毎日新聞夕刊に連載されている森下裕美さんの4コマ漫画「ウチの場合は」は、かわいい絵柄と辛らつな批評精神のギャップが面白い。3月10日の回では、小学生のユウヤがこうつぶやく。「東日本大震災をきっかけに人間はすごく変わったと思ったんだけど、マスクやトイレットペーパーの買い占めや転売、外国人差別、なーんにもかわりゃしない」
親友で秀才の信一が答える。「人類が誕生したのがだいたい20万年前。人間はまだまだ努力の途中なんだよ。絶望したら進化できないよ」。ユウヤは救われたようにうなずく。
「いいこと言うなあ」と筆者も思ったが、ついペシミストの本性が頭をもたげ「20万年かけて人類は何を学んだのか。むしろ愚かになっていないか?」と考え込んだ。
突発的な災害や疫病は社会の暗部を暴く。9年前も被災者の助け合い、譲り合いが称賛され「きずな」が叫ばれたが、実際は住民の避難に乗じた窃盗や避難所での性暴力も起きていた。どちらも人間のなせるわざだ。
「インフルエンザ」と「インフルエンス」(影響)はともに古代占星術に由来する言葉だという。昔の人は空の星から人体に流れ込む邪気が病の原因と信じた。新型肺炎はインフルエンザとは違うが、国境を越えた人の移動で「空から」流れ込み、社会的影響は強力だ。
小中学校の休校措置で、給食を命綱とする貧困家庭の子どもやその親たちが苦境に陥り、食材を納入する農業者や食品メーカーは販路を失った。SNSで広がるデマ、「自粛」を迫る同調圧力。筆者も自分がかかわるイベントや会合を延期したから、世間を笑えない。
痛感するのは、グローバル化を背景とする影響の速さ、広さ、複雑さ。ウイルス自体も瞬く間に世界中に広がったが、あらゆる経済活動が相互作用で急減速している。市場の縮小だけではない。世界を結ぶ供給網の混乱も深刻だ。
「マスク不足」もその一断面といえる。業界団体によると、18年に国内で生産されたマスクは11億枚、輸入が44億枚。自給率は20%だが、今年は大幅に上昇しそうだ。食料自給率も輸入の減少で上がるかも知れないが、喜べない。災厄は社会の在り方を顧みる契機になる。やはり人間はまだ努力の途中だ。
(農中総研・特任研究員)
日本農民新聞 2020年3月25日号掲載