日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2022年11月5日号

2022年11月5日

アングル

 

農業経営の法人化と農林中金の取組み

 

農林中央金庫
常務執行役員

川田淳次 氏

 

 農林中金では、農林水産業の成長産業化に向け、食農バリューチェーン全体を見据えた取り組みを推進している。その中で、農業法人に対する農業融資・投資をはじめ、担い手コンサルティングなど様々な角度からの支援を強化している。ここでは、担当常務執行役員の川田淳次氏に、農業経営の法人化と農林中金の取組みについて聞いた。


 

個人経営体の減少を法人がカバー

農業の経営形態の現状をどうみているか。

 農業経営体数は、2005年に約200万あったが、後継者不足などもあり2020年には約108万まで減少した。

 一方で、農業経営体のうち、法人経営体については、2005年に2万弱であったものが2020年には3万を超えており増加傾向にある。農水省によると、法人経営体は個人も含む全国平均と比べると稲作であれば10倍弱の規模、露地野菜であれば5倍ほどの規模と、1経営体の担う役割が大きく、減少する個人経営体を法人経営がカバーしている。

 背景としては、農地法改正により農地を賃借しやすくなったことや、集落営農組織の法人化が進んだこと、6次産業化など経営の多角化に取組む経営体が増加したこと、などがあげられる。

 大規模な2割ほどの経営体が販売額で8割程度を占めるようになった。JAグループもここにしっかりとコミットしていくことが大切だ。

 

資材コスト増・人材等 厳しさ増す経営課題

農業法人を取り巻く情勢と課題認識は?

 1経営体あたりの農地面積は増加傾向にあるが圃場が分散している場合が多く、効率的に管理するための技術開発やスマート農業に関するニーズが高いと言える。

 また、足下ではコロナ禍やウクライナ紛争、円安の影響で肥料・飼料・燃料価格などの生産コストが増加。一方で、販売価格への転嫁は限定的であり、大規模な経営体ほど大きな影響を受けている。中長期的には規模の追求だけではなく、脱炭素や省力化、資材の削減など、環境・資源・コストなどにも配慮した対応が求められるだろう。

 あわせて、事業承継や人材確保・人材育成の課題なども含め、農業法人を取り巻く課題は多岐にわたっており、経営環境は厳しさを増しているものと認識している。

 

経営課題解決にコンサルを推進

農業法人に対する農林中金の基本スタンスは?

 農業法人に限らず、農業者の幅広いニーズに農林中金、JAバンクとして応えていくためには、従来どおりの融資だけでは満足していただけないと考えている。

 まずは、農業法人の経営課題をしっかり把握し、それに対する付加価値の高いソリューションを提案していく必要がある。具体的には、取引先の経営課題解決に向けたコンサルティングの取組みを進めている。

 昨年度から本格的に始めた担い手コンサルは334件(2021年度末)で今年度は300件を目標に展開している。農業者の経営安定・成長、言い換えれば農業者所得の向上に向け、JAバンクの金融仲介機能の柱として位置付け取組んでいる。金融機関として事業性評価を実施し、「見える化」された経営課題に対し、できる限りJAの営農経済事業を通じた解決策を提案、進捗のアフターフォローもしながら進める。

 個別生産者の悩みはそれぞれ違うので、生産性、販路開拓、経営基盤の各分野において提案メニューを揃えている。日本政策金融(公庫)と一緒に創設したアグリビジネス投資育成㈱(アグリ社)の活用による出資や、輸出面でもスタートアップ企業等と提携した提案等にも取組んでいる。また、足下では、労働力支援の観点から人材サービス企業5社と提携したマッチングの推進も行っている。

 コンサルに取組んだ担い手の傾向を見ると、成長意欲の高い担い手ほど、融資をうまく活用し事業を成長させている。そうした担い手に対しては、さらに出資やコンサルで経営内容をより良くしていく、こうした複合的な支援が重要だと考えている。

 

総合事業活かし様々な提案を

農業法人の経営課題に対しての対応は?

