〈本号の主な内容〉
■このひと
NOSAIの役割と将来展望
(公社)全国農業共済協会 会長
全国農業共済組合連合会 会長
森健 氏
■集中連載 第1回
持続可能な農業、地域共生・活性化へ
わがJAの取組み
・JA秋田しんせい 代表理事組合長 佐藤茂良 氏
・JAはだの 代表理事組合長 宮永均 氏
・JAレーク滋賀 代表理事理事長 木村義典 氏
■2026国際女性農業従事者年 記念企画
ダイバーシティ推進へ 農林中央金庫の取組み
農林中央金庫 常務執行役員
女性活躍・ダイバーシティ推進責任者(CDO)
内海智江 氏
このひと
NOSAIの役割と将来展望
(公社)全国農業共済協会 会長
全国農業共済組合連合会 会長
森健 氏
(公社)全国農業共済協会(NOSAI協会)は6月の通常総会・理事会で、新会長に森健氏(元水産庁長官)を選任した。収入保険の実施団体である全国農業共済組合連合会も同日、森氏を新会長に選んだ。農業共済、収入保険の両制度をはじめとするNOSAIの役割や課題について、森氏に聞いた。
多発する自然災害 「現場を歩く力」で補償迅速に
■就任から3か月余り。今の思いから。
農林水産行政に長年携わってきた中で、農産、畜産などの生産部局を経験し、植物防疫、獣医療関係の仕事も手がけた。また、30代の頃、石川県庁に農政課長として出向した際は、農業共済の担当課長でもあった。気候変動を含む情勢変化の中で、農業共済は制度を拡充させつつ、農業経営を支えてきている。近年、収入保険という新たな制度を導入し、カバーする領域を広げてきた。
就任以来、全国各地の各県の現場にも足を運び、NOSAI関係者の話をうかがう中で、農業者と、それを支えるNOSAI組合の方々が多様な課題に直面し、対応していることを再認識した。引き続き、NOSAIが農業経営の基幹的なセーフティネットとして機能できるよう、現場の方々が円滑に役割を果たせるよう、全国団体を預かる立場として緊張感をもって任務を果たしたい。
■熊本地震や各地での豪雨など、自然災害が相次いでいる。
今年も熊本地震や豪雨をはじめとした災害が各地で多発している。被害を受けられた皆さまには謹んでお見舞いを申し上げる。熊本は施設園芸や果樹、水稲、い草などの生産が盛んな九州有数の農業地帯で、農業関係被害もかなりの規模に及んだ。熊本県農業共済組合(NOSAI熊本)では、被害状況を把握したうえで、できるだけ早く損害を評価し、支払い手続きを進めるべく努めている。収入保険のつなぎ融資も含め、全力を挙げて取組んでいく。協会と全国連では必要な支援を行い、被災された農家の方々が一日も早く経営に再びしっかり取組めるよう態勢を整えていきたい。
2月に環境省がまとめた第3次気候変動影響評価報告書では、水稲や果樹、畜産など農業に関する8つの項目いずれも、対応の緊急性が高いレベル3となっている。気候変動は農業経営における現在進行形のリスクであり、国も気候変動の農業への影響を切迫した課題と位置付けたことになる。既に高温耐性品種の導入、作期の移動、畜産における暑熱対策への投資など、現場生産者は気候変動に対応されているが、一方で過去に経験がないような豪雨や記録的な猛暑など、どれほど備えても努力の結果が失われてしまうような事態も起きている。これは、ある意味で、自然を相手にする産業の宿命だと思う。
NOSAIは万が一、生産者が被災された時に、一日も早く共済金、保険金等をお届けし、次の作付け等に踏み出していただくのが使命であり、原点だ。全国のNOSAI職員はもとより、農家代表である共済部長や損害評価員の方々の「現場を歩く力」は、NOSAIの大きな財産であり、その力が十分に発揮できるようにするのが、NOSAI協会とNOSAI全国連の役割だ。
ニーズに応じ制度を拡充 収入保険は現場定着
■農業共済と収入保険の違いは。
平成29年の法改正により、NOSAI団体は、従前からの農業共済制度に加え、収入保険制度も担ってきた。
