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経常3100億円、純利益2082億円と6期ぶりの増益=農林中金決算

2021年5月29日

「リスク管理等、慎重な財務運営を心がけていきたい」と奥理事長

※詳報は日刊アグリリサーチに掲載しています。

 農林中央金庫は26日、2020年度決算概要と「農林中央金庫の目指す姿」等について、奥和登代表理事理事長と伊藤良弘理事兼常務執行役員が記者会見し明らかにした。新型コロナウイルス感染防止の観点からオンライン方式により行われた。

 2020年度決算〔連結〕は、経常利益は率で前年度比152・2%増、金額では1870億円増の3100億円、純利益は126・3%増、1162億円増の2082億円となった。6期ぶりの増益決算となる。

 奥理事長は冒頭、「新型コロナウイルス感染症により影響を受けておられる皆さまに対してこの場をお借りして心からお見舞い申し上げる。農林水産業あるいは食農バリューチェーンへの影響も非常に大きく、農林中央金庫としても関係者の皆さまと一緒になって、金融・非金融をあわせて引き続き万全の支援・対応をしていきたい」と述べた。

 2020年度決算については、「大幅な増益の決算となった。運用環境は引き続き厳しく、有価証券の利息配当など運用収入は減少しているが、米国の利下げなどに伴って資金調達費用が減少、資金収支が大幅に改善した。加えてこのようなマーケットの状況の中で株価等が上昇している。私どものバランスシート上のリスク量も膨らんでいるなかで、ポートフォリオのリバランスを行う観点から、有価証券についても一定程度売却、それに伴う売却益もあり大幅な増益となった」「自己資本比率は、有価証券の評価益の増加もあり、普通出資Tier1比率や総自己資本比率についても引き続き高い水準を維持している」と説明した。

 さらに今後の財務運営に関して「この先、コロナの収束がどうなるのか、なかなか予断を許さない状況だ。運用環境についても引き続き厳しい状況が続くと思っているが、リスク管理等をしっかり行いながら慎重な財務運営を心がけていきたい」と述べた。

 連結決算(連結対象会社・法人は農中信託銀行、協同住宅ローンなど16社、持分法適用関連法人は7社)では、経常利益は前年度比152・2%1870億円増の3100億円、純利益は同126・3%1162億円増の2082億円となった。経常収益は同12・0%1856億円減の1兆3588億円、経常費用は同3727億円減の1兆488億円となった。

 また、単体決算では、経常利益は165・7%1930億円増の3096億円、純利益は137・1%1226億円増の2120億円となった。単体の総資産は前年度末比で1兆8345億円増の105兆2381億円、純資産は6511億円増の7兆8260億円となった。

 調達面では、預金等が前年度末比982億円増の66兆5299億円となり、農林債は4289億円減の3554億円となっている。運用面では、貸出金は前年度末比2兆437億円増の22兆1025億円、有価証券は同6兆4394億円減の48兆938億円だった。

 有価証券等の評価損益は、前年度末比3367億円増の2兆6839億円の評価益となった。

自己資本比率は23・19%と高水準を維持

 また、〈連結〉の総自己資本の額は9兆1905億円。総自己資本比率は23・19%(2020年3月末=23・02%)、中核的な自己資本比率であるTier1比率は23・19%(同23・02%)、普通出資等Tier1比率は19・86%(同19・49%)。
 なお、農林中金によれば、JAバンク、JFマリンバンク、金庫による新型コロナ関連資金の対応実績は以下の通り。

【JAバンク】21年3月末時点のJA、信農連、金庫のコロナ関連資金、公庫受託資金の合算で、6685件・558億円(20年12月末時点4960件・457億円)
【JFマリンバンク】21年3月末時点のJF・信漁連・金庫のコロナ関連資金、公庫受託資金の合算で、5604件・985億円(20年12月末時点4314件・833億円)
【金庫(一般事業法人向け)】21年3月末時点の金庫のコロナ関連の事業法人向け貸付(部・支店からの報告ベース)362件・16823億円(20年12月末時点323件・15813億円)

「存在意義」を今年度の経営計画の中で再定義

 奥理事長は中期経営計画(2019年~23年度)の進捗状況についても報告した。同計画の中で、農林中金自身の業務の効率化として、5年間で600名の人員を再配置し、そのうち400名位を会員の業務改善のサポートにあてることとしているが、既に395名程度を配置していることに触れ、「現場に寄り添った取組みをしっかり続けていくことが私どもの大きな責務の1つであると考えている。引き続きしっかりと取り組んでいきたい」と話した。

 さらに、奥理事長は農林中金の存在意義や目指す姿についても、中長期目標を含む経営システムの全体像を今年度の経営計画の中で再定義したと強調。概要以下のように説明した。

●…2023年に農林中金は100周年を迎える。100周年のその先、農林中金が目指す姿について述べたい。コロナ禍のなかで、私どもはいろいろな学びと教訓を得た。改めて取り組まなければならない課題を3点に整理した。1点目は、農林中金と会員、すなわちJAバンク全体が金融機関としてのレジリエンス、つまり経営の持続力や経営基盤の強化にしっかりと取り組んでいかないといけない。2点目は、経営の力を農林水産業と食農バリューチェーン、個々のレジリエンスに向けて全力を尽くしていかないといけない。生産力をしっかりと確保した上で、食料を消費者のみなさんにしっかりと届けていく、ここを守っていかなければならない。3点目は、農林水産業を可能ならしめるためにも、地球環境、地域社会の課題にしっかりと取り組んでいかなければならない。コロナを通じ、この3点を課題として改めて深く重く認識した。

●…役職員の皆で認識して腹落ちした上で、そもそもの岩盤である農林中央金庫法の第一条にある「農林水産業の発展」、2017年に定めた「コーポレートブランド」としての〝持てるすべてを『いのち』に向けて〟、サステナブル経営、を重ね合わせて、私たちの存在意義を、「ステークホルダーのみなさまとともに、農林水産業をはぐくみ、豊かな食とくらしの未来をつくり、持続可能な地球環境に貢献していきます」として定めた。これは農林中央金庫の社会の皆さんに対する約束事であると整理した。

●…この整理のもとで、「投融資先の温室効果ガス(GHG)の排出量を2030年までに50%削減」「農林水産業者の所得増加」などを中長期の目標に掲げた。サステナブル・ファイナンスについても、2030年までに新規実行額を10兆円とするとともに、やや遅れているダイバーシティの取組みもしっかりとした目標を掲げて取組んでいきたい。もとより具体的な計測方法や施策は、これからステークホルダーの皆さまとともに実践していく内容になる。挑戦や実践を重ねて、来年のこの場では、この1年間の取組みをご報告できるように、皆さんとともに一歩一歩取り組んでいきたい。

農林中央金庫の目指す姿

【理念】
私たちの存在意義…持てるすべてを「いのち」にむけて。
~ステークホルダーのみなさまとともに、農林水産業をはぐくみ、豊かな食とくらしの未来をつくり、持続可能な地球環境に貢献していきます~

目指す姿…農林水産業と食と地域のくらしを支えるリーディングバンク
農林水産業の発展と脱炭素社会への貢献

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