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日本農民新聞 2023年4月15日号

2023年4月15日

アングル

 

JA全厚連
令和5年度事業のポイント

 

全国厚生農業協同組合連合会

代表理事理事長
中村純誠 氏

 

 JA全厚連は3月の臨時総会で、令和5年度の事業計画を決定した。これまでの新型コロナウイルス感染症への対応を踏まえた、これからのJA厚生事業のあり方と取組み方向を、JA全厚連の中村純誠代表理事理事長に聞いた。


 

厚生連の存在価値を高めた3年間

まず、この間の新型コロナへの対応から。

 令和2年1月10日に、JA神奈川県厚生連相模原協同病院で中国・武漢市から帰国した新型コロナ感染者を受入れたのが全国の新型コロナ陽性者第1例目だった。その後、クルーズ船・ダイヤモンド・プリンセス号の陽性患者も積極的に受入れ、新型コロナ対応の幕が開けた。

 新型コロナ対応は、体制を確保するための空床並びに休床の発生や、救急の受入れ制限等による一般診療機能の縮小、予定手術の延期等により病院経営に大きく影響した。

 事業の継続困難は地域医療の崩壊に繋がると、国に対して支援を要請した結果、補正予算措置や予備費支出による支援政策が打ち出された。これは、厚生連病院は全国の病床数のうち約2・2%を担っており、最大時には全国の3・6%の新型コロナ陽性患者を受入れていたため大きな助けとなった。

 また、大阪、沖縄、東京の医療機関で看護師不足が起きた際は、自らの病院が大変であるにも関わらず、国の要請を全面的に受入れ、看護師をそれぞれ派遣した。更に、ワクチン接種にも行政や職域接種も含め積極的に取組んだ。

 こうした取組みは国からも評価され、補助金獲得にも繋がることで、この3年間の病院経営を切り抜けてきた。新型コロナ対応に全精力を投じた3年間であったが、地域の医療機関としての厚生連病院は従来以上の大きな役割を発揮したことで、存在価値を高めることとなった3年間でもあった。

新型コロナウイルス感染症第8波(ピーク時)にかかる厚生連の対応状況等

 

物価上昇が収益の伸びを上回る

現在の事業環境は?

 現在は、新型コロナへの対応を継続しながら、一般診療との両立に最大限努力している。

 しかし、医療機関の経営環境は大きく変化してきた。特にこの1年間は光熱費の上昇だけでなく、診療材料費や給食関連費用などの上昇で、医療提供コストは大幅な上昇を続けている。

 特に、水道光熱費は厚生連全体で約30%も上昇しており、経営を圧迫している。

 そのような中で令和4年度の事業収益は、各厚生連の努力により前年度を上回る見込みであるものの、物価高騰による事業費用の伸びが収益の伸びを上回る状況となっている。物価上昇のための医療従事者の処遇改善も喫緊の課題となっている。

 現在の経営環境では医療スタッフ確保にも支障が出かねない状況となっている。

 政府は「電力・ガス・食料品等価格高騰重点支援地方交付金」を創設し、その中で医療等に対する支援を推奨しているが、これによる医療機関への支援は、金額が十分ではなく都道府県格差も生じており、国に対して必要な財政措置を求めている。

 病院は医療を安定的に維持する必要があるが、診療報酬は公定価格であるため、個々の病院の裁量で改定することはできない。安定的な医療提供体制を確保するためには、入院基本料の引き上げが必要と考えている。

 診療報酬の手直しは、少子高齢化が進む人口減少のなかで経営を維持していくためにも、アフターコロナの重要な視点となる。

 

JAグループあげて健康増進活動強化を

健康管理活動については?

 組合員・地域住民の保健・医療・高齢者福祉を守り続けるためには、健康増進活動は我々の事業の重要な柱だが、令和2年の新型コロナウイルス感染症拡大にともなう緊急事態宣言下ではこの活動が全国的にストップした。いま、癌の発見率が落ちている社会現象を受け、国も再び健康増進活動強化へ運動を展開し始めた。

 JAグループでは「第29回JA全国大会」(令和3年10月29日)において、健康増進活動強化が決議された。JA厚生連が行う健康増進活動への支援については、全国連や全青協、女性協と連携し、各組織の研修会等で健診受診の重要性を発信している。

 もともとJA女性組織は健康増進へ意識が高かったが、令和4年度に取り組んだ内容として、JA全青協が発行する「ポリシーブック2022」でも、定期的な健診の必要性や人間ドックの助成要請が記載されている。今年度はさらに一歩すすめ、毎年、人間ドックや健康診断を受診するよう提唱している。

