GAP普及の現状と今後
(一財)日本GAP協会
代表理事専務
荻野宏 氏
東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(東京オリ・パラ)の食材調達基準の要件を満たすことを示す認証として注目を集めたGAP(Good Agricultural Practices=農業生産工程管理)。そして東京オリ・パラ終了後も、輸出促進やSDGsへの貢献等で、GAPへの取組みの重要性が増してきている。GAPの現状と今後の方向について、日本GAP協会の荻野宏代表理事専務に聞いた。
国内で普及するASIAGAP/JGAP
■ASIAGAP/JGAPの現状は?
日本GAP協会は2006年に設立され、07年から第三者認証制度がスタートした。青果物、穀物および茶、そして17年には家畜・畜産物も対象に加えた。翌18年には、JGAPを進化させたASIAGAPが、GFSI(Global Food Safety Initiative:世界食品安全イニシアティブ)の承認を得た。JGAP/ASIAGAPの現状は、21年実績で認証数が約2100、認証農場数は約7500に達している。
信頼に足る世界基準の認証制度
■ASIAGAPがGFSIから再承認されたが。
GFSIは、食品安全にかかわる認証プログラムの適合性を判定・承認する仕組み(ベンチマーク基準)を提供、監査している。そのGFSIから承認された認証プログラムは、信頼に足る食品安全の認証制度として国際的に認識される。要は認証プログラムが世界基準の認証制度であると認められることになるわけで、非常に重要な意味を持つ。
当協会が運用するASIAGAPは、18年にGFSIに初めて承認され、新しいバージョンのベンチマーク基準についても、22年に再度の承認を取得した。それによって引き続きASIAGAPが世界の食品企業に認められるGAP認証プログラムの一つとなった。
GAP導入でコスト削減、販路拡大、経営改善
■JGAP認証を取得した農場や団体の具体例を。
代表的な事例として、JAおおいたGAP研究会を紹介したい。JAおおいたが事務局となってJGAPの団体認証を取得している。JGAP認証には個別認証と、JA等が事務局となって傘下の生産部会等がGAPに取組む団体認証がある。
個々の生産者が認証を取得する個別認証は高齢の生産者などには難しい面もあるが、団体認証の場合は取り組みの負担軽減になるとともに産地全体の品質管理にもつながる。JAおおいたはいち早くJGAP認証に取組み、団体認証の強みを活かして、高単価商品としての販路拡大や、販売エリア拡大などを実現している。
農林水産省の調査によるとGAPの導入により、生産販売の計画が立てやすい、肥料・農薬等をしっかり管理して不良在庫を削減できた、従業員の意識改革ができた等の効果がみられ、結果的に全体的な経営改善につながったという調査結果が得られている。
教育機関におけるGAPへの取組みも活発化しており、19年に農業高校としてJGAP家畜・畜産物の認証を取得した北海道中標津農業高校を先進事例として挙げたい。同校は、酪農ヘルパーや外国人にも理解しやすくするため作業手順書を日本語、英語併記で作成し、さらにスマートフォンの動画で作業手順を確認できるという高校生らしい着眼点で解決方法を作り上げた。若い世代のGAPへの取組みは、将来的にGAPの普及拡大に役立ち、日本農業の体質強化につながっていくと考える。
国際基準GAPの推進方策に期待
■国際水準GAP推進検討会が進められているが。
国際水準GAP推進検討会は昨年11月に農水省に設置され、当協会もオブザーバーとして参加した。このほど策定された「我が国における国際水準GAPの推進方策」では、今後の種々の推進方策が示されている。基本的な考え方として、我が国の農業の持続的な発展には、東京オリ・パラ後も引き続きGAPの取組みを拡大させていく必要があるとされ、「みどりの食料システム戦略」や「SDGsアクションプラン」にも関連して、GAP拡大の推進が明確に位置づけられている。
