日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2021年2月15日号

2021年2月15日

環境省・和田篤也総合環境政策統括官アングル

気候変動の影響と対応~コロナ後の社会のあり方

環境省
総合環境政策統括官
和田 篤也 氏

目指す社会は「地域循環共生圏」
農業・農村に大きな可能性、連携強固に

農水省と環境省は昨年10月、農林水産業における2050年カーボンニュートラル達成にむけて連携を強化していくことで合意した。農水省が策定を進めている「みどりの食料システム戦略」と、環境省が取組む「地域循環共生圏」の創造を発展させ、コロナ後の社会の姿を描いていく。そこで、環境省の和田篤也総合環境政策統括官に、環境政策と農業・農村の可能性について語ってもらった。


「緩和」と「適応」がキーポイント

気候変動・地球温暖化の影響から

 環境庁に入り30年以上経つが、入庁当時の環境問題は公害問題が覚めやらぬ頃で地球温暖化という言葉がやっと出てきた頃だった。公害問題は工場や特定の産業・物質などその原因は限定的だが、地球温暖化は個人も企業も程度の差こそあれみんなが原因者でもあり、地球規模で万遍なく影響を及ぼす問題だ。今は因果関係も科学的に立証され先々に起こり得る事象もかなりの確率でわかってきた。

 今のデジタル技術で最も進歩しているのは演算速度で、1990年代のスーパーコンピュータの1億倍以上の速度での演算が可能と言われている。これを駆使して気候変動(地球温暖化)の影響がかなり正確にリアリティをもってシミュレーションできるようになった。その結果、危機感が増した。

 気候変動対策は大きく2つに分かれる。一つは「緩和」。二酸化炭素(CO2)を中心にできるだけ温室効果ガスを出さない。もう一つは「適応」。やむを得ず起こる温暖化のインパクトにいかに適応していくか。

 この緩和と適応の両方ともが、農業分野での危機をチャンスに変えていくキーポイントとなる。

世界の巨大問題「気候変動」と「コロナ」

新型コロナはじめ感染症等への影響は?

 新型コロナウイルスと環境問題を結び付けるのは生態系の破壊。いわゆるエコシステムに人間が過剰に入り込むことで、眠っていたウイルスを人間文明に持ってきてしまうこと。気候変動との関わりがあるとすれば適応の関係で、気候が変わるとウイルスや伝染病の分布が変わっていく。

 気候変動と新型コロナウイルス感染拡大は異なる現象だが、今や世界の巨大問題の2つと言える。

自然共生・資源循環社会があるべき姿

では、生物多様性の取組みの今後は?

 2010年名古屋でCOP10が開催され長期目標が掲げられるなど、日本は生物多様性をリードしてきた。

 今は気候変動問題が大きく取り上げられているが、むしろ生物多様性にしっかり対処できていない、資源循環型社会になっていない社会システムが原因で気候変動になっている。本来の人類のあるべき姿として、自然共生型社会と循環型社会の両方を実現していかなければならない。

 環境省として、世界各国と協力して生物多様性の保護をリードしていきたい。

後戻りできなくなる前に

改めて脱炭素の必要性を

 温室効果ガスの代表格はCO2で、地球温暖化の9割近くの要因を占めている。つい最近まで言っていた低炭素では間に合わなくなった。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の最新情報によると、世界の平均気温が産業革命時点から1・5℃気温が上がると、2030年代には後戻りができないような気候変動が起きてしまうという。初めは2℃以内に抑えることのみを目標としていたが2015年のパリ協定では1・5℃も努力目標となった。

 もう低炭素ではなく脱炭素、CO2は植物や海面が吸収する分もあることから、実質排出ゼロを目指さなければならない。即ちカーボンニュートラルを実現しない限り1・5℃を超えない状態を維持できない。カーボンニュートラルの社会を早く創らなければ制御ができない。産業界でもやっとそこに焦点が当てられはじめた。

地域資源活用の自立・分散型社会を

この問題に関する環境省の方針は?

