〈本号の主な内容〉
■アングル
第5次食育推進基本計画のポイントと今後の取組み
内閣府 男女共同参画局長
(取材当時=農水省大臣官房審議官〔消費・安全局担当〕)
澤井景子 氏
■第104回国際協同組合デー記念企画
「協同組合は世界平和に貢献します」テーマに
■JA共済連 令和7年度の取組みと成果
新会長に長谷川氏(愛知)、新副会長に小松市(秋田)
7年度決算は総資産58・4兆円、運用資産56・6兆円
アングル
第5次食育推進基本計画のポイントと今後の取組み
内閣府 男女共同参画局長
(取材当時=農水省大臣官房審議官〔消費・安全局担当〕)
澤井景子 氏
食育基本法改正を受けて、農水省は6月、第5次食育推進基本計画を決定した。重点事項に、「学校等での食や農に関する学びの充実」「健全な食生活の実現にむけた『大人の食育』の推進」「国民の食卓と生産現場の距離を縮める取組の拡大」の3つを掲げた同計画のポイント、今後の取組みについて、澤井景子・大臣官房審議官(消費・安全局担当)(現内閣府男女共同参画局長)に聞いた。
国内の農林水産物選択へ 消費者の行動変容求める
■2005年の制定から20年余を経て、5月に改正された食育基本法の意義から。
人間は食べないと生きていけない存在であり、「食べる力をつけることによって生きる力を作る」食育の取組みが続いてきた。「食育を、生きる上での基本であって、知育、徳育及び体育の基礎となるべきものと位置付ける」と基本法の前文にある通り、「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てるという食育の意義は制定当初から変わらない。
一方、この20年で大きく変わったのは食料安全保障の重要性だ。食料安全保障という言葉自体は20年前にもあったが、それが社会に与える影響や、実際に食料について国民が抱く危機感は相当に違ってきた。
2024年の食料・農業・農村基本法改正においても、食料安全保障の確保が基本理念として位置付けられ、消費者の役割が拡充された。つまり、食料の持続的な供給に資する消費行動が努力義務とされ、ある意味で消費者にも食料安全保障に対する責任があり、行動変容が求められることが明確化された。こうした課題への具体的な取組みとして、食育基本法の改正が必要になったという流れだ。
■「食」を選択する力とは。
消費者が「食」を選ぶことの重みは、この20年で特に変化してきた。もちろん、食品を選ぶ際には美味しさも重要だが、食料安全保障を見据え、地場産品・国産品を選ぶようになるような食育が求められる。言い換えれば、消費者が生産者のことを考え、食べることによって国内の農林水産物の生産に貢献していくことができる。
また、気候変動問題も、より切実な課題となった。持続性の観点から、消費者が環境との調和も考えて「食」を選択することの重要性、そのような消費行動に対する要請が非常に高まっている。
こうした変化を踏まえ、食育基本法の改正においても、食育が食料安全保障の確保にも資するものである旨が目的規定と基本理念に加わったことは大きい。
学校で「農林漁業教育」推進 自治体の取組み「見える化」
■法改正を受けた第5次食育推進基本計画のポイントは。
まず、学校教育の中で食育を一層強化するため、指導にふさわしい職員として栄養教諭を例示し、新たな概念として「農林漁業教育」を入れた。これは、今の子どもたちと生産現場との距離があまりにも遠く離れてしまったからだ。
東京育ちの私でも、小学生の時には家の近くにキャベツ畑があった。しかし、今の子どもたちはスーパーマーケットでしか、農林水産物を見ることがない。あるいはスーパーにさえ行かず、宅配の野菜などが家の玄関に届いたところでしか見なくなっている。すると、作物が実際にどうやって育てられたか、泳いでいる魚をどうやって捕ってきたか、リアルな想像ができない。そこをしっかりと教えていく時間や場が必要だ。
もう一つは「大人の食育」だ。子どもたちへの食育を行っても、いざ社会に出て一人で食事を用意するようになると、忙しいこともあって栄養が偏ったり、朝食をとらなくなったりする。こうした食習慣の乱れを改善するため、社員食堂での工夫など企業あるいは大学等を巻き込み、連携に向けた働きかけを行っていく。