また、これまでのGAPの指針となっていた共通基盤ガイドラインを国際水準に引き上げ、食品安全、環境保全、労働安全、人権保護、農場経営管理の5分野を満たした国際水準GAPを農業者に広く理解し、実践してもらえるように、新たな共通の取組基準となる「国際水準GAPガイドライン」も策定した。
このガイドラインは、日本の関係法令などに準拠するとともに、実需者等からGLOBALG.A.P.、ASIAGAP、JGAPなどの第三者認証を求められた際、円滑に認証取得できるよう必要な取組項目を網羅している。また、都道府県GAPには、この新たな基準に則した国際水準への引上げを求めることも盛り込まれている。
推進方策で掲げる具体的な取組みの1つ目は、国際水準GAPに取組む農業者のメリットの明確化であり、2つ目は、国際水準GAPの取組拡大に向けた指導体制の構築、3つ目は実需者及び消費者の認知度向上に向けた取組みとなっている。
加えて国際水準GAPの取組拡大には、農業者集団、JA等の面的にまとまった組織での取組みを増やしていくことが不可欠とし、そのために団体の組織作りや運営などに関する指導もあわせてできるGAP指導員の育成が必要としている。
当協会としても、国際水準GAPの取組みの進展に大いに期待し、連携して推進を図っていきたいと考えている。
認証取得農場向け専用保険も
■認証取得農場向け専用保険制度も作られたが。
当協会と損保ジャパン㈱、㈱ウィズアイが共同で、JGAP/ASIAGAP認証取得農場向けの専用ビジネスサポート保険制度を昨年11月に発足させた。この保険制度は、認証農産物に限らず農場の全ての事業を補償する賠償責任の補償と、全従業員を守る労働災害の補償をセットにした安心の補償プランだ。
最大の特徴は、JGAP/ASIAGAP認証取得農場専用の保険料の割引が最大40%まで適用されることである。これは、農場運営にまつわる様々なリスクを低減するGAPの取組みが評価されたものと受け止めている。GAP認証にともなう経済的なメリットのひとつとして、今後幅広く認識していただけるのではないかと考えている。
消費者や実需者にGAPの評価を
■協会としての今後の取組みは?
日本で最も普及している第三者認証GAPの所有者、運営者として、引き続きその責任を果たしていく。JGAPの認証基準については、時々刻々と変化している農業情勢、食品安全を巡る情勢、社会情勢を反映したよりよい内容となるよう、現在、当協会の技術委員会でその改定を審議している。年内には新しい基準を公表する予定だ。
その背景のひとつはHACCP(食品安全管理)の制度化である。農業は直接的な対象とはならないが、食品を扱う業種は全てHACCPの対象となる。JAの直売所なども対象となり、原料となる農産物を供給する農業にも衛生管理の充実が求められる。
GAPの一丁目一番地は食品の安全確保であり、残留農薬基準に抵触する農産物を出さない、農産物由来の食中毒等を出さないというのが重要なポイントだった。今後は、進歩した食品安全の考え方を取り入れていくことが重要であり、また、労働安全、環境保全、人権の尊重などの持続可能性に関する内容がSDGsの目標達成にも大きく貢献することになる。
また、当協会としては、消費者や実需者にGAPの価値を認識、評価してもらい、一層の支持を得られるよう、広報・普及活動についても力を入れていきたい。
〈本号の主な内容〉
■このひと GAP普及の現状と今後
(一財)日本GAP協会 代表理事専務
荻野宏 氏
■JA共済連におけるDXの取組み
デジタル技術活用の地図システム
担当者共通支援システム(コロンブス)
■JA全農 全国土づくり大会2021から
6JAの優良事例
土壌診断による健康な土づくり・効率的な施肥で手取りの向上を
■第8回 施業高度化サミット
全森連・農林中金が開催
■水稲用除草剤の上手な使い方
(公財)日本植物調節剤研究協会
半田浩二 氏
■令和3年度 JA組合員大学全国ネットワーク研究会
JA全中、家の光協会、日本協同組合連携機構が開催