日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2022年11月17日(増刊)号

2022年11月17日

このひと

 

担い手の大規模化とTACの活動

 

JA金沢市

代表理事組合長
虎本重 氏

 

 

 地域農業の担い手に出向くJA担当者「TAC」の活動は、全国のJAで定着している。農業者の所得向上と地域農業の活性化がより一層求められるなか、TACの活動も一段の質的向上が求められている。JA金沢市のTACの活動の現状を、虎本重組合長に聞いた。


 

米やスイカ、金沢ブランド野菜などが主力

管内農業の概況は?

 石川県のほぼ中央に位置する県庁所在地である金沢市は、1市2JAがある。中心部は市街地・住宅地が多く伝統的な観光地としても親しまれているが、南東部には山を抱え、北西部は金沢平野が広がり農業がさかんに行われている。

 主な農産物は、米、スイカ、レンコン、甘しょ、ダイコン、タケノコ、梨、トマトなど。とくに伝統野菜の「加賀野菜」や「金沢そだち」など、金沢ブランドの野菜生産・販売に、厳しい品質管理のもと実需者販売を中心に力を入れている。管内の農業経営は大規模化が進んでおり、米では水田50ha以上の大規模経営が増加しており100ha超の経営もある。

 そのなかで当JAは、新鮮で安全な農産物の供給、貴重な自然を確保するという重要な役割発揮に努めるとともに、農業の持つ多面的な機能を生かすため、行政とも連携した取組みを進めている。

 販売事業の取扱高は、令和3年度で約63.5億円となっている。3店舗ある農産物直売所「ほがらか村」は、水田複合経営で園芸作物に挑戦する生産者の出荷先としても活用いただいている。

 

営農経済渉外をすべてTACに

TACの活動の取組み経過は?

 当JAでTACを設置したのは平成25年度。15年に、支店の営農経済部門を管内5か所に設置したアグリセンターに移管しており、その各所長代理をまずTACとした。1人あたり21戸の担い手を担当し、全体で105戸を目標に訪問活動を行った結果、担い手の情報や要望を多数聞くことができ、担い手から高い評価を得ることができた。

 そこで、各アグリセンターの営農経済渉外全員をTACとし、人数を大幅に増加させ活動を強化した。TAC設置以前から、営農経済渉外の活動を行っていたためスムーズに移行できたように思う。28年には統括する担い手支援室を本店に設置した。

 訪問対象の担い手はTAC設置当初、TACが訪問を必要としていると思われる大規模農家を選定していたが、目に見える成果があがったことから、対象を広げてきている。

 現在は合計28人がTACの活動を行っており、令和4年度は680戸を訪問し、約2万1000件の情報を収集した。

 管内では、担い手と位置付けてきた農業者が変化してきている。高齢化や収支が合わないことを理由とした離農が進み、株式会社や農業生産法人など常に収支を前提に考えている経営体への農地集積化・規模拡大が、急激に進んできている。

 こうした、従来の担い手像とは様相が異なる〝第2次担い手〟とも言える方々はコスト感覚が非常に厳しく、農協は業者の一つでしかなく気に人らなければすぐに離れる傾向があり、これまで以上に質の高い活動が要求される。

 担い手の課題を調査した結果、とくに、①労働力や後継者の問題、②肥料や農薬等の生産資材価格問題、③補助事業や融資の問題に対するニーズが高いことがわかった。これに応えるためには、これまで以上に本店各課と連携して情報提供・提案を強化していく必要がある。

 そこで、ますます厳しく多様化する農業政策の変化やJA自己改革の実践を踏まえ、〝第2次担い手〟を毎月の必須訪問先に加えることにした。4年度は訪問先を、5ha以上の農家、認定農業者、農業生産法人、株式会社、販売金額1億円以上の生産部会員に加え、大型個人農家、各センターのTACが担当している地域の組合員などとしている。

 

担い手専任TACと渉外兼任TAC

活動の特徴的な点は?

 当JAではTACを、「担い手専任TAC」と渉外や営農指導を中心とした「兼任TAC」とに分けている。担い手専任TACは、専門性を要する業務を中心に行うとともに、兼任TACが円滑に活動できるよう提案・支援する。具体的には、①法人設立・経営改善、②経営移譲を含めた事業承継、③労働力支援、④複合経営支援、⑤補助事業支援、⑥融資計画書作成支援・税制対策支援、⑦農地中間管理事業、⑧兼任TAC教育活動・本店各課との連携強化だ。

 兼任TACは、①情報提供とニーズなど情報収集、②担い手の問題解決のため、JA内部関連部署や担い手専任TACと連携を持ち解決策の提案、③生産資材・農業機械などの経済事業に関する提案活動、④園芸作付け拡大に向け品目提案し、栽培・販売技術の指導、⑤米出荷契約・肥料・農薬予約の推進と提案、⑥補助事業に対する支援を行う。

