日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2024年8月5日号

2024年8月5日

〈本号の主な内容〉

■アングル
 「地域計画」策定の現状と取組み~改正基本法を踏まえて~
 全国農業会議所 専務理事 稲垣照哉 氏

■JA全農 令和6年度事業のポイント
 JA全農 営業開発部   山田尊史 部長
 JA全農 畜産総合対策部 髙橋龍彦 部長
 JA全農 畜産生産部   富所真一 部長
 JA全農 酪農部     深松聖也 部長

蔦谷栄一の異見私見「始まりつつある団塊世代のリタイア」

 


アングル

 

「地域計画」策定の現状と取組み
~改正基本法を踏まえて~

 

全国農業会議所
専務理事
稲垣照哉 氏

 

 改正農業経営基盤法で位置付けられた「地域計画」の策定が、令和6年度末までに市町村に義務付けられている。その背景と進捗状況、改正基本法を受けた課題等について、全国農業会議所の稲垣照哉専務理事に聞いた。


 

「人・農地プラン」を法定化

地域計画が今年度末までに義務付けられた背景から。

 令和4年に農業経営基盤法が改正され、そのなかで「地域計画」が法定され昨年4月1日に施行された。

 農業委員会組織は、令和元年の農地バンク法5年後見直しにおける「人・農地プラン」の実質化の際に補助事業上の位置づけが明確化された。その後令和3年頃、国交省の国土管理構想や、食料・農業・農村基本計画での半農半X、再エネのタスクフォースにおける営農型発電の推進、みどりの食料システム戦略の有機農業100万ha、担い手の8割へ農地の集約・集積等々、農地に関わる様々な議論が喧しくなっていた。

 そのようななかで、農業委員会では、農地利用の最適化の取組みの一環として「人・農地プラン」への取組みを強化しており、全国農業会議所の令和3年の政策提案において「『人・農地プラン』を地域における農業・農村の基本計画に法律上位置付けること」を明らかにした。

 折から農業者の減少や耕作放棄地が拡大するなか、地域農業の将来像を明らかにし、農地の集積・集約化等の取組みの加速化が喫緊の課題となっている。そこで「人・農地プラン」を法定化し、地域での話し合いにより目指すべき農地利用の姿を明確にした「目標地図」を備えた「地域計画」を定める改正基盤法が施行されたと認識している。

 「地域の守るべき農地」を明らかにした目標地図を市町村の農業委員会が核となり作っていこうと頑張っている。

 

協議の場設置81%、56%が意向把握

地域計画の策定状況とそれを踏まえた対応は?

 全国農業会議所では、地域計画の令和7年3月末の策定期限に向け取組みの支援の徹底を図っている。

 農水省の資料によれば、昨年11月末時点で、1636の市町村で2万3326の地域計画の策定が取組まれている。我々としても、協議の場の設置、出し手・受け手の意向把握、協議結果の取りまとめ、目標地図の素案作成など、項目ごとに進捗管理を含めて取組む必要の重要性について認識している。

 農水省の調べでは、昨年11月末時点で、81%の地区が協議の場を設置し、56%が意向を把握、26%が協議・とりまとめを行い、目標地図の素案を作成しているのは17%となっている。

 取組みが遅れている地区について、農業委員会は市町村と連携しテコ入れを図っていく必要があると認識している。

 

地域〝総がかり〟の工夫を

すでに策定された地域の地域計画の事例は?

 農水省のホームページには既に地域計画が策定された地区の実例がアップされているが、例えば、宮城県美里町、岐阜県養老町、宮崎県日南市は、まさに法律が想定している担い手への集積・集約ができているようだ。

 美里町は規模縮小52haの意向が把握できている一方で規模拡大意向が58haあり、結果的に8つの経営体が10年後には規模拡大する絵姿ができているようだ。

 養老町は、集積がほぼ終わり将来的には5つの経営体で現段階の361haを494haまでに拡大する予定のようだ。

 一方アップされている地区の事例の中には、5ha規模の縮小が見込まれるが、受け手意向はゼロであり、担い手がいないから地域内の農業者に限らず短時間でも農作業を行える住民をリストアップし、総がかりで取組んでいこうという工夫が始まっている地区もある。

 また調整中の白い農地が多く、今の段階で将来やれる人が明確に出来ていない地区の計画もアップされている。

 

白地多い地域計画でも可視化することから

今後の課題と国への要望は?

