日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

新潟食料農業大学・渡辺好明学長インタビュー

2021年4月5日

新潟食料農業大学 渡辺好明学長

農業系教育機関のいま

農業大学新設は93年ぶり
「食」「農」「ビジネス」一体的に学ぶ
「自由」「多様」「創造の精神で」

新潟食料農業大学の開学の経緯は?

新潟食料農業大学・渡辺好明学長 新潟食料農業大学は、平成30年4月に開学した。農業大学としては東京農業大学以来93年ぶりの新設となる。

 〝食の王国〟と言われる新潟県は、食品関連産業は約1兆円の規模、日本酒+米加工品だけでも3千億円近い出荷額となっている。これを維持・発展させるためには今後、ユーザーや消費者の求めていることを、より一層しっかり考えていく必要がある。

 そうした中、「食」と「農」と「ビジネス」を一体的に学ぶことができる高等教育機関を創ることとなった。新潟の農業を維持・発展させ地域社会の活性化を図るため、県はもちろん新潟市や胎内市、農業団体からも支援をいただき、地域全体が共同で創った私立大学だ。

 建学の精神は、「自由」「多様」「創造」。柔軟で自由な発想を重んじ、他者の考え方や行動を重視し、あらゆることに好奇心を持ち、よく観察・記憶することで多様性の時代にふさわしいイノベーション能力を育てることをめざしている。

現場での学び、実学を重視

新潟食料農業大学の概要と特徴は?

 本学の核は「食料産業学部」。フードチェーン全体をカバーする食料産業を学び研究する。食料・農業分野において、課題の解決と新しい時代の産業を創出するためのサイエンス、テクノロジー、ビジネスの能力を兼ね備えた人材を育成するとともに、実社会に直結する研究開発を行っていく。

 現状唯一の学科である「食料産業学科」は入学定員180名。食・農・ビジネスを総合的に学ぶ「共通課程」と、それぞれの専門的理解と実践力を高める「コース課程」の2つの課程を並行して編成し、有機的に連動させていくようにしている。共通課程では、4年間を通じ社会人としての幅広い教養、国際社会で活躍し得る能力、食・農・ビジネスを総合的に捉え新しい価値を創出し社会の発展に寄与できる能力を身につける。

 2年次からは次の3つのコースに分かれ、専門分野における基礎知識、実用性の高い専門知識の修得を目的とした講義、高い実践力の修得を目的とした実験・実習・演習科目を配置している。

〈アグリコース〉 「栽培科学領域」には、植物の生命現象、栽培、環境などに関する科目を配置し、「植物分子科学領域」には、分子・遺伝子・個体・群集レベルにおける植物の生理、環境適応、遺伝、育種、疾病、病原体などに関する科目を配置。

〈ビジネスコース〉 「食産業学領域」には、食品産業と農業に関わるビジネスや政策に関する科目を配置し、「経営学領域」には、ファイナンス、会計、ビジネスプラン、マーケティングをはじめとする企業活動などに関する科目を配置。

〈フードコース〉 「食品科学領域」には、食品の栄養・機能・成分などに関する科目を配置し、「食品プロセス学領域」には食品の保蔵・利用・製造・品質などに関する科目を配置。

 いずれも、教室を飛び出し現場で地域の方々に学ぶことも多い。実践から始め実感をともないながら学ぶことができるような、実学の手法を重視している。

 なお、仕上げ段階の4年次には、各コースでの学びと並行して、「食料産業実践論」に代表される総合的な教育に参加し、また、「卒業研究」でもコースを横断して複数の教員の下で指導を受ける。

 私は農林水産省を退官時に、これからの農業のポイントを3つ挙げた。それを学生達にも伝えている。

 1つ目は、「農業政策の土俵を食まで広げること」。消費者が食に消費する金額は農業生産の8倍以上であり、そこを相手にしない手はない。

 2つ目は、「消費者の立場にたつこと」。売るという行為は本来、買う者がいて、それに応えていくことだ。

 3つ目は、「国際ルールをつくる側になること」。ガット・ウルグアイラウンドではEU主導のルールに制約され、皮肉なことに、日本は結果的に世界有数の米輸入国になった。

 さらに、①前例にとらわれない、②みんな違ってみんないい、③好奇心から創造力へ、の3つがイノベーションに繋がることや、いくら良いモノをつくっても必ず追いつかれ陳腐化していくこと、コモディティ化の次にイノベーションが来なければ社会は進歩しないことなどを伝えている。

「フードバレー新潟」をめざして

今後へ向けて

 コロナ禍の中、令和2年度はオンライン授業も取り入れながらの大学運営となり、私自身も東京からの移動を控えざるを得ずオンライン会議などを重ねる事態となった。現在は、感染対策を講じた上で対面授業を行っている。この4月、本学は建学4年目に入り、来年3月には初の卒業生を送り出す。近く、大学院の設置も申請する予定だ。

 地域への貢献のための付属研究所も設置し、ゆくゆくはいくつかの大学・研究機関と共同して、「地域の知の拠点」にレベルアップし、シリコン・バレーならぬ「フード・バレー新潟」をめざしていきたいと思う。


わたなべ・よしあき 昭和20年生れ。昭和43年3月東京教育大学(経済)卒。同年4月農林省入省。水産庁長官、農林水産事務次官、内閣総理大臣補佐官、東京穀物商品取引所理事長等を歴任。全国農地保有合理化協会会長、全国米麦改良協会会長。平成30年4月、新設された新潟食料農業大学学長に。

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