日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2022年9月15日

2022年9月15日

このひと

 

農林水産業のこれからの国際関係

 

農林水産審議官

小川良介 氏

 

 

 食料・農業を取り巻く世界の情勢は、コロナ禍やウクライナ紛争など予測困難な中、激変してきている。農林水産業をめぐる国際情勢とこれからの国際関係について、この7月、農林水産審議官に就任して国際関係を担当する小川良介氏に聞いた。


 

動かなくなった平和前提の貿易ルール

これまでの国際交渉と昨今の農林水産業を巡る国際関係をどのように受け止めるか。

 これまでの私の仕事は、消費・安全行政の業務が多かった。その世界に入ったのは、日本でBSEが発生した年で、消費・安全局が設立されその対策に取組んだ。その意味では、科学的根拠を有する国際ルールに基づく業務を経験してきた。

 EPAやFTAなど通商交渉・関税交渉は今、一段落しているが、私が入省した1987年頃は、ガットウルグアイラウンドで農業の関税化が議論になり、その後1995年に設立されたWTO一色になった。しかしそれも10年程度で、世界の富の半分以上を占めていた米・欧・日の時代からG20の時代になり、全員の合意がとれなくなりFTA交渉にシフトしていく。それが、10年程度で、1対1のEPAからTPPまで来てしまった。そして、今、これまでのルールの前提が崩れてきていることが問題になっている。

 つまり、これまでは一番安く生産できるところから買うことが、世界の富を増やすんだという前提だった。ところが、気候変動できちんと生産できるかが問題となり、新型コロナの世界的な感染拡大で、作ったが運べない、買ったが物が来ないという物流の障害が生じ、さらに戦争まで起きている。

 これまでの貿易交渉のルールは平和が前提になっている。それがなくなってきている今、国民に安全な食料を安定的に供給していくためには、さらに新しい考え方が必要になっている。

 日本は世界的な自由貿易を前提として経済発展してきたが、その前提条件が狂ってくれば大きな影響を受ける。それが今は肥料や飼料、燃料価格の高騰の形で現れてきている。

 食料安全保障の確立は国内でも国際的にも大きな課題となっている。

 

まずは力強い国内生産基本に自国の足固め

これからの国際交渉の基本は?

 この1年で、状況がガラッと変わった。特に今年に入ってからの肥料や飼料価格の高騰で需給関係が影響を受けている。まず世界情勢のなかで、国内でどのような対策を講じていくかしっかり考えていく必要がある。欧米では、7月に2桁台の物価上昇率となっている。日本はまだ1桁台におさまっているが、それでも大きな問題となっている。各国ともまずは自国の足固めをした上で、国際的なルールを考えていくことになる。

 今回のウクライナ紛争下でも、輸出国は輸出規制に走っている。自国で必要な部分が足りなくなれば外に出すのが減っていくのは仕方がない。これからは、こういう事態も想定して食料の安定確保のためのルールを検討していくことになるだろう。

 とにかく基本は国内生産を力強くしていくこと。そして輸入と備蓄に万全の体制を講じること。それでも、新型コロナのようなものが発生すると、買った物が届かないという事態が起きる。こうした事態への対応方法の検討もこれからの課題だ。

 

日本食を食べてもらう環境づくり

輸出面においては?

 2回目の安倍政権で輸出戦略がつくられたときの担当だった。それまでも輸出の拡大には取組んできたが、その時は、新たに日本食とタッグを組む、日本食を売りながら国産農畜産物を輸出していく方向を打ち出した。単に輸出額倍増を目指すのではなく、日本食の構成品目ごとに目標を設定し、達成することができた。

 今も勢いが緩むことなく伸長しているので、継続して進めていく。まず、食べてもらう環境づくりに力を入れていく。併せて“商売”として落ち着かせながら、新しい取引相手を探していきたい。

 

気候変動への対応はアジア全体を視野に

脱炭素など世界的な動きを踏まえての国際関係は?

 気候変動に耐えられるように、国内においては「みどりの食料システム戦略」を進めていくとともに、特に人口の半分以上を占めるアジア地域の主食である米を中心にした気候変動への対応を考えていく必要がある。

 まず、温暖化を緩和させること。そして温暖化に対応した農法を定着させていくこと。かつゼロエミッションなり化学農薬等の削減にアジア全体で取組んでいくことが必要になる。

 一概に生産性向上だけではないところに、現在の難しさがある。

 

基本法見直しは検証し補強を

食料・農業・農村基本法の見直し・検証の議論に対して。

 農業基本法から食料・農業・農村基本法に変わり20年余が経過した。まずは検証が必要だ。そこで明らかになった不足の点をしっかり補強していくことを、いろいろな関係者で議論していく必要がある。

 私の役目は、それをしっかり世界に訴えていける形にしていくことだと考える。


 

〈本号の主な内容〉

■このひと 農林水産業のこれからの国際関係
 農林水産審議官 小川良介 氏

■令和4年度 JA新任常勤理事研修会
 JA全中がWeb開催

■令和4年度 未来を描く ハッピー マイライフ『家の光』12・1月号普及活用全国特別運動
 家計簿記帳や資産管理で組合員の幸せづくりに貢献

■かお
 農林水産省大臣官房総括審議官の 杉中淳さん
 林野庁長官の 織田央さん

(第2部 米の生産・集荷・検査・保管・流通)

■農産物検査の見直しについて
 農林水産省 農産局 穀物課 米麦流通加工対策室

■令和4年産米の検査・保管にあたって
 JA全農 米穀部 金森正幸 部長

■令和4年産米に対する検査への期待
 全米販 業務部 村上豪 部長

■令和4年度 米のカントリーエレベーター品質事故・火災防止強化月間
 (8月1日~10月31日)

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