日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2022年6月15日号

2022年6月15日

このひと

 

生協から見た食料安全保障
~「つくる」と「たべる」が支え合い~

 

パルシステム生活協同組合連合会
副理事長

生活協同組合パルシステム東京
理事長

松野玲子 氏

 

 コロナ禍、ウクライナ情勢など世界規模の緊急事態の渦中にあって、食料安全保障の重要性についての認識が広がってきている。消費者サイドとしてこの情勢をどうとらえているか、パルシステム生活協同組合連合会の松野玲子副理事長に聞いた。


 

産地とのパートナーシップを育む「産直」

組織の概要と、生産者との関わり方について。

 パルシステム生活協同組合連合会は、首都圏を中心に宅配事業を展開する地域の生活協同組合と、パルシステム共済生活協同組合連合会で構成しています。

 2021年3月末現在で、会員生協は1都12県(宮城、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川、新潟、山梨、長野、静岡)で活動する13会員。組合員数は164.9万人で、会員生協総事業高は2573.5億円、供給高は1864.8億円です。事業高のうち、産直関連の商品は4割を占めています。

 パルシステムの「産直」は、単なる「産地直送」にとどまりません。日々のくらしの中で「つくる」と「たべる」がともに支え合う、パートナーシップを育むための運動がパルシステムの「産直」です。「心豊かなくらしと共生の社会を創ります」の理念で各産地とは産直協定を結んでおり、組合員と産地が互いに理解し合い、利益もリスクも分かち合える関係づくりを進めています。

 もちろん産地との交流は活発です。「産地へ行こうツアー」「公開確認会」などの交流機会を設け、意見や感想、要望などを立場を超えて率直に伝え合っています。コロナ禍の現在、直接会える機会は少なくならざるを得ませんが、以前は年間2万2千人程が参加していました。

 組合員に配付するチラシ『産直365』は、商品の記事とともに生産者の紹介記事にも力を入れています。農業に取組む思いや育てている作物のことなどを語ってくださっています。

 また、お届けする商品には、「〇〇県△△の◇◇さんが作りました」といった「産地カード」を添えています。受け取った組合員がその裏に感謝のメッセージなどを書いて返します。なかなか行き来ができずにいたコロナ禍にあって、このやり取りを生産者の方々が嬉しく思っていただけているようで、事務所に貼っている方もいると聞きます。

 

産地は「環境」もつくっている

掲げている2030ビジョンとは?

 「パルシステム2030ビジョン」を2020年に策定しました。掲げたキーワードは、「『たべる』『つくる』『ささえあう』ともにいきる地域づくり」。組合員だけではなく産地や関連するみんなで、理念「心豊かなくらしと共生の社会を創ります」の実現を呼びかけています。

 この3つのベースには「きりかえる」(一人ひとりのくらしをきりかえ、多様な命を育む環境を広げる)と、「わかりあう」(わかりあう心を広めて、一人ひとりが大切にされる共生と平和の社会をつくる)を置き、5つのフェーズをリンクさせるようにしています。

 食べ物を作る産地の生産者は、「環境」もつくっているということを、私たちはきちんと理解しなければいけません。そのベースには「平和」が欠かせません。お互いわかりあう、違いを認め合うことが、不寛容な時代に思える今、大切だとの思いを込めています。

 

「エシカル消費」はずっと前から

食をめぐる現状をどうみていますか?

 くらしの多様性が進み、孤食の増加など家庭の食事も変わってきています。そんな中でも、食べる時間は大切にしたいものです。便利さや時短の追求で、ミールキット(お料理セット)の利用が広がっている中、パルシステムでも、規格外の野菜などを活用してフードロスも考慮したミールキットなどを提供しています。

 パルシステムは食の安全や持続可能性をずっと追求してきました。種子法廃止と種苗法改正がなされた今、農業のこれからが心配の種です。

 さらに、異常気象やウクライナ情勢の影響で世界的に小麦などの需給がひっ迫する中、普通に安全に食べられていたものが、なくなることもあるのではないかという意識は広がってきたように思います。

 私たちは、「選ぶことで社会を変えましょう」との思いで活動しています。今注目が集まっている「エシカル消費」をずっと前から続けているわけです。最近では、無理だと言われた化学調味料抜きの介護食を、諦めずに働きかけて実現することができました。

 

緊急事態下の輸出規制は当然起こり得ること

食料安全保障についての考えは?

