日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2023年3月30日(増刊)号

2023年3月30日

アングル

 

JA共済のこれからと
令和5年度事業計画

 

JA共済連
代表理事専務
村山美彦 氏

 

 JA共済連(青江伯夫経営管理委員会会長、柳井二三夫代表理事理事長)は3月16日、臨時総代会(書面)を開き、令和5年度事業計画を決定した。JA共済をめぐる事業環境・課題と今後の方向性、計画のポイントについて、村山美彦代表理事専務に聞いた。


 

デジタルで共済未加入者との接点づくりを

JA共済事業を取り巻く環境と課題から。

 新型コロナウイルスが感染拡大を繰り返すなか、70年にわたり運営してきたJA共済事業も大きな転換期を迎え、ここで我々は改めて原点に立ち返り、前へ進んでいかなければならないと認識しています。

 近年はコロナ禍に対応するため、組合員・利用者との非対面による接点を拡充してきましたが、依然として対面による対応のニーズも高い状況にあります。今後は対面を基本としつつ、それをフォローする形で非対面のツール等を活用していくことが重要だと考えています。

 令和5年度事業計画では、〝寄り添う〟活動の向上が大きな課題となっています。農家戸数の減少に伴い、正組合員数は減少しているものの、准組合員を合わせた組合員数はそれほど変わっていません。しかしながら、共済契約者数は減少し、組合員の保障充足状況が低下しています。かつてのJA共済は農家の方々も一緒になり、全組合員・全職員で共済を推進してきました。

 こうした取組みの背景には加入者自身の保障はもとより、共済事業の資金を農村の復興に役立てていこうという思いがありました。時は流れ、バブル崩壊後の平成6年からは、ライフアドバイザー(LA)制度を開始し、保障の提案やアドバイスを行う専門スタッフによる訪問活動を行うようになりました。そして、保障の見直し活動が重視されるようになりました。組合員・利用者の多様なニーズに応えられるようになった一方で、共済に加入していない組合員への保障提供が十分に出来ていなかったのではないかと反省しています。今こそ原点に立ち返り、行きやすい訪問先のみに出向く活動から脱却し、全組合員に寄り添っていく必要があると考えています。

 しかし、昔のような組合員を総動員しての共済推進は今の時代には合いません。新しい方法でどのようにして組合員・利用者に寄り添っていくかが問われています。既加入者に対しては「3Q活動」がありますが、未加入者に対してはオールJAで〝寄り添う〟活動を展開していく必要があります。例えば、デジタルを駆使して「Webマイページ」の登録者数を大きく伸ばしているJAがあります。

 こうした取組みにより、職員が日常的に訪問することができなくても、何かあった際にはメールで声をかける環境が構築できます。これを未加入者との接点づくりに活用し、デジタルで日常的に〝寄り添う〟活動を広めていきたいと思います。

 この活動に全職員がどう関わっていくか、活動を通して得た情報をどうLAに繋げていくかが課題です。例えるならばサッカーのように、全職員でLAにパスを回していきLAが最適な保障を提供するといった体制を構築する必要があります。今の時代に合わせて、デジタルを活用した接点をつくりながら、対面による活動を通じて、必要な人に必要な保障を提供するという原点の活動に、取組んでいくことがこれからの課題です。

 

組合員・利用者、職員、JAの〝三方よし〟で

1月末、農水省はJA共済事業の監督指針を改正し、都道府県によるJAの監督を強化することとしました。

 これまで、普及推進の研修等を実施してきましたが、コロナ禍の影響もあり、少し停滞していたのではないかと感じています。JAの職員数はこの3年間で1割程度減少しており、JA自体も効率化の命題を負ってLA数はさらに減少しています。こうした状況を背景に、推進者一人ひとりの負担も大きくなっているものと考えられます。

 まずは組合員・利用者のCS、職員のES、そしてJAの健全経営の三方をきちんと見つめなおす必要があります。職員に無理を強いることは不祥事に繋がります。こうした点を改善しなければなりません。世の中が大きく変化するなか、時代に合わせた研修をきちんと実施し事業運営をすべきというのが、今回の監督指針のメッセージだと受け止めています。

 前述の〝三方よし〟を目指し、今後は風土改革も含め、実践していく必要があると考えています。

 JA共済事業は保障提供を通じて、組合員・利用者に安心と満足を提供することはもちろん、地域・農業の発展や地域づくりにも貢献しています。JA共済事業は農業や地域とともにある事業であるということをもう一度理解してもらえるよう訴えていく必要があると思います。

 

事業基盤づくりに向けた共済事業体制総点検運動

新年度事業のポイントは?

