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日本農民新聞 2021年9月25日

2021年9月25日

このひと

 

第70回 日本農村医学会学術総会にあたって

 

第70回 日本農村医学会学術総会 学会長
(JA神奈川県厚生連 代表理事理事長
相模原協同病院 名誉院長)

高野 靖悟 氏

 

農業者の健康は、食料の生産に不可欠
厚生連病院の使命考える機会に

 日本農村医学会は10月6日~27日、「with/afterコロナ禍の厚生連病院の使命」をメインテーマに、第70回日本農村医学会学術総会をオンラインで開催する。今回の学術総会学会長を務める高野靖悟神奈川県厚生連代表理事理事長(相模原協同病院名誉院長)に、今学術総会の概要とともに日本の医療とJA厚生連病院の使命、日本農村医学会の役割について語ってもらった。


地域医療を厚生連病院が守ることの重要性

学術総会への思いは?

 70回の大きな節目で主催できることは、大変名誉なことだ。第68回学術総会で指名され、記念大会であり神奈川県厚生連の総力を挙げて開催すると話した。

 日本農村医学会は厚生連の医師を中心に病院の事務部、看護部、医療技術部も参加し、農業に係る事故や疾病の研究・調査を含めて、農山村など地域の医療の向上と発展を目的とする学術団体だ。日本医学会の50番目の分科会で、70年続く学会は医学では歴史が長い。学術的な発表や議論だけでなく、今後の地域医療や病院のあり方も考える学会だ。

 研修医による発表を重要視している伝統も特徴的。全国の厚生連病院には臨床研修病院も多く、多くの若い医師を受け入れていることから、日本農村医学会でも若い人々を育てることを大切にしている。歴代の学会長は研修医の発表部門を設け、機会を作ってきた。これまで日本の医学界の中で、大きな役割を果たしてきたと思う。今回も卒後研修医のセッションを設けた。私も楽しみにしている。

 今回のメインテーマに「厚生連病院の使命」と入れたのは、厚生連などの公的医療機関の役割が、コロナ対応で大きくクローズアップされたからだ。コロナ禍において厚生連病院が奮闘したことで、総務省などが公的病院への評価を見直している。アフターコロナにおいても、厚生連病院が変らずに地域医療を守っていくことの重要性を考えていきたい。

 

コロナ対応の多様な講演

今回の学術総会の特徴は?

 今回はオンライン開催ということで、一般演題の応募が例年の3分の2ほどに少なくなった。採択したのは一般演題176題・研修医セッション31題だ。このため今回は特別講演・教育講演を充実させた。

 コロナ禍での厚生連病院の事例を知るため、一つはJA北海道厚生連旭川厚生病院の森達也病院長に「当院における新型コロナウィルス院内感染事例報告と終息後の感染症対策」のタイトルで、苦労した点や鎮静化への対応等を講演いただく。もう一つは、国内1例目など最初期から診療を続けている相模原協同病院の井關治和病院長に「新型コロナ禍における相模原協同病院の現状と今後」のタイトルで登壇してもらう。全く情報がない未知の病気を手探りの状態で診た経験のほか、全国に感染が広がった後にも積極的に診療した話をしてもらう。教育講演では、私の母校である日大から病態病理学系微生物学分野の早川智教授に、コロナウイルスの基礎的な話をしていただく。ワクチン開発もお話しいただくので、興味深い内容になるだろう。

 厚生連の今後のことを考えるためには、農水省の事情も知っておいた方がよかろうと、農水省を定年退職された前田俊範氏(前協同組織課経営・組織対策室長、現JA全厚連経営支援部審査役)に、「新型コロナウイルス感染症影響下のJA厚生連に対する農林水産省の対応」のテーマで講演をお願いした。農家の健康を農水省も重視するようになってきており、農水省が期待する厚生連の今後の役割を、お話ししてもらう予定だ。

 またJA全厚連の中村純誠理事長に「厚生連グループの新型コロナウイルス感染症対応」のタイトルで講演していただく。本学会は学術的な発表の場であり、全厚連の理事長が発言する機会は今まで殆んどなかった。しかし今回のコロナ禍において各厚生連病院が巧く対応できたのは、全厚連の働きがとても大きいことから、登壇をお願いした。全国のそれぞれの状況をいち早く把握して支援していただいたし、素早く政党や府省への働きかけを行っていただいたことは、日本の医療全体にとっても大きな意味があったと考えている。コロナに真正面から取り組んでいる病院ほど経営が悪化している状況を、改善に向けて動いていただき、本当に感謝している。今回は、厚生連を支える全厚連の役割について講演していただき、多くの厚生連の職員にそれをしっかり理解してもらうつもりだ。