 農業者の一番の課題である農業所得向上のための諸施策が展開されているが、そのなかでも一番大事なのは働くヒトが健康であることだ。農業者が元気で働ける環境の整備に、JAの経営者や各事業連トップはもっと強い意識を持って欲しい。

 健康増進は農業者の所得向上の〝一丁目一番地〟の条件だ。総合事業のJAの中に医療や健康増進を行う事業体があることをもっと意識し、健康を軸に厚生事業の価値を高めていって欲しいと思う。

 

「事業・経営支援」を最優先に

令和5年度全厚連事業の基本方向と取組みのポイントは?

 令和4年度から6年度を期間とする「第10次3か年計画」では、JA厚生連のめざす姿の実現に向け、「事業・経営支援」「制度対応支援」「制度改正要望」「人材育成」の4項目に重点的に取組んでいく。

 特に新型コロナ緊急包括支援事業の動向によっては、5年度以降、厚生連の収益減が懸念されることから、「事業・経営支援」に優先的に取組んでいく。

 厚生連の財務状況の現状に鑑み、収益アップ・費用削減に厚生連の協力を得ながら積極的に取組んでいく。これまで全厚連は厚生連の経営改善に取組んできたが、5年度以降は、各厚生連の収益アップが期待される基幹病院にスポットを当て取組んでいきたい。

 また、人材有効活用の観点から内部部署の見直しを行い、経営支援に特化した経営支援部と、事業運営の支援を担当する事業運営支援部の2部体制とする。

 制度改正要望では、有償病床割合の見直しに取組む。厚生連病院は、法人税の非課税措置を受ける要件として、有償病床割合を30%以内とすること等が課せられているが、コロナや今後の新興感染症への対応として、隔離対策のための個室の絶対数の確保が必要となっており、6年度税制改正要望において有償病床割合の見直しにかかる要請活動を展開する。

 一方、地域医療継続に大きな影響を与えるものとしては、医師不足・偏在が続いているなか、令和6年度から始まる「医師の働き方改革」への対応がある。これにより地方の厚生連病院から大学病院が医師を引き揚げることも懸念され、地域医療が維持できなくなるおそれがある。地域医療の確保に支障が生じない対応を引き続き国に求めていく必要がある。

 「農民の健康を創る会」への参加議員は続々と増えており、積極的に応援してくれている。

 例えば、令和4年9月に厚労省が新型コロナ緊急包括支援事業に関し、平均病床使用率が50%を下回る場合に、一律に病床確保料の減額調整を検討していたが、自民党の議員連盟「農民の健康を創る会」の要請により、従来通りの条件で継続されることとなった。

 医療現場の現実を正確に伝えて、医師不足や消費税、診療報酬、コロナ等々の諸課題解決に、今度とも力添えいただきたい。

 政府は5月8日から、コロナの感染症法上の分類を2類相当から5類に移行することを決定し、これに伴う病床確保料や診療報酬上の取扱いも公表した。その内容・影響を注視し、5類移行後も医療体制が適切に確保されるよう国に働きかけていく。

 人材育成では、これからの経営を担う人達の育成へ、階層別、機能別の研修体制の大枠は出来上がってきている。現在の研修会やセミナーは、一定程度の評価を受けているので、これをさらに高度化していく。また、コロナ禍でWebの有効性が認識されたので、コスト削減の意味からもWebを有効活用した研修をより充実させていきたい。

 

地域医療を支える健全な経営を支援

改めてJA厚生事業の役割を。

 JA厚生事業は、その生い立ちからしてJAから出資していただき地域医療を支えている。経営が悪化して出資者に迷惑や心配をかけてはならない。厳しいながらもしっかり自立した健全な経営に取組んでいくことを重要なテーマとして位置付け支援していきたい。どこから見ても、あってよかったと感謝される事業であり経営であるための努力を継続していきたい。

 「健康」であることは「持続可能な農業の実現」を実践する第一歩となる。

 JAグループの一員として、豊かでくらしやすい地域共生社会の実現に貢献するため、JA厚生連が地域に必要な保健・医療・高齢者福祉サービスを継続できるよう支援していく。


 

〈本号の主な内容〉

■アングル
 JA全厚連 令和5年度事業のポイント
 JA全厚連 代表理事理事長 中村純誠 氏

■JA経営ビジョンセミナー・第5セッション JA全中が開催
 地域の発展に資する経営者マインドを新潟・NSGグループに学ぶ

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