アングル
農林中金「中期ビジョン」のポイント
農林中央金庫
常務執行役員
川島憲治 氏
農林中金はこのほど、2024~30年度の7年間を期間とする「Nochu Vision2030~未来を見据え、変化に挑む~」を策定した。そのなかでは5つの「2030年のありたい姿」を掲げている。これらを中心に中期ビジョンのポイントを川島憲治常務執行役員に聞いた。
変化に挑む7年間のビジョンを共有
■今回の中期ビジョンの特徴は。
はからずも、前回(5カ年)とその前(3カ年)の中期経営計画の策定に関わり、今回の7年間のビジョン策定にも携わった。改めて思うのは、特にこの5年間は計画策定当初に予測できないことが多々起こり、当金庫グループを取り巻く事業環境が複雑かつ加速度的に変化していくことを実感した。
計画に固執すると柔軟な対応が困難になること、その都度中期計画を変えるのは多大な労力を要することから、今回は、具体的な目標地点を単年度で策定していくこととし、7年後に目指す姿を「中期ビジョン」で共有・認識していく方針に変えた。
前中計でも〝変化を追い風に、新たな価値創造へ挑戦〟というフレーズを掲げ非連続な変化を捉えたが、さらにその思いを強くしている。
これを〝未来を見据え、変化に挑む〟という言葉に集約した。変化を組織成長の機会と捉え、それを吸収して新しいことにチャレンジしていく。それが、組織全体が発展していく糧ではないかと受け止めている。
新領域への対応問われる金融業界
■では、今起きている変化の中身をあげると。
グローバルな環境では、世界が分断され戦争が起き、食料の争奪戦や囲い込みが一層激しくなってきた。改正「食料・農業・農村基本法」も食料安全保障がポイントとされているところだ。国内をみると、少子高齢化が進み、JAやJF、森林組合が事業基盤としている地域での変化がジワジワと進んでいる。気候変動への対応や生物多様性、自然資本等々が叫ばれているなか、農業生産も国の「みどりの食料システム戦略」に沿って地道に取組む必要がある。
金融業界では、通信、流通など異業種がデジタルを使った金融サービスをはじめ、新しい領域にどんどん進出してきている。この動きがさらに加速化し競合相手がたくさん出てくる。スマホで何でもできる世の中になり、お客様が銀行を選ぶ際の視点も変わってきた。こうした変化にJAの信用事業がいかに対応していくかは極めて重要な課題である。
一方、働き方改革と人手不足が顕著となる中、職員は、人件費というコストではなく人的資本として捉え直されつつあり、組織として対応していかなければならない。
「羅針盤」のもと 組織がアメーバ的に動く
■中期ビジョンの構成のポイントは。
農林中金では、「持てるすべてを「いのち」に向けて。~ステークホルダーのみなさまとともに、農林水産業をはぐくみ、豊かな食とくらしの未来をつくり、持続可能な地球環境に貢献していきます~」をパーパスと定めている。
このパーパスのもと、2030年のありたい姿を経営の「羅針盤」として位置付け、5つの「ありたい姿」に向かって進んでいく。金庫には、食農ビジネス、リテールビジネス、投資ビジネス、コーポレートの大きく4つの領域があるが、それぞれの所管部署だけを担当すれば良いというのではなく、〝アメーバ〟的に動いていくことを志向している。
協同組織活かし環境・社会・経済へインパクト
■ありたい姿の一つ目として「地球環境・社会・経済へのインパクト創出」を掲げているが。
グループを含めた6千人の金庫職員全員が取組んでいかなければならない課題だ。地球環境に限らずESGやSDGsの理念・考え方は、協同組合組織の考え方に通じるものが非常に多い。協同組織の良い点をもっとアピールし、協同組織と金融の力で、持続可能な地球環境や社会・経済の実現に向けて、ポジティブインパクトを創出し続けていきたいと考えている。
農林水産業・地域の発展に更なる付加価値提供
■次の「農林水産業・地域の持続的な発展」では。
〝農林水産事業者所得の増加〟を大きなゴールと考えている。基幹的農業従事者は減少しているが、担い手がいるところは所得もしっかり確保されているところが多い。所得をしっかり上げていくような経営体にしていくことが重要であり、そのためには経営力の強化や生産効率の向上が欠かせない。