 令和5年度の一番大きな取組みは、事業基盤づくりに向けた共済事業体制総点検運動の展開です。将来にわたって組合員・利用者に安心と満足を提供する事業基盤づくりの視点を踏まえて、JAとJA共済連が連携しながら、共済事業体制総点検運動を展開し、JAごとの課題に応じた改善策の策定・実践に繋げていきます。共済事業体制総点検運動の実践に向けて、JA指導・サポート職員の育成にも力を入れていきます。

 現在、LAの活動を支援するため、担当者共通支援システム「コロンブス」を展開しています。コロンブスは、利用者情報を一元管理することができ、共済加入状況や各種手続き状況などを漏れなく確認することができます。コロンブスを活用し、組合員・利用者一人ひとりにあわせたアプローチを実践することで、さらなる安心と満足を提供していけたらと思います。特に、今後は准組合員へのアプローチを強化していく必要があります。准組合員は地域の農業を支えるサポーターです。そのサポーター達にもう一度きちんと対峙して、ニーズに合ったサービスをオールJAで提供していくことが重要となります。そのためにも共済事業だけではなく、食やくらしに関する活動やJA女性部の活動支援などに積極的に取組んでいきたいと思います。

 

新たな生活様式への対応を加速

それでは、ここから5年度の事業計画のポイントを具体的に伺いたいと思いますが、その前段として4年度事業の総括を。

 令和4年度から6年度までのJA共済3か年計画では、「新たな時代に、変わらぬ安心を~地域とともに、農とくらしの未来を支えるJA共済~」をスローガンに、組合員・利用者に「寄り添い」、包括的な安心を「届け」、農業・地域社会とより広く・より深く「繋がっていく」ことで、組合員・利用者一人ひとりに寄り添った安心と満足の提供と、持続可能なJA経営基盤の確立・強化を実現することを目指して取組みを進めています。

 その重点取組事項の第1に、新たな生活様式への対応の加速を掲げており、ニーズの変化を捉えて昨年4月に認知症共済を新設するとともに、健康増進に資するサービスとして「げんきなカラダプロジェクト」を継続して展開しています。

 デジタル活用による手続きの整備と利便性の高い接点の構築に向けては、WebマイページやJA共済アプリの機能拡充を順次実施しています。農業・地域への貢献については「地域・農業活性化積立金」を活用した取組みを展開しています。農業分野の保障としては、昨年4月に農業者賠償責任共済を新設。今後は農業保障の取組みの浸透・定着が課題であると考えています。

 第2は共済事業の長期安定的な展開で、3Q活動やはじまる活動を通じた全契約者・組合員への寄り添う活動の実践に取組んでいます。また、必要な保障やサービスを提供し続けるため、LA・スマイルサポーターの協働による推進・保全体制、ペーパーレス・キャッシュレス手続き等の拡大を踏まえた事務処理体制と機能発揮に向けた育成体制の構築に取組んでいます。

 第3は長期にわたり契約者が安心できる土台・スキームづくりです。JA指導・サポート機能の強化に向けた連合会組織の整備、職員の育成に取組んでいます。信頼性・健全性の面では、経営体力の積上げや共済推進コンプライアンスの徹底をさらに強化する必要があると感じています。

 

新たな環境に対応した事業基盤づくり

5年度事業の基本的考え方と重点的な取組みは?

 「組合員・利用者への安心と満足の提供」というJA共済事業の原点を再確認し、JA支援機能をさらに強化し、JA・JA共済連が一体となって取組状況を検証のうえ、新たな環境に対応した事業基盤づくりを展開することで、今次3か年計画の遂行に向けた再スタートをきります。

 重点取組事項の第一は生命分野を中心とする保障充足です。LA・スマイルサポーターの推進活動を後押しする環境整備を実施し、マインド・知識・スキルの着実な習得に向け、段階的育成プログラムを構築するとともに、JA経営層をはじめ各階層へ重層的な研修会やセミナーを開催します。

 さらに、〝寄り添う〟活動の徹底に向けて、地域特性等を踏まえた活動計画の策定、3Q活動・はじまる活動のアプローチ強化、支店一体となった協働体制による取組みを実践します。

