること。また、耐性菌の問題などもあって化学農薬のみに依存した防除には限界があることから、農法も含めて化学農薬だけに頼らない総合的な防除への移行が必要になってきた。

 3点目は、飛躍的に伸びている植物検疫への対応。外国に農産物を輸出するには相手側の検疫条件を満たすために日本での検査が必要になるが、輸出額が非常に増えているなかで件数も非常に伸びており、この対応が急がれていること。

 この3つの課題が大きな背景となって、今回の改正に至った。

昨今の有害植物の侵入状況は?

 昨年は静岡県内で、サツマイモ等に甚大な被害を及ぼすアリモドキゾウムシという害虫が発生し緊急防除を行っている。植物では家畜動物のように大量の殺処分などはないが、発生地域では植物残渣の処分の徹底やサツマイモ等の作付禁止の措置をとっている。

 山梨県や長野県でもテンサイシストセンチュウが発生。ミカンコミバエ種群は、近年は九州地方で多数の飛来が確認されている。昨年はそれほど多くなかったが、一昨年は植物防疫法に基づく緊急防除をしなければならないギリギリの状況だった。動物ほどは目立たないにしても、植物にも常に病害虫蔓延の脅威は常にあると考えておかなければならない。よくウォッチしながら適切な措置を講じていく必要がある。

 

全国斉一に侵入調査 緊急防除周知期間を短縮

改正の主なポイントは?

 第1は、侵入調査事業の実施と緊急防除対策の迅速化だ。有害動植物の国内侵入を防止するため当然ながら検査を行っているが、例えばミバエ類は風に乗って飛んでくることもある。輸入検査だけでなく、日本に入ってきているかどうかを把握し、侵入が確認された場合はすぐに防除しなければならないため侵入状況をしっかり調査する必要がある。

 侵入調査事業はこれまでも予算ベースで行ってきたが、各都道府県がそれぞれ警戒しているものをそれぞれの裁量により行ってきた。そうではなく全国斉一な侵入調査を行うため法律として位置づけた。

 実際に侵入していることが判明し、特に重大な被害が見込まれるようなものについては、緊急に法律に基づいた一定の強制力をもった緊急防除の仕組みがあるが、これまでの法律では緊急防除を行う際の事前周知期間が30日間と定められていた。本当は今すぐにでも防除する必要があっても、30日後でなければできなかった。そこで予め緊急防除実施基準を作成し、それに合致する場合は周知期間を10日間に短縮した。また、緊急防除のうち告示を省略して実施することができる措置の内容を拡充した。

 一方で、罰則規定はないが農業者の報告義務も位置付けた。これまで見たことのない虫や病気の症状が現れた時は、普及センターや植物防疫所に報告してもらえると広がる前に対処することができる。ぜひ、農業者のみなさんに知っておいていただきたい。

 第2は、病害虫の発生予防を含めた総合防除に関する農業者への勧告、命令措置の導入だ。国は、指定有害動植物に関して病害虫の発生予防を含めた総合防除を推進するための「総合防除基本指針」を定めた。これに基づいて都道府県が総合防除計画をつくり防除の指導をできる仕組みをつくった。

 この計画では、これまではなかった農業者が遵守すべき事項を定めることができ、それに則って都道府県が必要な指導及び助言を行うことができる。それでも防除が行われず病害虫がまん延することにより農作物に重大な被害を与えるおそれがあると認められるときは、勧告、命令ができるよう措置を講じている。

 「農業者が遵守すべき事項に則した防除を行なわない場合」等には、都道府県知事が当該農業者に対し、勧告、命令を行うことができる。

 第3は、植物防疫官の検査等にかかる対象及び権限の強化。水際対策も強化し、検査の対象に農機具等物品を追加した。土がついて入ってくるような中古農機は、土の中に病害虫が含まれている可能性があることから、これまでの「植物及びその容器、包装」に加え中古農機も検査の対象にすることができるようになった。また出入国旅客の携帯品に対する質問や検査の権限も、先行して強化されていた動物検疫並みに強化した。

 第4は、輸出検疫体制の整備。農産物輸出の件数が伸びている一方で、植物防疫官の業務がひっ迫してきていることもあり、農林水産大臣の登録を受けた民間機関等が代わって輸出検査業務の一部を実施できるように措置した。現在、3機関が登録検査機関となっている。

 そのほか、有害動植物、検疫有害動植物の定義を、国際基準と整合的になるように改正した。輸出入検疫に関する違反や、法人による違反に対する罰則を強化、法目的に有害動植物の発生の予防を追加。公聴会の開催によらずに学識経験者等への意見聴取を行えるよう措置した。

 

総合防除計画を全都道府県で作成へ

「みどりの食料システム戦略」との関連では?

 「みどりの食料システム戦略」では、化学農薬使用量(リスク換算)低減への目標を定めている。

 そのためにも、前述の総合防除を推進していかなければならない。

 国は、病害虫の発生予防を含めた総合防除推進のための総合防除基本指針を昨年11月に定めており、これに基づいて現在都道府県で総合防除にかかる計画を作成中である。令和5年5月29日時点では、岩手、茨城、香川の3県が策定済みで、今年度中には全都道府県で策定を目指している。

 先述の国の指針では、病害虫の種類ごとに化学農薬による防除と化学農薬を使わない防除法をあげているので、指針を踏まえながらそれぞれの都道府県の実情に合わせた総合防除の推進計画を作っていただきたい。

 一方で我々も、法律を作り都道府県の計画ができればそれで終わりではなく、農業者にそれが浸透していくようにしていくことが今後の課題だと思っている。

 

JAの栽培暦がキーポイント

JAグループへのメッセージを。

 JAは作物ごとに栽培暦を作成し、時期ごとの防除についても触れていると思うが、都道府県の総合防除の計画が出来上がった暁には、それを踏まえた総合防除の考え方を取り入れた栽培暦にぜひ変えていっていただきたい。

 栽培暦を見て、化学農薬を散布するだけでなく排水対策や雑草の刈取りをきちんと行うことでも、病害虫の発生が抑えられることをわかっていただき、実際の現場で取組んでもらうことが重要だ。総合防除の実践には栽培暦がキーポイントになると思っている。

 残る44都道府県としっかり情報交換しながら、今年度中に総合防除の計画が全都道府県で出揃うようしっかり指導していきたい。


 

〈本号の主な内容〉

■アングル
 改正植物防疫法 ~何がどう変わったのか~
 農林水産省 消費・安全局
 植物防疫課長 尾室義典 氏

■JA全農 令和5年度事業のポイント
 〈園芸事業〉
 JA全農 園芸部 三木純一 部長

■施設園芸経営安定へ 自然災害の被害防止を
 農業用ハウス強靭化の技術対策

■かお
 農林中央金庫 常務執行役員に就任した3氏
 尾崎太郎 氏
 半場雄二 氏
 川島憲治 氏

■水稲中・後期の雑草防除対策
 (公財)日本植物調節剤研究協会
 技術部技術第1課 課長 山木義賢 氏

■クローズアップインタビュー
 NZAMの今後の取組方向
 農林中金全共連アセットマネジメント㈱(NZAM)
 代表取締役社長 牛窪克彦 氏

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