 環境省は、地域資源を活用した自立・分散型社会である「地域循環共生圏」の創造に取組んでいる。これまでの日本は産業界と地域・暮らしが別々に存在していた。それどころか公害問題などで敵対する関係にありそれが環境問題の出発点ともなっていた。

 産業界は、ある意味、生活者目線で出てくるニーズとの親和性が失われている感がある。地域循環共生圏はこれを変えなくてはならないという視点にたつ。

 ニーズは地域・暮らしにある。地域循環共生圏という単位のなかで、物やお金を循環させてビジネスも起こし、産業界はそれと共存する。地域・暮らしと産業が両輪になる。そこでのニーズは産業界の〝売りたい〟が先にあるのではなく、地域・くらしが〝欲しいもの〟が先にある。地域主体で暮らしの視点から物を作りビジネスを起こし、町を創り産業も呼ぶ。地域と暮らしの視点のニーズをベースに社会を創り変えていくのが「地域循環共生圏」だ。

 この自然共生、地域循環社会に取り組んでいけば、CO2発生が少なくなる方向へと向かい、希望の持てる社会の未来像を創ることができる。

分散型エネルギーで脱炭素、地域ビジネス、防災

再生可能エネルギーの現状と今後は?

 エネルギーはこれまで国策オンリーで地方行政の要素がほとんどない行政分野であったが、気候変動問題が出てきて再生可能エネルギー(=再エネ)が注目されている。

 従来の化石エネルギーと再エネとの大きな違いは、どこか特定の国などが有する資源を輸入する化石エネルギーに対し、再エネは本来的には地域の持ち物だということだ。

 使い方を間違えば従来型の巨大ビジネスに巻き込まれるが、そうはならないだろう。再エネは化石エネルギーに比べ瞬発力がないので集中大規模にはできない。地域に密着しているエネルギーである。再エネ=地域ビジネス=脱炭素のエースバッター、そして分散型のエネルギーなので災害に強い。我々は地震によるブラックアウトや台風による長期の停電など、集中電源供給型の負の面を経験した。

 脱炭素+地域ビジネス+防災の観点から再エネの加速は止まらないだろう。

〝グリーン×デジタル〟で絶大な可能性

農業の可能性と連携について

 気候変動・温暖化の影響を受ける立場だけでなく、これを解決する立場に立ってビジネスを大きくしていけると感じる。

 農業分野の潜在能力は非常に高い。地域・暮らしの視点のニーズからも農業は重要だ。オーガニックや地産地消、流通の仕組み、フードロスを活用した有機肥料で循環型社会への貢献など、生活者のニーズとマッチングさせ、応えていくことは農業のブランディングにつながる。

 また、ポジティブに打って出る〝緩和〟の世界での連携を強めたい。例えば、太陽光照射密度が低くて済むような植物と太陽光発電を組み合わせたソーラーシェアリングなど、再エネ以前に取組み可能なものもある。

 今日のデジタル技術とテクノロジーとを組み合わせビジネスに活用する、〝グリーン×デジタル〟も農業分野では絶大な可能性をもってくる。グリーンとデジタルを少しずつでもフックをかけていくと巨大な成長分野になるのではないか。

 地方、農村などの観光も脱炭素と親和性がある。小さな村や町の再エネの可能性などを上手く観光資源に活かすこともできる。電力は再エネで、スローモビリティを使って新たな観光ルートを作り、オーガニックの食事を提供するなど、町全体を〝売り〟とした観光ブランドが結果的に脱炭素につながっていく。

最後に

 私達が本当にありたいと思っている姿の大半は脱炭素の姿だと思う。欲望を無用に喚起させられた結果が、地球とCO2の吸収バランスを釣り合わなくさせ文明が破綻しかかっている。

 今こそ、私達の本当のニーズに戻るべきだ。地域にコミュニティがあり、子どももお年寄りも一緒に話ができ、必要な店があり移動のモビリティもある。災害時に電気も止まらない。それが私達の目指す社会「地域循環共生圏」である。


〈本号の主な内容〉

■アングル 気候変動の影響と対応~コロナ後の社会のあり方
 環境省
 総合環境政策統括官 和田篤也 氏

■20年農林水産物・食品の輸出額は9223億円
 農産物11・7%増など8年連続で過去最高更新

■和食文化の価値創造に向け方向性提示
 食料・農業・農村政策審食文化小委

■JA全農第4回和牛甲子園

■家の光協会情勢報告「今こそ協同の力を結集しよう」

■東日本大震災10年に思う「復興の歩みとこれから」
 ㈱農林中金総合研究所 代表取締役専務 柳田 茂 氏

■全農が「東北ブロック労働力支援協議会」を設立

■農協観光の農福連携事業がスタート 浜安津に第1号拠点開設

■設立20周年記念「夢コンテスト~20年後の経営ビジョン」日本農業法人協会」

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