日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

〈蔦谷栄一の異見私見〉キーワードは「協同」「おもしろい農業」

2019年3月5日

 JA全国大会議案が決議されるが、平成最後という一時代の区切りでのJA大会であるだけでなく、TPP11と日欧EPAの発効によって、農産物貿易自由化の大津波が到来し始めた時でもある。そして人口は減少に転じ、高齢化の進行によって、先行きさらなる米消費量減少が避けられず、あらためて水田をはじめとする農地の粗放的利用への取組みが必至とされる情勢にあるなど、時代は抜本的に変わりつつある。
 JA大会では、(1)持続可能な農業の実現、(2)豊かで暮らしやすい地域社会の実現、(3)協同組合としての役割発揮、を目指す姿として、(1)では、農業所得の増大、農業生産の拡大、(2)では連携による地域活性化への貢献、を主な取組み重点事項として掲げている。
 これら目指す姿、重点事項の個々についての話しはともかく、本欄を借りて強調しておきたいのが、(1)と(2)の関係についてだ。(1)と(2)を併行する関係に置くのではなく、(2)の中に(1)を位置づけて取り組んでいくべきであり、そこでこそ(3)が必要とされることを力説しておきたい。すなわち時代・状況が求めているのは「豊かで暮らしやすい地域社会」にしていくことであり、そのために「持続可能な農業」とは何かをあらためて考えていくことが肝心であるということだ。そして「豊かで暮らしやすい地域社会」「持続可能な農業」の両方ともに、国民・消費者が納得し積極的に支持・参画し得る中身であることが前提となる。
このように考えてみると、農業所得の増大、農業生産の拡大はそのための手段でこそあれ、究極の目標ではない。同時に取組課題として、地域循環の創出、産消連携・農都交流、環境に優しい農業への取組が不可欠であることが浮かび上がってくる。
 地域循環の創出は、地産地消は勿論のこと、商工業者との連携によって六次産業化やFEC(=食料・エネルギー・福祉介護)自給への取組み等、大小いろいろの地域資源を地域内で活用していくことである。中でも地域資源の一つとして文化や伝統・歴史も生かしていくことが肝心で、これがあってこそ消費者や地元住民の参画も容易になる。
 産消連携・農都交流は、消費者とのつながりを獲得し、その地域の農産物を支持してもらえる関係の構築をねらいとするが、輸入農産物に対抗していくための最大のポイントでもある。そして生産・消費の関係から交流のレベルにまで引き上げていくことによって、農業・生産のやりがいやおもしろさがもたらされることになる。
 有機農業や自然農法をも含む環境に優しい農業への取組は、何よりも生産者や地域の環境や食に対する姿勢を象徴することになる。景観づくりとともに消費者の関心は強い。
これら取組みは個人の努力では限界があり、地域で協同しての取組みが必須となる。小さな、できるところから積み上げていく。これに若者さらに消費者を巻き込み、そこでの出会いと交流が農業にやりがいとおもしろさをもたらし、担い手の確保や地域を守っていくことにつながってくる。協同しておもしろい農業を創造していく、これこそがキーワードだ。
(農的社会デザイン研究所代表)

日本農民新聞 2019年3月5日号掲載

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