日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2021年7月15日

2021年7月15日

日本農業法人協会香山勇一会長このひと

農業法人の現状とこれから

日本農業法人協会
会長
香山 勇一 氏

現場の声ていねいに拾い政策提言
リスク抱える生産に国民理解を

日本農業法人協会は6月の総会で、新会長に香山勇一氏(熊本県農業法人協会会長、農業生産法人㈲コウヤマ代表)を選任した。香山新会長に日本の農業と農業生産法人の現状とこれからを聞いた。


農業法人等の“拠り所”となる協会へ

就任に当たってのお気持ちから。

 昨年から続く新型コロナウイルスの感染拡大で、当協会も総会を含め各種事業や行事をリアルで開催できない状態が続いている。昨年は、それまで準備を進めていた設立20周年の記念式典もできなくなった。コロナ禍がいまだ収束が見通せないなかで、この2年で農業者の経済状態もかなり逼迫してきている。

 5年前、私は熊本地震を体験、その後の豪雨など相次ぐ大規模な自然災害に見舞われ、追い打ちをかけるように世界的なコロナの感染拡大である。こうした環境のなかでも、農業者は必死に工夫しながら生き残りの努力を重ね、国民への安定的な食料の供給に努めている。

 このような状況の中、協会は、全国の農業法人等が何を求めているのか、その声をしっかり拾い上げて把握し、農業法人等のために何ができるのかを追求し信頼を獲得していくことが第一だと考えている。また、我々の存在価値を国民全体にアピールしていかなければならない。農業法人等の“拠り所”となるような協会を目指していきたい。

様々なリスクを抱える農業生産

昨今の農業の現状をどのように認識しているか?

 昨年から米価が低落し、鳥インフルエンザによる大量殺処分で卵価は高騰、世界的な飼料穀物の高騰により畜産物価格も上がってきている。農産物価格の高騰は消費者の家計に影響してくる。国内の農業生産者の減少が加速化する中で、かつてのように安い農畜産物を海外に求められる時代でもなくなる。

 消費者には、様々なリスクを抱える農業生産の大変さ、その中での生産者の努力を理解してもらい、自国の農業の応援団になってもらいたい。そうならなければ自給率の向上はできないし食料安全保障も確立できない。

 農業者の人口減少だけでなく、地球温暖化など自然環境の変化による生産減少も見据えながら、計画的・安定的な食の生産・供給に対する理解、消費行動も含めた食の根本的な考え方を再構築し、国民全体で理解浸透させていく必要があるのではないか。

会員拡大で政策提言力・実行力強化

協会事業のこれからのポイントは?

 令和3年度事業の基本方針は、「持続可能な農業経営の早期確立」「災害やリスクへの備えによる農業経営力の強化」「重要な政策課題や情報共有及びその解決に向けた政策提言活動」を3本柱とし、「政策提言力・実行力の強化」「当協会及び農業法人の価値向上と信頼獲得」「会員等を支援する各種サービス・支援策の実行」「自主・自立組織体制の確立」の4つを重点課題に掲げている。

 日本農業法人協会の会員は2065法人で、全国の農業生産法人数の約1割程度の現状だ。各県においても同じような割合で、まだまだ協会自体の声は小さい。協会の存在価値向上のためにも、会員がどのように国民の食を担っているかをしっかりアピールしていくべきではないかと考える。

 全国の会員の現場課題をつぶさに拾い上げ、国への政策提言につなげ、“会員の拠り所”となる協会をめざした活動が、会員の数を増やし小さな声を大きくしていくことにつながると思っている。

 また、持続可能な農業経営を確立するためにも、SDGsやカーボンニュートラル等環境問題に関する取組みの推進に向けて、部会を設置して協会としての考え方も整理していきたい。

6次産業で経営多角化、地域の活性化へ

自身の経営と農業に対する考えを

 農業高校卒業後、家業のタバコ農家に就農したが、経営移譲と同時にそれまで裏作で栽培していた自然災害の影響がより少ないサツマイモの契約栽培に転換。平成3年(有)コウヤマを設立した。15年からは規格外のペースト加工を始め、地元の饅頭屋などに販売し経営を多角化、経営リスクを分散化させてきた。

 目標としたのは栽培から加工、販売までを一貫して行う6次産業化。熊本名物となった「いきなり団子」の製造・販売も手がけ、デパートの催事などで全国に広めた。商品を責任もって届け、お客様の“ナマの声”を商品に反映させていくことは、食に携わる者として大切なことだと考える。

 16年からは、地元の農業法人の仲間や酒屋、味噌屋、菓子屋等とともに、中国や東南アジアを中心に輸出にも挑戦し、14~15か国での展示会にも出展した。世界で通用する商品作りへ、HACCPやグローバルGAPも取得した。現在、35㏊の畑で年間800~1000tのサツマイモを生産している。

 農業はこれで終わりという完成形はない。次はもっと上をと思ってもなかなかその通りにもならない。常に次の段階を予見しながら取組んできた。
これからも6次産業化を積極的に取組み経営の多角化を進めることで、地域との連携による地域の活性化を図っていきたい。


〈本号の主な内容〉

■このひと 農業法人の現状とこれから
 日本農業法人協会
 会長 香山勇一 氏

■「植物防疫の在り方に関する検討会」中間論点整理案示す

■令和2年度農地中間管理機構の実績等を公表=農水省

■JA全農2021年度事業のポイント「営業開発事業」
 JA全農営業開発部 山田尊史 部長

■JA全農2021年度事業のポイント「フードマーケット事業」
 JA全農フードマーケット事業部 竹内仁 部長

■「協同組合としての人づくり」
 第29回JA全国大会組織協議案にみるポイント
 JA全中教育企画課 田村政司 課長

農業関係団体・企業 総会・人事

■イネいもち病話題と防除対策
 農研機構植物防疫研究部門 芹澤武人

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