日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2026年9月5日号

2026年9月5日

〈本号の主な内容〉

■このひと
 農研機構が取組む研究開発と展開
 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
 (農研機構=NARO)
 理事長 千葉一裕 氏

■家の光文化賞JAトップフォーラム 2026
 家の光文化賞農協懇話会、家の光協会が開催
 「組織基盤強化の戦略としての教育文化活動~協同活動と総合事業の好循環に向けたトップの役割~」をテーマに

■JA全農 令和8年度事業のポイント
 施設農住部部 鈴木誠 部長

■イチゴ定植期の病害虫と防除対策
 栃木県農業総合研究センター 研究開発部 病理昆虫研究室 室長 山城都 氏

■蔦谷栄一の異見私見「『コモンズとしての食と農』からの日本農業再生」


このひと

 

農研機構が取組む研究開発と展開

 

 

国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
(農研機構=NARO)
理事長 千葉一裕 氏

 

 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構=NARO)の新理事長に、千葉一裕氏が就任した。農研機構は4月から第6期中長期計画をスタートし、食と農に係る技術の研究開発を展開している。重点的に取組む事項や研究と社会とのつながりについて、千葉理事長に聞いた。

やり遂げる力を活かし 日本の基盤力を維持する

■理事長に就任した今の思いを。

 日本の基盤力を維持するためには、食や人の健康、環境といった人が生きる上での基本を良くしていくことが重要です。この部分で農研機構は大きな役割を担っていると認識しています。

 農研機構の強みは最後までやり遂げること。正しい解決策や技術を提案することはもちろん、実際に課題が生じても、解決するまで取組む力を持っています。この強みを高め、国民的な理解も広げていきたいと思います。

 また大きな構想を掲げるのも大切ですが、何も起こらない「日々の安寧」を守る大切さを社会に伝えていくのも役割の一つだと考えます。

知識と技術を結び社会実装に つながる研究開発を

■第6期中長期計画におけるセグメント体制と重点的に取組む事項について。

 第6期中長期計画では、研究の出口を明確にしたことが大きな特徴です。

 セグメントには、高収益地域スマート生産システム、ネクスト生産基盤システム、革新的バイオ・フードシステム、環境変動適応生産システムといった4つのセグメントがあります。そして、これらを支えるAIデータ、ロボティクス、遺伝資源、高度分析技術等を研究する基盤技術研究本部があります。各セグメントが役割を果たすことはもちろん、セグメント同士の壁を越え知識と技術をつなぎ、実際に社会で動くまで責任を持つことが大切です。

 農研機構はこの部分に深い見識を持っていると思います。目に見えるような形でいかに研究開発を進め、社会にシステムとして導入できるかどうかが重視すべき焦点になるのではないでしょうか。

一気通貫で動く体制を リーダーとしての人材育成も

■研究組織の運営における課題や対応は。

 100年以上前の日本の農業は、食を守り、養蚕業を支え、輸出外貨を獲得する屋台骨としての役目も担っていました。その後、農研機構の前身や大学等が細分化され、各分野の専門性や競争力も高まっていきました。しかし、現在は細分化だけでは社会を変えにくい時代です。将来予測の複雑化や価値観の多様化により、突出した技術で社会を変革することが難しくなっています。

 このような時代に変化を生むには、全てがつながっていることを認識することがカギになります。農研機構で考えれば、組織が本来あるべき姿を機能させるために、一気通貫で動く体制をつくること。そのためには、ガバナンスの改革を進めていかなければいけません。いくつかの価値観や方向性を持った組織が集まるとそれぞれ目標を持っています。そこからスケールメリットを出すには、全体としてどのような形にするべきか検討していく必要があります。

 併せて、全体的な目線で把握し責任を持つことができる人材や経営的な感覚を持つ人材をリーダーとして育成し、人材の育成体制も整備していくことが大切です。

知識や技術を 社会に合わせた形で提供する

■これまでの研究成果、社会実装への姿勢は。

 農研機構において、基盤的な知識の集積は進んでいます。しかし、知識が別々に存在しているだけでは社会を変えることはできません。知識や技術を使う人の立場に立って翻訳し、取組む過程で出た課題を把握して、実証・規制・資金・事業主体まで設計することで初めて社会実装につながります。そのため農研機構は研究開発だけではなく、実証をはじめ、標準化や規制対応、人材育成、資金調達、事業化まで一体的に進めています。

 スマート農業では、自動走行農機やロボット、センシングAI等を組み合わせ、少人数でも大規模で精密な農業生産ができるよう進めています。研究開発はかなり進んでいますが、これからの農業を支える中核的な技術として活用できるのかまだ課題があります。農業者や地理的要因を含めた環境等を見据え、取組みを推進していきます。

 気候変動に対応する品種と生産技術に向けた取組みでは、高温下でも品質・収量が低下しにくい品種や多収品種、病害虫の抵抗性を持つ品種等をスマート育種や遺伝資源の活用で迅速に開発できるようになってきました。今後はこの先進性を磨き、過酷な条件下でも生産できる高付加価値を持った品種を開発していく予定です。

 家畜の感染症や侵入病害虫の対応も取組むべき事項です。海外でまん延している口蹄疫や鳥インフルエンザはなんとか対応できている状況ですが、いずれ世界的な課題になると思います。検査やワクチン開発を展開しつつ、情報発信を通じ国民的理解や支援につなげていきたいと思います。

 バイオ技術や食品技術の分野では、微生物を活用したタンパク質や機能性食品等の新素材を開発しているところです。

 環境と生産を両立する技術として、長期的に土壌中に炭素を貯留させるバイオ炭が挙げられます。炭を活用する技術は、土壌炭素の増加や肥料農薬の使用量の最適化等において重要な解決策の一つになっています。この取組みを上手く進めることができれば、日本が世界をリードすることにもつながってくると確信しています。

 AIの活用も検討すべき時代になりました。時にはその構想力は研究者を上回ることもありますし、あるいは複雑な微生物の培養なども自動的にできるようになっています。しかし、農業はAIだけでは達成できません。工業製品の製造はAIに置き換わっていくと思いますが、農産物は農業者が生産することに大きな価値を持つようになっていくのではないでしょうか。この価値を農業者に還元できるシステムや国民の食と健康が維持できる供給体制を構築することが重要です。

日本農業の潜在性を発揮するために農業の健全な発展を

■農研機構としての役割を発揮するためには。

 まずは農業者の皆さんに役に立つこと。そして農業者の収益を向上させることが何よりも大切です。併せて、農業への新規参入を考えている若者の参画を広げていかなければいけません。

 日本の農業は潜在性を秘めています。しかし農業者の減少や経済的な問題から、農地等の自然資本が持つ本来のポテンシャルが上手く活用されていない状況です。これがさらに続けば、自然災害や鳥獣被害等が顕在化し、都会に住む人もその影響が大きくなってくるでしょう。だからこそ、農業を健全な形で発展させることがこの防止につながり、食料安全保障の維持や自然資本の回復にも波及するのではないでしょうか。

 農研機構としてはエビデンスを通じ、経済的なビジョンを前提とした事業提案や栽培方法の改革等のマクロ的な対策をはじめ、バイオ炭等の資材の研究開発といったミクロ的な対策も社会に提案していきます。

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