 ライフプランに応じた保障・サービス提供の強化に向けては、ニーズを捉えた新仕組みの提供に加え、ライフプランの確認を通じた収支の見える化や、必要保障額の算出、あんしんチェックの実践を通じて、万一保障と生存保障の複数提案に取組みます。加えて、組合員・利用者の健康増進、事故の未然防止・再発防止への取組みも展開します。

 第2は事業基盤づくりに向けた共済事業体制総点検運動の展開です。JA・JA共済連が連携しながら、JAごとの課題に応じた改善策の策定・実践に繋げていきます。また、JA指導・サポート機能の発揮を支えるため、JA共済連の事業実施体制を整備するとともに、職員のさらなる育成強化に取組みます。

 第3はデジタル技術等のさらなる活用です。組合員・利用者との接点拡充や利便性向上に向けて、Webマイページの登録促進やJA共済アプリの機能拡充、コロンブスの活用等に取組みます。また、JAのさらなる業務効率化、契約者対応力の強化に向けて、ペーパーレス・キャッシュレス手続きの浸透・定着、地図システム・人工衛星技術など新技術の活用・導入による損害調査・支払処理体制の構築、自動車損害調査業務の効率化に取組みます。さらに、デジタル活用体制の整備やJA共済事業の変革を進めるための人材育成に取組みます。

 第4は農業・地域への貢献です。農業保障の充足に向けて、他事業との連携強化や自動車共済の農業用安全自動車割引の新設を契機とした農業保障のご案内活動を実践するとともに、農業法人への提案力強化に取組みます。また、地域・農業活性化積立金を活用した取組みや農作業事故の未然防止活動の取組みを引き続き強化します。

 第5は信頼性・健全性等の強化です。共済推進コンプライアンス態勢の強化や、適正な事務手続きの徹底に取組みます。推進・保全、審査・査定等の各場面で不正を生じさせない対策を徹底・強化するとともに、確度の高い指標により迅速かつ的確なモニタリング等を通じ、重層的なチェック体制を構築します。

 

経営管理・経営改善の実践支援やシステム整備

JA経営基盤の確立・強化に向けた取組みは?

 全契約者・組合員に〝寄り添う〟活動の実践と、共済事業実施体制の整備に加え、さらなる事務負荷軽減に取組みます。また、経営管理・経営改善の実践支援やシステム整備に取組んでいきます。

 〝寄り添う〟活動の実践では、対面と非対面の融合による活動やLAとスマイルサポーターの協働体制の構築、他事業と連携した推進、アフターフォロー・契約・保全が一体となった3Q活動と、未加入組合員等へのはじまる活動に取組みます。また、デジタルを活用し、メール・LINE等によるアプローチや関係構築、LA・スマイルサポーターの活動機会創出や世帯未加入者、他事業利用者へのはじまる活動のアプローチ強化、コロンブスを活用したLAの活動支援や活動管理強化に取組みます。

 昨年4月に施行した新たなJA共済事業実施体制整備指針に基づき、推進・保全体制、事務処理体制と機能発揮に向けた育成体制の構築に取組むとともに、JAの課題や体制整備の検討状況に応じ、各種プログラムを活用した体制整備を支援していきます。

 JAの長期的な視点での「持続可能な収益性・将来にわたる健全性」の確保に向けて、共済事業のトレンド等を踏まえた将来収支シミュレーションを実施し、JAグループと連携しながらJAにおける経営管理・経営改善の支援に取組んでいきます。また、JAの計画策定や進捗管理・課題分析を通じた追加対策の提案・展開等の支援強化に取組んでいきます。


 

〈本号の主な内容〉

■アングル JA共済のこれからと令和5年度事業計画
 JA共済連 代表理事専務 村山美彦 氏

■令和4年度 JA組合員大学全国ネットワーク研究会
 主催=JA全中、共催=家の光協会、JCA
 次代の組合員リーダー育成へ JA組合員大学の先進事例など共有

■生産の安定・拡大へ
 JA全農の 土づくりの取組み

■農産物検査
 JAグループ・全集連が4年ぶりに全国鑑定(競技)会を開催

■農中総研フォーラム
 「森林クレジットを巡る世界の動向と日本の対応~森林・林業の新たな価値の展望と課題~」テーマに

■全農のJA支援の取組み
 JAの組合員対応向上、営農経済事業強化・改善へ

■JAグループ石油事業
 JASS-PORT古川(岐阜県)の取組み

■ウンカ類における適切な防除
 JA全農 耕種資材部

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