穀物価格が急騰した2008年は、輸入食品をめぐるさまざまな問題が浮上した年でもあった。1月に起きた中国製冷凍ギョーザの農薬混入事件は、千葉と兵庫で10人が中毒症状を訴え、女児1人が一時、意識不明の重体になった。9月には基準値を超える農薬やカビ毒に汚染された輸入米が不正に転売され、学校給食にも使われていた事実が発覚した。
前者については、毎日新聞「記者の目」欄で論争が起きた。経済部の中村秀明記者は、翌年の消費者庁発足につながる消費者保護の強化論に疑問を投げかけ「消費者は守られるだけの存在でいいのか。食の安全や生産現場の環境・人権問題などについて『学び』を促すことも必要だ」と指摘した。
一方、社会部の井上英介記者は被害者の境遇に触れ「冷凍食品に頼らざるを得ない低所得者もいる。消費者に『学べ』とは酷だ」と批判した。二人と親しい筆者は悩んだが、中村記者を支持する立場で自分も記事を書いた。その中で紹介したのが、神奈川県三浦市の小学校で行われた総合的学習の授業である。
教諭と児童が一緒にコンビニ弁当を買ってきて、食材の原産地を調べた。三浦半島はダイコンの産地だが地元産は使われず、食材の多くは輸入品。その移動距離を合計すると地球を3周半する長さだった。それをきっかけに食のあり方について皆で考えた。詳細は「コンビニ弁当16万キロの旅」という本にまとめられている。
「ゆとり教育」の見直しで、今やこんな授業は難しいだろう。だが、毎日の給食も食育の重要な機会になる。政府の第4次食育推進基本計画は、学校給食での「地産地消」推進を掲げている。本気で取り組むなら、個々の学校や生産者のやる気に任せるのではなく、財政面を含めた国・自治体の支援が必要だ。
ロシアのウクライナ侵攻などを背景に多くの食材が値上がりし、学校給食にも影響が出ている。5月11日付東京新聞によると、東京23区のうち5区が4月から給食費を引き上げた。パン・麺類や揚げ物を減らす動きもあるという。子どもや保護者にとっては残念なことだが、地産地消や食育を進める契機にできないだろうか。現場の創意工夫に期待したい。
(農中総研・特任研究員)
日本農民新聞 2022年5月25日号掲載