先月も当欄で取り上げた紅麹サプリメントの健康被害は、5月半ばの本稿執筆時点でまだ原因が解明されていない。一方、問題の背景になった機能性表示食品制度については今月末、消費者庁の有識者会議が見直し案をまとめる予定だ。従来はメーカー任せだった被害報告の義務化、GMP(医薬品等の製造に適用される品質管理基準)導入などが焦点のようだが、その程度の改正で十分だろうか。
実は、2015年の制度発足当初から懸念を示す専門家がいた。立命館大学客員研究員の畝山智香子氏だ。最近まで国立医薬品食品衛生研究所で安全情報部の部長も務めた食品安全のプロで、16年の著書「『健康食品』のことがよくわかる本」にこう書いた。「医薬品並の安全性と有効性の証明をすることなく医薬品と同じような宣伝をさせろ、というのが機能性食品」「消費者を誤解させ(中略)お金儲けをすることが、いわゆる健康食品の目的」「特定の食品や成分を大量に継続的に食べる(中略)健康食品こそがもっとも不健康」
当時、畝山氏の肩書きは同部第三室長。国家公務員の立場でよくぞここまで書いたと驚くが、あとがきには同僚の協力を得たとある。純粋な個人的見解ではなく、研究者に共通の思いが込められているのかも知れない。
もっと大きな驚きは、既に紅麹の危険性が指摘されていることだ。悪玉コレステロール値を下げる有効成分「ロバスタチン」自体に健康リスクがあり、欧米やカナダの当局は医薬品に準じる規制や警告を行ってきた。しかし、日本では食品として野放しで販売されていることに畝山氏は疑問を呈している。なぜ、こうした声が届かなかったのか。
畝山氏は科学的知見に加え「食経験」の重要性にも言及する。人類の長い歴史を通じて積み上げられてきた食の経験知のことだ。メリットだけが強調され、特定の食品を集中的に食べる行為は、食経験の裏付けがない未知の領域へ踏み出すことでもある。リスク管理の最良の方法は「特定のものだけを食べずいろいろなものを食べるということ」という畝山氏の言葉を、消費者も受け止める必要があるだろう。
(農中総研・客員研究員)
日本農民新聞 2024年5月25日号掲載