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〈行友弥の食農再論〉未来を選ぶ「てまえどり」

2022年11月25日

 スーパーなどの食品売り場で「てまえどり」という表示を見るようになった。説明は不要かも知れないが、食品ロス削減の取り組みだ。手前に置かれた商品、つまり賞味期限が近いものを買うよう勧め、期限切れによる廃棄を減らす。少しでも新鮮なもの、日持ちするものを買いたいという消費者に再考を促す効果は大いにあるだろう。

 文章で書くとこんなに長くなることを、たった5文字で伝える「てまえどり」。誰が考えたかは知らないが秀逸だ。行動経済学でいう「ナッジ」(ひじを軽くつつくように注意喚起し、望ましい行動に導く)の一種といえる。環境や人権など社会問題の解決につながるエシカル(倫理的)消費が叫ばれているが、理屈っぽい説明だけでは十分に伝わらないことも多い。こうした工夫が変革のカギだろう。

 食品ロスはいまや「もったいない」だけでなく、地球環境問題だ。廃棄食品を焼却すれば二酸化炭素、燃やさずに投棄すればメタンと、いずれも温室効果ガスが出る。食料を輸入に依存する日本はフード・マイレージ(食料輸送による環境負荷)やバーチャル・ウオーター(仮想水=海外での食料生産に費やされる水資源)の問題も大きい。食品と一緒に捨てられる容器・包装は海洋プラスチック汚染の一因でもある。食品ロスの削減はそれらの改善につながる。

 国連の持続可能な開発目標(SDGs)は「1人あたり食品廃棄量の半減」を掲げ、今月6~18日に開かれた国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP27)でも、同じ目標が議長国エジプトから提起された。英国では、食品ロスを減らすため賞味期限の表示をやめる動きが広がっているという。

 農林水産省によると、日本の食品廃棄量は20年度で推計522万tとなり、12年度に推計を始めて以来、最も少なくなった。それでも国民1人あたり茶わん1杯近い113gを毎日捨てている計算だ。まだ減らす余地はあるはずだし、減らすべきだろう。

 「てまえどり」は小さいが、その重要な一歩だ。経済的に苦しい世帯や共働き・ひとり親世帯などでは「わかっていても難しい」面はあろう。しかし、未来のため、まずは「てまえ」から変えていきたい。

(農中総研・客員研究員)

日本農民新聞 2022年11月25日号掲載

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