6年前、AKB48の「恋するフォーチュンクッキー」という曲がヒットした。失恋しかけた友人(自分?)を「未来はそんな悪くないよ」と励ます歌詞。他愛もない恋の歌と言えばそれまでだが、東日本大震災や福島原発事故の被災者への応援歌にも聞こえた。
「フォーチュン」は英語で「運命」や「幸運」を意味する。語源はローマ神話の豊穣の女神フォルトゥーナだ。豊かな実りは常に約束されているわけではなく、不作の年も必ずある。だから「運命」の意味も持たされたのだろう。
「おお、フォルトゥーナ!」の叫びで始まる合唱曲がある。南ドイツの修道院から発見された古い詩歌集に20世紀の音楽家カール・オルフが曲を付けた「カルミナ・ブラーナ」である。最近初めて聴いたが、壮大なスケールと強烈なリズムに圧倒された。クラシックよりロックやジャズが好きな筆者も血が騒いだ。
詩句を書き残したのは中世の神学生や修道僧だが、世俗的な内容が多い。中には性愛や飲酒の快楽をうたった奔放なものもある。冒頭では人にすべてを与え、また奪うフォルトゥーナへの畏怖が語られる。
震災と原発事故で多くを失った福島の被災者のため、この曲を歌う企画「音楽の架け橋」が来年5月に催される。会場は福島と東京の2カ所。東京の市民合唱団「コール・フォルトゥーナ」が母体となり、福島では地元の合唱団や音楽関係者が大勢参加する。
今年5月にはモーツァルトの「レクイエム」を歌った。彼の遺作にもなった重厚な鎮魂歌から、生の喜びを歌う「カルミナ・ブラーナ」へ。陰と陽の好対照だが、いずれも復興への思いが込められている。タクトを振るのは、宮城県石巻市出身のプロ指揮者で自身も実家が津波に流された四野見和敏氏。東京の合唱団長は全農で広報部長などを務めた桑島寛之氏だ。
今年5月のコンサートでは、参加をきっかけに友人との再会を果たした被災者もいたという。AKBが歌ったように「人生捨てたもんじゃないよね」と思えたら、フォルトゥーナも微笑むだろう。
東京側の参加者がまだ足りないという。参加してみたい方はChor.fortuna.info@gmail.com へご連絡を。
(農中総研・特任研究員)
日本農民新聞 2019年10月25日号掲載