 私たちは一貫して、国産重視を基本に活動しています。ただ難しいものがあることは確かです。飼料の自給率を上げることは難しく、それがカロリー自給率の低さにもつながっています。パルシステムでは、国産の飼料米を飼料に混ぜて生産した「日本のこめ豚」「産直こめたまご」などにも取組んでいるところです。

 こうした私たちの方向性は、こんなご時世になった今、正しかったのだとあらためて思います。食料輸出国でも自国民の食べる分がなくなれば輸出規制をかけるのは当然起こり得ること。元々は全て国産でまかなっていたはずの食べ物を、安いからとどんどん輸入してきた結果が今です。国産にこだわることは、食料安全保障上も当然であるという認識は、これを機に広がっていくのではないでしょうか。

 

国民の食を守るためにもっと国が支援を

日本の農業で課題と思われることは?

 高齢化に伴う担い手不足は、日本の農業にとってとても深刻だと消費者側としてもとらえています。高度経済成長期以来、社会が農業を軽視してきた結果とも言えるのではないでしょうか。それだけに、もっと国が、中長期的な理念を持って政策を講じるべきだと思います。国民の食を守ることはすべてに通じるのですから。私たちはできることはやっています。産地の方々も同じです。誰かだけが支えるのではなく、国の支援がもっと必要です。

 日本は欧米に比べ、農業への補助金水準が低いそうですが、そこはあまり取り上げられず自己責任論ばかり言われてしまう。これではいけません。また、中山間地の多い小さな島国なのですから、大規模経営にも限界はあり、地域の風土にあわせた家族農業、小農の存在が重要であることをしっかり伝えたいと思います。

 

国民理解へ一緒にできることはたくさん

JA、全農との取組み、今後望みたいことは?

 パルシステムとして多くのJAとお付き合いしており、商品開発で使う食材も産直で仕入れたものを積極的に使っています。

 作り手と買い手は対等の立場。同じように今を生きて、次の世代にもつなぐために取組んでいます。お互い尊重しながら、言うべきことはきちんと言える関係であり続けたいと思っています。

 生協の事業も産地やJAの食材調達があってこそ。皆さんの協力なしではできません。いつもありがたいと思っていますし、家庭での食事が増えたコロナ禍の中では一層ありがたみを感じました。

 農業、JAの重要性について、国民理解へと広げるために、これから一緒にできることはたくさんあると思います。

 パルシステムでは、2008年から「100万人の食づくり運動」、2014年から「『ほんもの実感!』くらしづくりアクション」、そして今年度から「もっといい明日へ『超えてく』」と称してさまざまな活動を行っています。米消費拡大では、意識が高い人だけではなく若い人たちも気軽に参加できるよう「ごはん部」を立ち上げました。SNSも活用して、食べ方のアイデアなど楽しく情報交換などしています。

 小麦アレルギーの子どもが少なくないので、米粉の話もよく出ます。おせんべいにもなるし本当にお米は万能。米消費拡大につながる入り口は多様です。一緒にできることは、きっといろいろありそうです。


 

〈本号の主な内容〉

■このひと 生協から見た食料安全保障
 ~「つくる」と「たべる」が支え合い~
 パルシステム生活協同組合連合会 副理事長
 生活協同組合パルシステム東京 理事長
 松野玲子 氏

■国際養鶏養豚総合展2022 名古屋で開催
 「特別講演会」より
 ○2022 鶏卵を取り巻く情勢について
  JA全農たまご㈱ 東日本営業本部第一営業部長 宮崎淳 氏
 ○2022 変動する豚肉の生産と需給動向
  東京食肉市場㈱ 専務取締役 木村敬 氏

■クローズアップインタビュー
 協同住宅ローンの今後の取組方向
 協同住宅ローン㈱ 代表取締役社長 砂長俊英 氏

keyboard_arrow_left トップへ戻る