トランプ氏が米国の第47代大統領に就任。記録的な数と言われる大統領令に署名し、早速、パリ協定やWHOからの離脱をはじめとする大転換を開始した。
わが国の新聞等マスコミはトランプ返り咲きに批判的かつ戦々恐々だ。例えば就任直後の1月22日付の日経新聞は一面真ん中に掲載された同社ワシントン支局長による記事で、「「トランプ王朝」は要らない」を見出しに、「大国が「力の均衡」にしのぎを削った19世紀の感覚が色濃く、21世紀の世界平和と発展を希求する秩序観はない」さらには「「アメリカの世紀」の終幕を自ら早めたいようだ」とその批判ぶりは尋常ではない。
確かに就任式後の記者会見で、カナダとメキシコに対し25%の関税をかける可能性があると表明するとともに、公約では中国への関税の即時発動、そして全世界一律に10~20%の関税をかけることを掲げてきた。まさにこれまで積み上げられてきた国際協調、国際秩序を崩壊させかねず、1期目では日本に主要な農産物でTPPと同水準の関税削減を飲ませるなど、2期目もわが国の経済、農業に大きな影響を及ぼす可能性がある。
そのうえで、ということになるが、あらためてトランプ大統領の就任演説を読んでみると、唸らされる箇所も多い。「米政府は信頼の危機に直面している。長年の間、過激で腐敗したエスタブリッシュメント(支配階級)が米国民から力と富を搾取し、社会の支柱は壊れたまま、荒れ果てたままとなってきた」「災害時には役立たない公的医療システムがあるが、そのための支出は世界のどの国よりも多い」「我々が愛情を必死に与えようとしているにもかかわらず、子どもたちに自らを恥じ、多くの場合米国を憎むことを教える教育システムがある」(いずれも1月22日付日経新聞から。以下同じ)と米国が抱える問題点、病巣を鋭くえぐり出す。そして「憲法の法の支配に基づき、公正で平等かつ偏りのない司法を回復させる。そして法と秩序を再び我々の街に取り戻す」として、いくつもの施策をあげているが、その中には「人種や性別を公私のあらゆる側面に社会的に組み込もうとする政策に終止符を打つ。我々は人種で判断されない、実力主義の社会を築く」「米政府の公式方針として、性別は男性と女性の2つのみとする」「私は新型コロナウイルスのワクチン接種義務に反対して不当に軍から追放された軍人を、給与を全額戻して復職させる」など病巣解消の方向性を明確にする等、無視するだけでは済まされない論点も多い。
こうしてみると米国ファーストだけでトランプ政権の本質を規定することは危険である。これまで地球温暖化対策を楯にしながら自由化・市場化・グローバル化をひたすら推進してきた民主党政権や国際協調体制へのアンチテーゼを突き付け、新自由主義の見直しも含め、新たな時代を模索しようとしている面も強いことを理解しておきたい。
こうしたトランプ時代の到来は、日本の国や経済のあり方にとどまらず、自らのアイデンティティーの明確化を求めており、日本農業を再生し食料の安全保障確立と農村の再興をはかっていくことがその前提であり喫緊の最重要課題であると考える。
(農的社会デザイン研究所代表)
日本農民新聞 2025年2月5日号掲載