 TACが集めた担い手の情報・要望などをJA内で共有し対策につなげるため、TACシステムに入力する日報の共有のほか、TAC営農経済渉外会議を月1回開催している。参加者は、営農経済部常務、営農部部長、経済部部長、各課課長、全農TAC推進課、全農営農戦略室、TAC全員、研修講師など。部門間連携の状況確認を行い、①資産相談課と事業承継会議、②金融渉外との情報交換会、③融資課との高価格農機具購入者情報共有などを行っている。

 併せて役員報告会を月1回開催し、組合長、常勤役員、担い手支援室室長が、専任TAC活動報告会、兼任TACの連携・成長度合いの検証などを行っている。

 

ニーズ高度化でTACの活動も高度化

 現在、〝第2次担い手〟の対応すべきニーズが高度化するにつれて、専任TACの業務高度化が要求されているため、専任TACの従来業務を、兼任TACにシフトしているところだ。兼任TACにも、同行訪問などの経験を通じて専任TACと同等の活動が展開できる者も出てきているが、さらに育成強化する必要がある。

 TACの活動には、営農経済事業のノウハウはもちろんJA事業の幅広い知識が求められる場面もあるため、事業承継研修会、部門間連携研修会、農業指導者研修、TAC管理者会議など人材育成の機会を設けているほか、先輩からのサポートなどを通じて日々スキルアップを図っている。何よりも、大規模な担い手への訪問自体がTACを成長させてくれていると思う。

 

TACの活動の主な成果

TACの活動の主な成果は?

 当JAのTACは、担い手からの多様な相談や要望を受け、内容に応じてJA内部で情報を共有・連携して対策につないでいることから、JA全体の実績は微減のなかでも担い手の利用実績は微増傾向になっている。

 数字で表すことのできる成果としては、例えば次のようなものがある。

 ▼労働力支援…農福連携を11経営体で使用。無料職業紹介所による人材斡旋を59経営体で74件マッチング。外国人研修生を企業1件に紹介。

 ▼子会社㈱アグリサポート金沢での水稲農業研修による人材確保…1名を育成中。

 ▼雇用就農支援金(農の雇用事業)…8件。

 ▼事業承継取組実績…次世代総点検をTACと進めながら3経営体で継続中。TACの活動による事前情報把握と準備により他の担い手への承継が比較的スムーズ。

 ▼購買予約実績(令和3年度肥料・農薬)…5.2億円(予約率約75%)。保管場所のコストなどが少ないため価格面で担い手に還元。

 ▼補助事業による農機具購入…TACを中心に補助事業のチームを組み5.3千万円。融資金額1.8千万円。担い手の経営にあった機械の導入、税務相談まで幅広く要望を聞き取っている。

 ▼中小企業経営強化税制利用実績…6千万円。

 

一緒になって考え 選択肢を示してあげる

あらためて、TACにとって大切なこととは?

 TACの活動のめざすところについて当JAでは、担い手の満足度を最大値まで伸ばしていくことだと考えている。

 そのために大切なことは、寄り添う姿勢。一方的に提案するのではなく、コミュニケーションをとりながら困っていることや要望などを聞き、一緒になって考えながら選択肢を示してあげることが肝心なのだと思う。そして最終的に選択するのは組合員だ。

 私自身かつて、渉外活動に従事していた頃は、干拓地である河北潟を担当し、入植して非常に大規模な経営を展開している農家を回っていた。先進的でコスト感覚がシビアな大規模経営の場合、農協も一業者とみなされ敷居が高いと感じることも少なくないが、コミュニケーションを重ねるうちにたいへん仲良くさせていただいたこともあった。

 懐に入り、寄り添う姿勢で話をすれば、正直に気持ちを言ってくれるようになるものだと思う。


 

〈本号の主な内容〉

■このひと 担い手の大規模化とTACの活動
 JA金沢市 代表理事組合長 虎本重 氏

■TACパワーアップ大会2022
 JA全農が17~18日に開催
 全国表彰各部門の受賞JAと受賞TAC

■TAC・トップランナーズJA
 TACの活動 これまでとこれから
 JAたじま(兵庫県)

■JA全農の資材・技術提案
 〈園芸資材〉本州太陽シート/こめパワーマット/暖房機の保守管理/生分解性マルチ(きえ太郎Z)
 〈包装資材〉らく陳ダンボール/隔壁フレキシブルコンテナ/おいらは防曇袋五郎

■農薬の担い手直送規格

■栽培のポイントなどまとめたガイドブック、マニュアル
 JA全農が各種を作成
 ・多収米栽培スタートアップガイド(全国版)
 ・転作大豆の単収増加に向けた導入技術のガイドライン(全国版)〈基本技術・施肥・防除編〉
 ・水田転換畑への野菜導入ガイドブック
 ・国産小麦の生産拡大に向けた技術ガイドブック
 ・タマネギの秋まき直播栽培マニュアル

■JA資材店舗の組合員対応充実化へ「JA資材店舗CS甲子園」
 全農優勝店舗はJAいわて花巻、JAふくしま未来

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