30年近く新聞記者をやった後遺症で「バラ色の話はまず疑ってかかる」という意地悪な心性が染み付いている。そういう自覚があるから「あら捜しはやめて、なるべくいい点を評価しよう」と思ったが、読んでみたらやはり一言いいたくなった。
いや、バラ色ではなく緑色の話だった。先月、農林水産省が策定した「みどりの食料システム戦略」。地球温暖化など環境問題に対応した農林漁業の将来ビジョンである。
農業関係者の間で最も話題になったのは「有機農業を2050年までに耕地面積の25%(100万ha)に拡大」という部分だろう。「現在0・5%しかないのに30年で50倍?」と多くの知人が首をひねっていたが、ほかにも違和感を覚える部分は少なくない。
全体を通じて感じたのは「イノベーション」(技術革新)への強い期待だ。有機農業も環境保全型農業も、慣行農業より手間やコストがかかることが普及のネックだが「この技術を使えばOK」というリストが並ぶ。たとえば、こんな具合だ。「バイオスティミュラントを活用した革新的作物保護技術」「ナノ粒子を用いた農薬送達システムによる革新的植物免疫プライミング」。まるでベンチャー企業の製品カタログである。
これに対し「食料システム」の一方の主役である消費者への言及は乏しい。消費者との「相互理解」「連携」「協働」といった抽象的な文言は随所にちりばめられているが、消費行動の変容を促す記述はない。食肉の消費に伴って畜産現場から出るメタン、食品ロスの削減などは「下流」側の改革も重要だと思うが、たとえば「メタンを発生させない飼料」や「人工知能(AI)による食品の需要予測」などを導入すれば、消費者は「今のままでいい」ということなのか。
そんな疑問を抱きながら読み返していたら、こんな文言が目に入った。「本戦略を、各種政府方針や令和4年度予算要求に反映させるとともに(中略)国連食料システムサミット等において、我が国から積極的に提唱し、国際ルールメーキングに参画する」
「なるほど」と納得した。やはり後遺症は治りそうにない。
(農中総研・特任研究員)
日本農民新聞 2021年6月25日号掲載