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〈蔦谷栄一の異見私見〉土づくりをみどり戦略展開の基本に

2023年2月5日

 2021年5月に決定され、昨年7月にその根拠法となる法律が施行されたみどりの食料システム戦略は徐々に浸透し、各地で具体的な取組みも芽生えつつあるようだ。中でも肥料価格高騰の影響もあって、化学肥料の使用を減らし堆肥にシフトする動きについての報道が増えている。そしてこれは土壌診断とセットになって推進されているものが多いようだ。土壌診断によって不足している成分を明らかにし、これによって適正施肥を行い、過剰な肥料投入を避けることを基本にしている。この土壌診断による適正施肥は重要であり、異論はないのであるが、そのベースには〝土づくり〟への取組みが置かれてしかるべきだと考える。

 土づくりのキーワードは自然循環、持続性にある。土壌診断は現状の土を前提に肥料成分の過不足を調整していくものであるが、土づくりは肥料成分を豊富にしていくことに加えて、微生物が棲みやすく活性化できる環境を整えていくものだ。植物は根を伸ばし、微生物を通じて根毛から養分を吸収していくが、目に見えない世界、土の中での根毛と微生物による養分のやりとりを活発化させていくところに土づくりの眼目はある。土壌診断による肥料成分調整だけでは、植物の吸収能力は関係なしに、決まったメニューの食事を与えるようなもので、カロリーや栄養バランスが適切であるとは限らない。これに対して土づくりは、微生物の力によって土の団粒構造が形成され、保水性、通水性、通気性等も向上し植物が生育しやすい環境を整えてやると同時に、微生物の力をも借りて必要な養分を供給するものである。まさに土の中での微生物どうしの循環、植物と微生物による循環、植物の中での根と葉の間での循環、こうした多様な循環を可能にしていくものが土づくりであり、この土づくりこそが持続性をもたらす核心部分であると言える。

 このところ「環境保全型農業」ではなく「環境再生型農業」を使う研究者が増加しつつある。これは土壌を攪乱させない不耕起栽培、土壌を露出させないカバークロップ、多様な輪作をより重視するもので、これによって結果的に化学肥料や化学農薬の使用を抑制することが可能になるとする。どちらのネーミングを使用するかはともかく、化学肥料・化学農薬の抑制を目的とする以上に、微生物が活性化した環境づくり・土づくりをすることによって持続性を高め、結果的に化学肥料・化学農薬の抑制を図っていくことが肝心であり、みどりの食料システム戦略もベースには土づくりをしっかりと置いておくことが欠かせない。

 スガノ農機の故菅野祥孝さんとは、内原にある農林水産研修所での講義の際に、お互いに聴講をよくしたが、菅野さんは手書きの模造紙を指しながら「積年良土」を繰り返し強調しておられたことがいまだに忘れられない。まさに良土は一朝一夕にはできない。時間をかけ、手間を注ぎ込んでこそ良土はもたらされる。家畜からの畜糞を生かして堆肥にし、これを土に鋤き込んでいく。減化学肥料・減化学農薬、有機農業はその結果であり、この土づくりへの取組みこそが、みどり戦略を広く展開していくうえでの基本エンジンとなることを確信する。

(農的社会デザイン研究所代表)

日本農民新聞 2023年2月5日号掲載

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