 厚労省の役人であった(株)国際医療戦略研究所の西山正徳代表取締役には「コロナ後の医療」についてお話しいただく。シンポジウムでは「感染管理認定看護師の新型コロナ感染症との闘い」をテーマに、現場で最も大変だった4人の感染管理認定看護師が話をする。どちらも現場で奮闘している職員にとって、とても興味深い内容になるだろう。

 私の学会長講演はコロナから離れ、「相模原協同病院の地域救急医療への役割」についてお話しする。

 

組合員の健康を厚生連が支える

農村における厚生連の役割を。

 厚生連のミッションは、地域医療を守ることが第一だ。各厚生連それぞれに違いはあるが、共通して目指していることは、無医村の解消や農業者の健康を向上させること。農業者に最高の医療を提供するという理念は、厚生連の共通認識だろう。

 相模原協同病院は地元のJA相模原市とJA神奈川つくいの協力を得て、今年1月に移転した。両JAには、公共交通機関の充実などについて、相模原市に要請していただくなど本当に助かった。組合員や管内に住まう方々の利便性が向上することにもなったと思う。JAと連携をとれることは、厚生連病院の強みだと感じている。

 農業者の健康を保つということは、日本の食料問題にもかかわる大きな問題だと思う。農業者の健康増進活動を厚生連がいかに担うのか。神奈川県厚生連ではここに力を入れる計画で、来年度から本格的に着手する。3か年計画の中で、農家の方々の健康増進について、踏み込んだ形で実施していく予定だ。今は準備段階として、県内の各JAを回り、健康管理について厚生連に何が出来るのかアピールしている。農家の方々はなかなか健康診断を受ける機会もなく、自分は健康だと思っているのではないか。しかし生活習慣病は二十歳くらいからその兆候がみられる。若いうちに健診の重要性を理解し、検査して欲しい。我々がJAの各支店を回りながら講演し、少しでも若い方々の健診率を上げていきたい。食べ物がなくなっては困るので、作る方々の健康は大事だと考えている。

 


〈本号の主な内容〉

■10年後 わがJAがめざす姿~不断の自己改革でさらなる進化を
 長野県 JA松本ハイランド 代表理事組合長 田中均 氏
 岩手県 JAいわて平泉   代表理事組合長 佐藤鉱一 氏
 岐阜県 JAぎふ      代表理事組合長 岩佐哲司 氏
 秋田県 JAこまち     代表理事組合長 遠田武 氏
 熊本県 JA菊池      代表理事組合長 三角修 氏
 岡山県 JA晴れの国岡山  代表理事組合長 石我均 氏
 栃木県 JAなすの     代表理事組合長 伊藤順久 氏

■令和3年度 JA新任常勤理事研修会 JA全中がWeb開催
 〈挨拶・訓示〉JA全中 副会長理事 菅野孝志 氏
 〈課題提起〉 JA全中 専務理事 馬場利彦 氏
 〈講義〉   JA全中 常務理事 山田秀顕 氏
 〈講義〉   慶應義塾大学 名誉教授 奥村昭博 氏
 〈実践報告〉 JAおきなわ 代表理事理事長 普天間朝重 氏
 〈実践報告〉 JA京都にのくに 代表理事組合長 迫沼満壽 氏
 〈実践報告〉 エーザイ(株) ナレッジクリエーション・フェロー 高山千弘 氏

■家の光文化賞JAトップフォーラム
 〈テーマ解題〉立命館大学 教授 増田佳昭 氏
 〈実践報告〉 JAいちかわ 代表理事組合長 時田正一 氏
              代表理事理事長 今野博之 氏
 〈実践報告〉 JA大阪中河内 代表理事組合長 廣川清温 氏
 〈提案〉   家の光協会 代表理事専務 河地尚之 氏
 〈記念講演〉 京都大学 人文科学研究所准教授 藤原辰史 氏

■JA全農・経済事業における情報システム・IT活用の取り組み
 JA全農 IT推進部 小畑俊哉 部長

■JA共済事業における情報システム・IT活用の取り組み
 JA共済連 DI部 斎藤幸文 部長

■JA信用事業における情報システム・IT活用の取り組み
 農林中央金庫 IT統括部 井野真吾 部長

行友弥の食農再論「食料安保とSDGs」

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