 来年3月31日のゴールを目指して取組んでいるが、担い手への集積・集約で地域の農地が全て塗り切るのは困難な所が多いと思っている。しかし、担い手がいない、条件が悪いといってまだ手付かずのような状態のところでも、「できる限り」の取組みを行い、「できる限り」の取組みの結果が「白地の多い地域計画」でも作っていくことが必須。それを地域の内外に共有・可視化することに意義がある。そして来年4月1日以降も徐々に色を塗り切る取組みを継続していくことが大事だ。

 国も都道府県も我々関係機関も、いろいろな事業や制度を地域の実情に合わせ活用を提案し支援していくことが課題ではないか。プッシュ型で、事業・制度等のコンシェルジェ的な役割を担っていければと思う。

 国は、地域計画と農業の各種事業をしっかり紐づけて欲しい。7年度の概算要求においては、色がほぼ塗り切れたところは地域計画を実現する事業等による支援、白地の多いところは地域計画を改善・ブラッシュアップする事業等による支援を予算化していく必要があるのではないか。併せて市町村の農政スタッフと農業委員会事務局職員の増員等の体制整備も不可欠だ。

 

意義大きい 多様な農業者と法人条項新設

改正基本法の評価は?

 農業の憲法が改正されたのだから、いろいろ厳しいご意見もあるが、もう少しワクワクしてもいいと思う。

 ロシアのウクライナ侵攻等の世の中の変化を踏まえると国家として当然の改正であり、特に次にあげる条項の新設は、壁に貼り出すに値するのではないかと思い実践している。

 まず「食料安全保障」の定義(第2条第1項)。さらに「多様な農業者」の明記(第26条2項)、と「法人条項」の新設(第27条2項)。

 食料安全保障で、食料が合理的な価格で安定的に供給され国民一人一人が食料を入手できる状態が確保される。

 望ましい農業構造の確立にあたっては、地域における協議により担い手とそれ以外の多様な農業者で生産活動を行うことを明記した意義は大きい。かつ、農業法人の経営基盤強化を図るために必要な施策を国は講ずると〝憲法〟に書き込まれた。

 

農業構造転換集中期間に具体策を

「基本計画」策定への期待は?

 今後は、来年3月の「基本計画」策定に加えて、5年間の「農業構造転換集中期間」で改正基本法の具体化、施策の確立を目指すことが打ち出されたわけで、これにしっかり対応していかなければならない。

 基本計画策定の議論にあたり、農業者等が減少するという前提だけではなく、にもかかわらず農業者を増やしていく期待・希望のメッセージと具体策の明確化が大事ではないか。

 第26条1項の効率的かつ安定的な経営を行う担い手を徹底的に支援する政策が必要だが、認定農業者等の経営の段階に応じた支援と経営継承などの施策をより強化するべきではないか。

 第26条2項に明記された多様な農業者には、中山間地等直接支払いや多面的機能支払いの拡充等が論点となるのではないか。担い手が手を回しきれない農地の管理への手立てとともに、地域社会が維持されるように農村に人を呼び込む策等を具体化する必要がある。当然それは地域計画を速やかに実現する観点にも重なってくると思う。

 「基本計画」では、農地の総量確保が重要な課題だが、地域計画で摘み上がる農地面積との間に、たぶん差が出てくるだろう。

 その差を埋めることが、結果的に農業・農村の振興に繋がるという視点が大事だと思う。

 

目標地図の素案策定を徹底支援

全国農業会議所としての今後の取組みは?

 我々は、農業委員会の目標地図の素案策定等を強力に支援していきたい。その際、地域計画の主人公であるともいえる認定農業者に地域計画への参加を呼び掛けを徹底していきたい。

 また、農業委員会組織として地域計画の策定にあたって取組まなければならないことに、所有者不明農地と不在村地主対策がある。

 所有者不明農地等の対策については、他の土地に比べて農地は農地法やバンク法に先進的な手立てが講じられているので、その徹底した活用を図っていきたい。市町村外、都道府県外に住む不在村地主への運動的な働きかけも行っていきたい。

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