食と農林水産業のファーストコールバンクとして、ITデジタルを活用したデータビジネスの展開や、新たな食農バリューチェーンの構築などによって、さらなる付加価値を提供し、農林水産業者や系統団体の持続的な発展を実現させていきたい。
デジタルとリアルでニーズに最適融合
■「デジタルとリアルの最適融合による組合員・利用者への価値創造」もありたい姿として掲げているが。
地域の方々との対面による業務の大切さは変わらない。ただ、それだけだとニーズにマッチしない部分も出てくるので、リアルでやる場面はしっかりやる一方、スマホでできるようなサービスもしっかり整えて、JAの組合員・利用者のニーズに一番合う、最適な組み合わせを模索していく。
系統金融機関ならではのデジタルとリアルの最適化を追求することで、JAやJFがさらなる金融仲介機能や総合事業体としての強みを発揮し、組合員・利用者の皆さまに感動いただける価値を創造し続ける姿を目指している。
特に、JAが総合事業体の強みを本当に発揮できれば、相当強い組織に生まれ変わることができると考えている。
新規事業開発で収益・機能還元
■「会員への安定的な収益・機能還元の発揮」では。
農林中金グループが一体となって、変化の激しい市場環境や顧客・取引先のニーズに柔軟に対応すること、新しい領域・分野に挑戦し、持続的な財務基盤を構築・維持することで、会員からの安定的な収益・機能還元に関する期待に応え続けたい。
そのためにも、これまでの国際分散投資の考え方をさらにバージョンアップしていく。また、将来的には事業収益の柱を分散させていくような仕組みももっと創っていかなければならない。新規事業開発は、国際分散投資の枠組みと併せて非常に重要なポイントとなってくる。
専門性と多様性で柔軟・強靭な組織へ
■これらを通じて「変化に挑戦し続ける柔軟で強靭な組織の実現」を目指す姿としたが。
専門性と多様性に尽きる。多様な思考を持った人材をより多く抱え、相互に学び合いながら専門性を高めていく必要がある。この4月から、専門性を高める人事制度を導入し、職員が働き甲斐と働きやすさを感じる職場環境づくりに取組んでいるところだ。
一方で、IT、デジタルデータの利活用が浸透したオープンマインドな企業カルチャーのもとビジネスを伸長させ、変化にチャレンジし続けることで、柔軟で強靭な組織を実現していきたい。
強み活かし 新しいことに挑戦を
■今年度の取組みと、職員や会員へのメッセージを。
今年度は、激しい変化をしっかり捉えたうえでリソースを大胆に配分し直す発想で、まずは収益力強化、そして効率性改善の観点から、JAをはじめとするシステム基盤の強化に取組んでいきたい。
組織を運営していくうえで大事な経営理念、ビジョンは、数年前にパーパスとして設定し職員に浸透してきた。これをきちんと落とし込んだ上で環境変化を捉え、我々の持っている強みを考えていく必要がある。そして新しいことにどんどんチャレンジして欲しい。
昨年12月に農林中金は創立100周年を迎えた。これは偏にJAグループはじめ出資者の皆様、JAを含めた様々なステークホルダーのおかげに尽きる。
どんな変化があっても支えていただいているJA、JF、森林組合の会員の方々、農林水産業に携わっている方々と一緒に、農林水産業の発展に貢献していく農林中金であり続ける。
〈本号の主な内容〉
■アングル 農林中金「中期ビジョン」のポイント
農林中央金庫 常務執行役員 川島憲治 氏
■国際養鶏養豚総合展2024開く〈中央畜産会〉
■新トップに聞く
JA全農Aコープ㈱ 代表取締役社長
宗村達夫 氏
■6月1日は「牛乳の日」 6月は「牛乳月間」
■農薬危害防止・安全防除運動 展開中
「農薬危害防止運動について」
農林水産省 消費・安全局 農産安全管理課 農薬対策室長
楠川雅史 氏
「安全な農薬使用のために-適正使用の7項目-」
クロップライフジャパン 安全対策委員長 池本祐志 氏
「JAグループの安全防除運動について」
JA全農 耕種資材部 部長 髙橋正臣 氏
「2024年度 農薬危害防止安全防除運動」
全国農薬協同組合 技術顧問 植草秀敏 氏