国として新たな食育推進基本計画を策定したところだが、地方自治体での取組みの「見える化」を進める。年1回、目標の達成状況を検証し、PDCAサイクルを回しながら、施策も見直していきたい。
飲食料品の合理的な価格 意識して日常の買い物を
■「国民の食卓と生産現場の距離を縮める」には。
生産現場との距離は20年前と比べても一層遠くなってしまった。これを縮める方策として、子どもたちについては学校での「農林漁業教育」を打ち出したが、大人も含めて農林漁業を体験する機会をもっと増やしたい。現在も既に様々な農業団体等が体験に取組んでおり、それらをより魅力的なものにするとともに、農林水産省としてもそうした多様な取組みが分かりやすく、選びやすくなるように工夫したい。
また、今年4月に食料システム法が本格施行され、米穀や野菜などの生産、加工、流通等に要するコスト指標が作成・公表されることになった。消費者も日々の消費行動において、飲食料品を購入する際、実際にどのくらいコストがかかっているかを考えていただきたい。つまり、価格の安さのみではなく、その飲食料品に積み重なっている生産・流通等の価値を踏まえた合理的な価格に思いをいたし、日常の買い物をしていただければと思う。
農林水産省は「売る人にも、買う人にも、育てる人にも。フェアでいい値、を考える。」をコンセプトにフェアプライスプロジェクトを進めている。具体的には、フェアな値段をつけてもらう「値段のないスーパーマーケット」での買い物体験を、各種のイベントや中学校の授業、ウェブで展開するなど、消費者に対し、かかったコストを意識する機会を提供している。コストを理解して買い物をすることによって、徐々に行動は変わっていくと期待している。
生産者はプロの人材として 教育の場にインパクト期待
■JAグループへの期待を。
ぜひ手を携えてやっていっていただきたい。まず、文科省の主導で今後、各学校での取組みが進められることになる「農林漁業教育」に関して、プロの農林漁業生産者が教育の場に入っていただきたいと思っている。改正法にも、教育活動を支援する外部人材の活用の規定が新たに盛り込まれた。教育現場と農業関係者の連携がうまく進んで、農業に携わるプロの人材が学校現場に入り、実際の教育が行われることを期待している。そうした人材の育成やリストアップ等の役割も、生産者団体に担っていただきたい。
学校教員は教えるプロではあるが、農業や漁業の生産のプロではないわけで、生産に取組み、苦労されている方が教育の場に入っていただくことが、子どもたちにとってもインパクトの強い機会となる。既に設けられている様々な連携の形を、より良い形のものにするために、農水省としても好事例を発信するとともに、全国各地で農業関係者が望ましい形で教育と連携できるように後押ししていきたい。
文科省など関係省庁と議論 地域レベルでの連携がカギ
■食育は省庁横断型の取組みになる。
省庁間の連携は非常に重要だ。今回の食育基本法改正と基本計画策定に際しては、特に文科省をはじめとする関係省庁と密接に議論を重ねた。今後、学校教育における食育の取組みについては、学習指導要領の改訂も控えていることから、これまで以上に推進することが可能になると思う。
食育は最終的に国民運動を目指しており、農水省に加えて様々な関係機関との連携、さらに地域レベルでの連携がカギとなる。
教育関係者と農業関係者といった異分野の人々が、いかにうまく連携を取れるかにかかっている。考え方は共有できていると思うが、いざ実践する段階となると、それぞれに時間もコストもかかるところを、地域の現場レベルでどのように工夫して進められるか。子どもたちが農業の現場を見る機会、リアルに農家の話を聞く機会を作っていただきたいし、地域の住民も参加できるものとなるよう、良い知恵を出し合いながら推進していきたい。
■最後に、食育にかける思いを。
日本人の食育リテラシーは基本的に高く、食育の推進は日本の強みをより高めることにつながると思っている。
もっと食を楽しみ、味わいながら食べることによって、さらに日本の食を強くすることができる。だからこそインバウンドの人たちも日本の食を楽しみに来るし、食料品の輸出にもつながる。
食育は多様な課題のベースになるものであり、楽しんで日本の強みをますます強くするものとして取組んでいきたい。



