ここにきて食料安全保障をめぐる動きが本格化しつつある。自民党は総合農林政策調査会の下に、2月4日、食料安全保障に関する検討委員会を設置。3月の9日には農林政策調査会、検討委員会、水産総合調査会が合同して食料安全保障の強化を政府に求める決議を行い、同日には農水大臣に決議の申入れを行った。検討委員会は有識者へのヒアリング等を踏まえて5月に食料安全保障に関する強化策をまとめて政府に提言する予定とされる。
3月9日に行われた決議では、食品原材料や生産資材の海外依存度が高いことから、「我が国の農林水産業・食品産業が抱えるリスクは増大している」との認識をもとに、肥料での調達先の多角化や堆肥の活用推進、施設園芸での燃油高騰に備えるセーフティーネット事業機能強化や省エネ設備の導入支援、飼料対策での配合飼料価格安定制度による価格の安定と国産飼料の増産、を求めている。検討委員会の森山委員長は「短期的な問題と長期的な問題を分けて対応していくことが大事」と述べており、とりあえずの短期的問題としての資材の高騰対策を先の決議で訴え、今後、ヒアリング等を踏まえて長期的問題について検討し、両者をあわせて提言としてまとめていくものと思料される。
こうした流れの下で、この4月、5月は活発に食料安全保障や食料自給率について活発で実のある論議が展開され、これを経て食料安全保障の確立と食料自給率の向上で実効ある政策が打ち出されることを期待したい。そこでこれに関連して、特に長期的な取組課題についての筆者の基本的な考え方について何点か提示しておきたい。
第一が日本農業の特性を活かした展開による持続性の確保である。主となるのが水田農業の保全と家族経営の重視である。欧米が中心とする畑作とは異なり、外部投入なしでも半永久的に連作が可能な水田農業の強みを最大限に生かしていくものである。水田農業は一方では多大な手間を要するが故に、家族経営を大切にしていくことが求められる。
第二が地力の増強である。これを外部投入によるのではなく、微生物の力を生かしていくことがキーとなる。地上部分での太陽の光による光合成と併行して、地ちゅうにある根が微生物と共生しながら水分や養分の吸収を促進させていくもので、化学肥料等の低減、低投入につながる。そしてこのためには腐植が必要であり、森(みどり)と水(川)と土(水田)を一体的に管理していくことが欠かせない。これはみどり戦略とも重なる。
第三が戸別所得補償政策の復活である。〝岩盤〟となる経営継続可能な所得の確保を保証していくもので、担い手の確保とともに新規就農者の呼び水にもなる。その前提として農業・農村を社会的共通資本としてしっかりと位置づけしていくことが求められる。
これらによって農村に笑顔と活力を取り戻していくことが一極集中から分散型の国への移行を促し、消費者の理解・支持獲得につながる。地産地消、フードマイレージの縮小、田園回帰、国民皆農等を促し、食料安全保障と食料自給力の確保につながるものと考える。
(農的社会デザイン研究所代表)
日本農民新聞 2022年4月5日号掲載