日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2021年3月25日号

2021年3月25日

JA全中肱岡弘典常務理事アングル

JA営農指導のこれから

JA全中
常務理事

肱岡 弘典 氏

実需者ニーズに基づく営農指導の実践
新しい流れを協同組合らしく取り込んで

産地振興や技術普及など優れた営農指導業務を担当する職員を表彰し、JA営農指導員等のレベル向上やネットワーク構築を図ることを目的に全中が開催する「JA営農指導実践全国大会」は、令和2年度第5回目を迎え2月19日にオンラインで開催された。今大会を振り返ってもらいながらJA営農指導の今後のあり方を、全中常務理事の肱岡弘典氏に聞いた。


オンラインでより広がるネットワーク

改めて大会開催の趣旨を

 JA営農指導実践全国大会は、平成28年度から始めて今年度で5回目。営農の現場で指導業務に携わるJAの職員の中から優れた産地振興や技術普及等に取り組んでいる職員を表彰し、その取組みを全国のJA職員が共有することで、全体のレベルアップを図っていくことをねらいとしている。また、日頃一人で活動することの多い営農指導担当者のネットワークづくり、交流の場とする目的もある。
 今回はコロナ禍で残念ながら実出席での交流は実現できなかったが、オンラインでより多くの全国各地の職員が優良事例を視聴でき自らの活動のプラスにしてもらえたのではないか。その意味ではよりネットワークが広がったと思っている。

求められる農業経営指導の強化

昨今の営農指導業務を巡る環境は?

 営農指導に関わるJA職員は、産地の復活に向け耕作面積や農家数、出荷量の減少等に歯止めをかけようと懸命に努力している。その方法もスマート農業など新しい技術や情報の取り込みのほか、最近では生産面だけでなく販売面の開拓を視野にいれた指導にも取組んでいる。

 品質の良い物を大量に作り大量に売るための営農指導から、実需者ニーズに基づく営農指導を行うことで農家の所得向上につなげるものへと、その中身が変わってきていることが今回の事例発表からも窺える。

 営農指導員に求められる役割は時代の流れとともに変わってきた。営農指導員の資格認証制度は平成12年から始め、令和2年度では39県1951名が受験している。全中が承認する研修会を受講し、営農技術だけではなく営農企画、農業経営の3科目の試験に合格して認証される。かつての営農技術一本から、時代の変化と共に営農企画、農業経営に関する指導も重要なスキルとなってきた。

 農業経営指導に関しては、さらに上位レベルの「JA農業経営コンサルタント」資格認証制度を令和2年度に創設した。雇用労働も含め経営に多くの課題を抱える大規模農家の懐に飛び込み解決策を共に考える。この資格取得に向けて、まず所定の研修を受講し、受講後は「コンサルタント補」として実際に農家に出向き経営課題を解決しながら能力を磨いてもらう。そのコンサルのプロセスや結果をレポートで提出し、審査委員会が認証を判断するという新しい制度である。

 さらに、GAPやスマート農業、DXをはじめ新しい流れを的確に捉え、協同組合らしい取り込み方を考えていかなければならない。導入に当たってはコストのかかるこれらの取組みを、共同で上手に利用し価値を得ていく観点で検討してほしい。営農指導員の資格取得の研修でも、そうした新しい動きで将来の農業現場に必要なものは積極的に取り込んでいく。

農家との接点づくり、販売先マッチング機能を

これらを進めるうえで全農や農林中金などとの連携は?

 全農が展開するTACは、JA事業を未利用・低利用の大規模農家との接点づくりの役割を担っている。とにかく農家を訪問し困っている課題を聞き出してくる。それをJAへ持ち帰りそれぞれの内容に応じて営農指導や販売事業、信用・共済事業などそれぞれの部門につなぎ、同行訪問等を実施しJAとのつながりをつくっていくのがTACだと思っている。

 一方、系統信用事業は農業融資の伸長になお一層取り組むとともに、特に農林中金はJAグループに対して理解のある信頼性の高い販売先とのマッチングに今後も機能発揮してほしいと思っている。

 こうした各事業連の取組みを結集し、より連携を強化していくことが担い手サポートセンターの課題だ。

組合員との関係性強化のリードを

JAにとっての営農指導の重要性は?

 JAも経営体として収益を確保していかなければならない。一方で農業協同組合として組合員との関係性は絶対疎かにできない。協同組合として、総合事業体としてこれからも存続していくためには、「組合員の役に立つ」「そのための事業は何か」「どういうサービスを提供するか」を基本に、それを持続させていくために健全な経営の維持が重要となる。

 今回の事例発表を通じても感じたが、組合員と接する機会の多い営農指導員はJA職員の中でもモチベーションが高い。最優秀賞の柴田さんは組合員に罵倒されながらも、2年間かけてデラウェアの出荷統一基準と選果場再編を提案し続けた。若い層からの賛同が契機となって、次第にベテランの生産者も耳を傾けるようになり、最終的には提案を実現させた。「生産者の所得向上のため」という信念がブレなかったことが組合員の心を動かし風向きを変えた。今では、ベテラン農家が巡回指導をかって出て統一共販の全体レベルを向上させ、販売単価を更新し続けている。

 幅広い層の組合員の意見を求め組合員が納得するまで時間をかけて大いに議論し、その結果を取り込んでいくことが本来の農業協同組合の姿だと思う。そうした取り組みをリードしていくのが営農指導を担い組合員からの信頼を得ているJA職員である。そのための人材育成に全中は尽力したい。


〈本号の主な内容〉

■アングル JA営農指導のこれから
 JA全中
 常務理事 肱岡弘典 氏

■生産者と輸出業者の交流目的に「GFP超会議」をオンライン開催=農水省等

■令和元年農業総産出額は1.8%減の8.9兆円
 米1.7兆円、野菜2.1兆円

■JA営農指導実践全国大会
 審査委員長 丸山清明 氏
 最優秀賞 JA山形おきたま 柴田啓人士 氏
 審査員特別賞 JA鳥取中央 後藤慎司 氏

■JA戦略型中核人材育成研修全国研究Web発表会

■JA地産地消全国交流研究集会

■農産物検査制度見直しの現状と今後の方向

■水稲直播技術の更なる普及に向けて 全農が研究会開く

■水稲用除草剤の上手な使い方
 日本植物調節剤研究協会 北海道研究センター 主査研究員 半田浩二 氏

■トップインタビュー
 全農ビジネスサポート 代表取締役社長 久保田治己 氏
 中央コンピュータシステム 代表取締役社長 櫻田巧 氏
 農中情報システム 代表取締役社長 吉田光 氏

■農業DX構想検討会で構成案を提示=農水省
 目指す姿、基本的方向、取組課題等で構成

■栽培管理支援システム「ザルビオ」のサービス開始 全農とBASFが4月から水稲と大豆作で
 Z-GISと連携、AIで圃場毎に生育や病害発生予測し作業適期を通知

■かお
 全農ECソリューションズ 代表取締役 大石靖 氏

■GAPアップデートフォーラム
 食の安全と農業の持続可能性に貢献 消費者・アジアへの普及にも力

keyboard_arrow_left トップへ戻る