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日本農民新聞 2021年12月15日号

2021年12月15日

JAトップインタビュー
わが地域を見つめて

 

正・准組合員一体で地域に生きるJA

 

神奈川県 JAはだの
代表理事組合長

宮永均 氏

 

 

 持続可能な農業・地域共生の未来づくりに向けて、全国のJAトップにその思いと取組みを聞くシリーズ。2回目は、早くから准組合員との対話、職員教育に力をいれ、都市近郊にありながら協同組合らしい事業運営をすすめているJAはだの・宮永均組合長が語る。


 

昭和33年、秦野市の農家に生まれ、高校を卒業し秦野市農協に入組。働く傍ら早稲田大学で環境学を学ぶ。38歳の若さで人事課長。支所長、部長、参事、専務理事を経て本年2月組合長に。

 

これまでの仕事や活動で学んできたことは…

 入組当時は、まだ農業や地域も血気盛んな頃だった。自分も家業の農業を継がなければならなかったが、かつて農協役員を務めていた祖父に〝誘導〟され農協へ。当初抵抗を感じていた毎月26日の組合員訪問活動も、その経験を通じて協同組合は人と人の組織であることがわかってきた。地域農業振興に重要な存在である農協で、互いが助けあって地域を創っていくことを学んだ。
 特に4年間の支所長時代は、営農が困難な農地を借り上げての市民農園や、鶴巻温泉駅前で地元商店街と連携した朝市を始め、企画部時代には「はだの都市農業支援センター」の設置やファーマーズマーケットの開設に尽力した。農家組合員に喜ばれただけでなく、地域住民に農業・農協ファンを育て、地域農業振興にむすびつけることができた。

 

役員になってからは、JAの自己改革や中長期の視点からJAのあり方を捉え直し、全国のJAにも課題共有を呼びかけ発信している。

改めてJAのミッションとは…
 すべてが「JA綱領」に明確に示されている。農業協同組合の役割は、地域農業の活性化と振興が第一であり、それを通じて地域社会に貢献していく組織を創っていくことにある。株主資本主義が見え隠れする時代にあって、協同組合の理念を再確認しもう一度組織の力を示すべきだ。昔の農業協同組合は農家を対象とした職能組合であったが地域の状況が全く変わっている今、地域農業の振興と地域社会の発展を有機的に噛み合わせた運営が、今日の農業協同組合の姿と考える。
 市と連携し、市民農業塾での理解醸成活動や支所単位の行事開催など、広く地域の人々に関わることのできる組織をめざしている。生協パルシステムかながわとは包括協定を結び協同組合間連携による地域づくりをすすめている。食と農を通じて生産者・消費者の役割を上手く活用しながら、みんなで助け合う地域づくりを目指している。

 

63年市内5農協の合併で誕生。現在の組合員数は1万4485人、正組合員2864人、准組合員は1万1621人。80年には早くも正・准の数が逆転した。

准組合員対応へ早くから取り組んできたが、その背景と現状は…

 戦後農業協同組合には、産業協同組合の非農民もすくい上げ世界に類をみない准組合員制度を設けた。法律上正組合員にのみ共益権が認められている一方で、准組合も出資金を払い利用権を得ている。
 1980年代には増加する准組合員への対応がJA全中総合審議会のテーマとなり正・准分け隔てのない対応方向が答申された。82年の農協の准組合員対策討論会では、当JAとして「准組合員対策はそのまま正組合員対策であり、協同活動のなかにどのように組み込んでいくかが大切である」と、意見を述べてきた。
 共に活動する組織の一員として准組合員を位置づけ、積極的に情報を提供し意見を聞く機会を設けてきた。支所運営委員会にも参加し、生産組合においても研修助成金や健康管理学習会等の助成をし、各地域での正・准一体となった取組みを支援してきた。管内には准組合員のみのエリアもあるが、そこでは生産組合に代わる協力員が各種通知の配布や座談会等への参加を呼び掛けている。

 

准組合員も含めた協同組合講座を実施し、82年には3億6000万円を目標とした組合員教育特別積立金を開始している。

協同組合としての人づくりにも早くから力を入れてきた…

 協同組合講座では、准組合員を対象とした「基礎講座」、生活と農政の2コースを用意した「組合員講座」、さらに学びたい人のための「専修講座」を用意し、農業協同組合への理解を深めてもらっている。
 一方で、協同組合人を育てる職員の人づくりも大切だ。非農家出身の職員が増えるなかで、農業協同組合の学習活動は欠かせない。中央会の各種研修参加はもとより座談会等に出席し組合員から学ぶ、地域から学ぶ姿勢を大事にしたい。入職3年未満の職員は、支所管内に配布する手書きのかわら版を作成し、地域や組合員に農協に目を向けてもらう活動を展開している。
 役員には組合員教育と職員教育のマッチングの役割がある。学んだことを教えることはさらに学ぶことにもなる。職員や組合員が講師を務め自らも実践しながら教えることは、継続につながっていく。
 JAの活動は学習の場でもある。座学ばかりでなく視察や交流等を組合せながらみんなで学びあっていくことが、協同組合自身の成長につながると思う。

 

05年には市、農業委員会、JAで構成する「はだの都市農業支援センター」を設置、農業者への相談、就農支援等を行なってきた。06年には「市民農業塾」を設置し、担い手づくりにも取組んでいる。

都市化のなかで、農業を維持するための取組みは…

 地域農業振興には生産者を育てる必要がある。「市民農業塾」では農業参画形態に応じた3コースの研修を設定。なかでも新規就農コースは、これまでに80人が終了しうち60人が担い手として市内で就農している。
 販路の確保も農協の重要な仕事だ。半分は都市化地域であり大きな産地がないことから、ファーマーズマーケットを拠点に、直売事業にさらに力を入れていきたい。その過程で産地とJA、JAと直売所をつなぎ、売りたい物、必要な物をネット上でマッチングさせるためのデジタル化も進めている。
 秦野市長は地産地消率50%を公約に掲げており、JAは小学校13校の給食に野菜を供給しているが、12月からは中学の給食用野菜も全て供給することとなった。生産者も秦野の次代を担う子ども達のためにと張り切っている。
 新東名高速道路も開通間近なことから、サービスエリアでの特産品販売も地元商工会と検討している。
 都市的農業を持続するために、堆肥の域内流通や天敵の導入など環境保全型農業にも地道に取組んできた。農水省は「みどりの食料システム戦略」で、化学肥料や農薬の削減目標を掲げたが、まずは農家組合員に理解いただき、そのための具体的取組み方向を示しつつみんなで取組んでいかければならない。


 

〈本号の主な内容〉

■JAトップインタビュー わが地域を見つめて
 正・准組合員一体で地域に生きるJA
 神奈川県 JAはだの 代表理事組合長 宮永均 氏

■令和3年度 JA助けあい組織全国交流集会・JA健康寿命100歳サミット
 JA全中が開催
 事例発表 JA新みやぎ みどりの福祉部
      JAえひめ未来 助けあい組織いずみの会

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