 前述のように、農業資材価格の高騰に対しては、独自の災害緊急特別対策利子補給、保証料助成制度の対象災害として追加したほか、アグリ社の復興ファンドの対象に資材価格上昇の影響を受けた農林漁業法人を追加した。こうした足下の環境変化を踏まえたニーズにも金庫としてしっかり対応していきたい。

 融資面では、公庫の農林漁業セーフティネット資金やスーパーL資金等があるが、JAを通じて融資する受託方式等も含め、公庫とも連携することでメリットを享受していただきたい。もちろんJAバンクとしても農業近代化資金や独自の利子補給や保証料助成制度をはじめ、施策や商品を取り揃えている。

 これからの農業法人への対応は、経営や人材育成のサポートのほか、スマート農業や6次産業化といったニーズへの対応など、バリューチェーン全体に拡がっていくだろう。企業側のニーズとそれに見合った生産法人側のニーズの両方を結びつけるビジネスマッチングだけではなく、事業全体を共に創り上げるような提案が必要だと認識している。

 また、今後を見据えると、「みどりの食料システム戦略」等を踏まえた耕畜連携等の取組みも進んでくるのではないか。

 これには総合事業としての連携が不可欠である。担い手コンサル同様、JAの営農経済部門や全農との連携、さらには共済でのリスク保障など、総合事業としての強みをコンサルや提案活動のなかに埋め込んで、様々な角度から提供していくことが必要だと思っている。

 

JA担当職員に農業融資実践力強化研修

農業経営支援における人材育成の方向は?

 JAバンクとして、今年度からJAの農業融資担当職員にむけた農業融資実践力強化研修をWebで開始した。「出向く体制」の整備とセットで農業融資の専門人材の育成に努めているところだ。

 上期で延べ672人が受講しており、今年度中には延べ1千人以上が受講する見込み。この研修は施策・商品の知識の習得をはじめ、農業法人等へのアプローチ手法等、より実践的な研修体系として評価も得ている。

 今後は、知識習得面は動画配信し、より実践型の研修を中心とする改修を加えながら充実させていきたい。

 また、金庫が支援するアグリフューチャージャパンでは、日本農業経営大学校のこれまでの教育体系の大きな見直しを進めている。農家の子弟を中心とし、寮生活での2年間に限定した農業経営者育成の教育から、農業法人経営者のみならず従業員など多様な方も勉強できる、より自由度の高い広範な教育メニューをオンライン等も活用しながら受講できる形に転換したいと考えている。

 必ずしも就農一辺倒ではなく川中、川下を含めたアグリビジネスにかかる人材を育成できるように検討しており、食と農にかかる多彩な人材育成をサポートしていきたい。

 

包括的パートナーシップで幅広い支援

農業法人協会との連携は?

 2014年2月、全国の先駆的な農業法人の会員ネットワークである日本農業法人協会と、包括的なパートナーシップ協定を締結。農業法人の設備投資や経営の効率化、農畜産物の付加価値向上など、同協会の会員が抱えている課題に円滑に取組めるよう支援するほか、当金庫の持つネットワークを活用し、取引先の開拓や農畜産物の輸出など幅広く支援している。また、各県域の農業法人協会とも様々に連携している。

 今月12~13日、東京・日比谷公園で、全国の農業法人等が農産物の展示販売やワークショップ等を展開する「ファーマーズ&キッズフェスタ」が開催される。農林中金は、第1回目から特別協賛という形で後押しさせていただいてきた。

 生産資材価格の高騰など、農業経営をめぐる情勢が厳しい今だからこそ、このイベントを通し、都市部の消費者・子どもたちと農林水産業をつなぎ、子どもたちに農業の魅力と楽しさを発信していただきたい。


 

〈本号の主な内容〉

■アングル 農業経営の法人化と農林中金の取組み
 農林中央金庫 常務執行役員 川田淳次 氏

■持続可能な農業・地域共生の未来づくりへ
 さらなる進化めざす わがJAの取組み(集中連載第4回)
 〇JAえちご上越(新潟県) 代表理事理事長 羽深真一 氏
 〇JAちば東葛(千葉県)  代表理事組合長 青木進 氏

■第4回 協同組合の地域共生フォーラム
 みんなでつくる地域まるごとケアの実現~つながることで広がる可能性~
 JCA等がウェブ開催

■クローズアップインタビュー
 JA共済連における資金運用の情勢と方向
 JA共済連 代表理事専務 長島佳史 氏

■災害に強い施設園芸づくり
 ハウスの雪害防止 主な技術対策

※「蔦谷栄一の異見私見」は、次号11月15日号に「日本農民新聞 創刊70周年 記念寄稿」をお寄せいただくため1回休載です。

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