日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

〈蔦谷栄一の異見私見〉21世紀の「武蔵野新田開発」構想

2023年1月5日

 新しい年を迎えたが、平和な一年となることを切に願う。

 農業界では酪農に象徴されるように農家経営は逼迫し、経営の持続が懸念される中、食料安全保障や新基本法の検討、みどりの食料システム戦略の実践等重要課題が山積する現状にある。まさに農政のあり方も含めて抜本的な梃入れが求められるが、併行して地域レベルでの生産者や消費者が連携しての地域循環形成に向けての取組みも強く求められている。新年最初の記事でもあり、関連して自らの本年の目標、〝夢〟を語ってみたい。

 江戸時代中期、享保の改革のいっかんとして行われた武蔵野新田開発を成功に導いた府中・押立村の名主で新田世話役として幕府に取り立てられた川崎平右衛門をもっと世間に知らしめたいとして、筆者は川崎平右衛門顕彰会の立上げに加わり、現在その事務局長をつとめている。2017年に川崎平右衛門フェスタ(当時は「研究会」)を平右衛門出身の地である府中で開催したのを皮切りに、毎年、新田開発が行われた地域で開催、昨年の第6回は武蔵野市で行った。その時々の情勢や開催地の事情等を踏まえてテーマを設け、これを中心に講演やパネルディスカッション等を中身とし、「平右衛門がいま生きていたらここで何に取り組むか」を基本的なスタンスに、このところは「農あるまちづくり」をテーマとしている。こうした積み重ねを経て、川崎平右衛門研究会と労働者協同組合(ワーカーズコープ)が一緒になって昨年2月3日に都市農業研究会を立ち上げ、その活動の柱として一般市民を対象に「農あるまちづくり講座」を展開することとした。昨年9月に西東京市で開始し、年度内には世田谷区でのスタートを目指している。市民の都市農業についての理解を深めるだけでなく、JAとも連携しながら農業体験から援農、さらには新規就農者の獲得までも視野に入れながら、可能なところから活動を広げていくことにしている。

 話しは飛ぶが、この5、6年程、埼玉県美里町に在住する元埼玉県職員の韮塚功さんに情報交換等でお付き合いをいただいている。韮塚さんは武蔵農EN塾を立ち上げ塾長として、北武蔵野を中心に耕作放棄されやすい棚田や谷津田などの小さな水田を体験農園として活用していく「サークルファーム(泠和班田)」の推進に取り組んでおられる(関心ある向きは「サークルファームで日本再生」で検索を)。その〝心〟は「三川(隅田川、中川、江戸川)上流米を食べて東京を守りましょう!」にある。下流に住む埼玉県民、東京都民を対象に、流域単位での地産地消運動、さらには体験農園等による交流を展開することによって、水田を守り都市住民の食料と安心を確保していくとともに、水田の遊水機能を維持することによって、洪水の防止にもつなげていこうとするスケールの大きな構想である。

 この南武蔵野での川崎平右衛門顕彰会と都市農業研究会の活動と、北武蔵野でのサークルファームと地産地消運動を連動させることによって、流域単位で埼玉県と東京都を一体化させての地域自給圏のモデルづくりを一歩踏み出していきたい、と夢見ている。

(農的社会デザイン研究所代表)

日本農民新聞 2023年1月5日号掲載

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