日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2019年7月15日号

2019年7月15日

全国野菜園芸技術研究会 会長 渋谷忠宏 氏このひと

 

全野研の役割と想い

 

全国野菜園芸技術研究会
会長
渋谷忠宏 氏

 

 野菜農家がつくる全国野菜園芸技術研究会(全野研)は今年3月の通常総会で新会長に神奈川県のトマト農家の渋谷忠宏氏を選任した。渋谷新会長に、就任の抱負と今後の研究会の活動、また7月16・17の両日、熊本県で開催される第64回「全国野菜園芸技術研究会 熊本大会」への想いを聞いた。


収量以外にも所得増やす方法を検討

就任の抱負を。

 当会ではこれまで〝儲かる農業〟を目指して、全国の農家の皆さんから増産・増収に関する取り組みを学び、お互いの技術を高めてきた。
 ただし近年は収量を増やしただけでは収入につながらなくなっている。また、多くの農業者が施設を持つようになり、独自に情報をえて勉強する方も増えてきた。
 今後も農家がしっかりとした経営を築いていけるよう、安定した生産を行うことを基本に、販売方法を含めた経営面に焦点をあてた内容にも力を入れて、所得を増やす方法ついても考えていきたい。
 例えば、少子高齢化等で国内の需要が限られることを考えれば、、輸出に取り組むことは必要不可欠だと感じている。
 すでに各県で輸出の取り組みを実施しているだろうが、輸出でも販売先に対して、一貫性のある取り組みが欠かせないと思う。当会も農業者のためになるような輸出の仕組みづくりの中に入り関わっていきたい。
 そのためには、都市近郊や遠隔地にかかわらず、一部の農業者だけでなく、皆で農水省やJAグループなどとしっかり検討し一緒に輸出を考える〝オールジャパン〟のかたちで団結して取り組みたい。

農家同士が現場の情報と意見を交わす場

全野研のこれまでのあゆみや役割は?

 当会は、農家の野菜所得を上げるため、1956年に発足した。〝旬〟の時期のみ生産する露地での栽培から、オールシーズン出荷でき、収量も上げられる施設栽培の導入に向け、所得向上につながる技術を発信してきた。
 現在の野菜栽培では、反収でトマトが55t、キュウリが40t、イチゴが10tという数字が現実になるまで栽培技術も発展している。
 当会の一番の特徴は、農家が自ら試行錯誤し工夫してきたことを発信してきた点だ。国や各県の研究機関でも技術の発信を行っているが、試験場と実際に経営をしている農場の見学では得られるものが違う。現場で農家に話を聞ける機会は本当に大切なことだと考えている。全野研は農家同士の繋がりを広げられるように、これからも役割を果たしていきたい。

需給不均衡な品目は輸出で活路を

国やJAへの期待は?

 昨年のトマトの価格は、過去10年のワースト3に入るといわれていたが、今年の平均単価はさらに下がっていると聞く。
 農産物は流通量が1割増えると価格は半値に、1割減ると倍になるといわれる。現在トマトの出荷量が以前と比べて増えている。市場に出回る量が潤沢にある現状を考えれば、海外に目を向ける必要があるのではないか。
 単価が下がり収益が下がれば、新たな設備を導入した際に、返済が当初見込んだ期間より延びて、利益になかなか結びつかなくなる。職業としての農業の魅力も低下してしまう。
 高齢化や担い手不足等の影響により、日本の農業はこの5年で大きく変化していくだろう。生産量を増やして都市部で販売するにしても、需要に見合わなければ値が崩れてしまう。そうした意味で、輸出ができあがれば大変ありがたい。
 国の様々なバックアップは必要になると思うが、国内で需給がアンバランスな品目を適正に保つ一つの施策として、海外と国内の売上をあわせて安定した収益が見込めれば良いと思う。
 担い手をはじめとした若い農業者が意欲的に取り組めるのはもちろん、私と同年代や、少し上の世代でも、市場に出荷する感覚で輸出に取り組める仕組みができれば面白い取り組みになるだろう。
 個人的には、各県に窓口を持つJAグループがある程度の荷をまとめてほしいと考える。県間で上手く調整しながら、効率よく、経費を抑えることができれば、農家の所得向上にもつながるだろうし、輸出の全体状況が判るようになるのではないか。

5年先を描き後継者が夢と意欲持てる大会に

熊本大会の参加者へひとこと。

 今大会のテーマは「5年後の『食』と『野菜』を考えて、いま、すべきこと」。
 後継者や若手生産者が夢と意欲を持てるよう、魅力ある農業を実践するため、私たち農家が、〝5年先〟になりたい姿を描き、経営を安定的・持続的なものにしたいと考えている。基調講演を農家であり大学では学生に農業・経営を教えている木之内均様にお願いし、事例発表は若い農業者を中心に、トマト(栃木・熊本)、ナス(高知)、イチゴ(熊本)の安定生産と効率化の取り組みを報告いただく。現地視察は八代地域の低コスト耐候性ハウスと、JAのトマト選果場を訪ねる。
 技術向上や経営発展に向け、生産・流通・販売・経営の事例を学びながら、生産者同士で活発な情報交換を行ってほしい。
 農家が明るい未来を思い描けるよう、また参加者が団結できるような、活気のある大会にしたい。


 

〈本号の主な内容〉

■このひと 全野研の役割と想い
 全国野菜園芸技術研究会 会長 渋谷忠宏 氏

■JA全農新3か年計画と2019年度事業のポイント
〇フードマーケット事業
 JA全農 フードマーケット事業部 神林幸宏 部長

■かお 農林中金新常務理事・常務執行役員の4人
 常務理事 コーポレート本部リスク管理ユニット担当
        藤崎圭 氏
 常務執行役員 グローバル・インベストメンツ本部副本部長(ロンドン駐在)
        今井成人 氏
 常務執行役員 グローバル・インベストメンツ本部副本部長
        喜田昌和 氏
 常務執行役員 松永論 氏

■夏秋期に向けた野菜の病害防除
 農研機構 野菜花き研究部門 野菜病害虫・機能解析研究領域 農学博士
        寺見文宏 氏

■夏秋期に向けた野菜の虫害防除
 農研機構 野菜花き研究部門 野菜病害虫・機能解析研究領域 虫害ユニット
        豊島真吾 氏

■第64回 全国野菜園芸技術研究会 熊本大会 7月16・17日開催へ

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