歴史ある農業共済は、作物や家畜、園芸施設に加えて、農業者の建物や農機具まで幅広く対象としている。園芸施設共済については資産価値の10割、つまり新築時の資産価値で補償する特約も導入された。また、農機具共済でもロボット、ドローン等のスマート農機の引受も一部の組合で実施するなど、農家のニーズに応えて様々な拡充を図ってきた。
平成30年度にスタートした収入保険は、作付品目を問わず農業収入全体を対象にしている。自然災害による収量の減少だけでなく、市場価格の低下や、けがや病気で収穫ができない場合、取引先が倒産した場合等、農業者の経営努力では避けられない事態を広くカバーする保険になっている。個人でも法人でも青色申告を行っている農業者が対象で、既に10万経営体を超える加入となり現場に定着してきた。
気象災害によって被災した場合、翌年以降、十分な補償を受けられるように基準収入を修正する特例を設けるなど、制度開始から10年近く経つ中で、制度のブラッシュアップを図ってきている。
生産・生活と挑戦の両面支え 「生産獣医療」「遠隔診療」も推進
■NOSAI団体の取組みは。
農業保険(収入保険と農業共済)のさらなる浸透を図り、広く総合的な補償を届けていく。収入保険については、新しく農業を始めたり、付加価値の高い品目の生産に切り替えたり、規模を拡大したりといった農業者のチャレンジを支える機能もある。
NOSAI団体は現在、令和5年度から5年間の「未来へつなぐ」サポート運動を展開している。農業保険を生産現場に一層深く浸透させることを目指し、「安心をすべての農家に届けよう」との目標を掲げた。さらなる普及推進に努めるとともに、青色申告自体の普及にも、自治体やJA、地域の税理士と連携して取組んでいく。
また、NOSAIの家畜診療所は全国に約200か所あり、地域の産業動物医療を担う基幹的な家畜診療施設としての役割を果たしている。現在、生産獣医療の推進に力を入れている。病気になった家畜を治療する従来の診療にとどまらず、病気や事故を起こさないよう飼養管理や繁殖、畜舎・農場の衛生管理等を通じ畜産の生産性そのものを高めていく。いわばNOSAIの獣医師が畜産経営のコンサルタント的な役割を担うものだ。
また、家畜診療所における遠隔診療も推進している。畜産農家の減少により、農場が点在化し、往診するための時間・距離が長くなってきている。そこで、IT技術を活用し、効率的かつ迅速に獣医療が提供できる体制整備をしっかりと進めていく。
いずれにしても、NOSAI団体としては、各農家の経営状況や意向に応じて、最適な保険の選択を後押ししていく。
食料安保も農業保険あってこそ 制度80周年、次の世代見据えて
■日本農業をめぐる課題認識は。
2年前に改正された食料・農業・農村基本法で基本理念の柱に据えられた食料安全保障の土台を突き詰めれば、農業経営が災害や価格の変動を乗り越えて持続することである。生産基盤が細ってしまえば、需要拡大対策も画餅に帰しかねない。規模拡大や輸出の拡大などの方向性も示されているが、取組みにはリスクが伴うことも確かだ。農業保険があってこそ農業者は安心して前に踏み出すことができる。
改正法に基づく新しい食料・農業・農村基本計画では、最近の災害による農業経営への影響を踏まえ、農業保険の利点を発信し普及促進を図るとされている。これに沿って、NOSAI団体としても日々の業務に着実に取組み、農家の期待に応える補償を届けていかなければならない。
■会長としての意気込みを。
まずは全国のNOSAI組合と、組合員の農家の皆さんの声を、できるだけ直接うかがうところから始めたい。
制度は現場で使われてこそ意味がある。各地の組合と生産現場に足を運び、それぞれの地域や経営の実情を拝見し、的確な判断につなげていきたい。今年起こった自然災害の現場でも、NOSAI職員は先頭に立って働いた。そうした第一線の職員の仕事が正当に評価され、職員が働きがいを持てる組織を目指していく。各地のJAや都道府県、市町村、普及組織など関係者とも連携を進め、農業保険の普及に力を入れる。
来年度、令和9年度は農業災害補償制度の発足から80周年、収入保険制度は10周年という節目の年を迎える。足元の課題に着実に取組みながら、農業を担う次の世代を見据えた事業を展開していきたい。



